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3-36.経験と知識は活かすもの

36.



 すいすいと、干してあったトウモロコシの葉を組み合わせて篭を編んでいくその手をバードは興味深く注視していた。


「凄いな、まるで職人だ」

 感心してくれているのだろうけれど、言われたベスの心情としては複雑だ。

 使っていれば物は壊れる。手入れができずに雑に扱ってばかりいれば余計に壊れやすくなる。

 そうしてもう随分と長い間、インテバン男爵家には日常品を買い替えるお金に苦労し続けていた。

 つまり本来ならば捨てるべきものを使って自分で直したり作ったりするしかなかったのだ。

 

 篭を編み上げると、それに合わせて蓋にできる浅めの物も作る。本当の職人という訳ではないから完全にピッタリではないけれど構わなかった。

 出来上がった篭の目に、ヘアピンを使って先ほど購入してきたレースを、きつくならないように気を付けながらゆったり巻きつけるようにして編み込んでいった。


 篭の縁や側面が華やかなレースで覆い隠されていく。

 ふわふわのレースが本体と蓋のズレも埋めてくれたので、ちゃんと蓋として機能することを確認して、ベスは自分の仕事に満足した。


「なるほどね。少し捻りを加えてから篭に編み込んでいるのでレースの攣れも気にならない。底にもレースを編んだ布を敷けば菓子を入れる箱として十分だ。いや十分すぎるほど美しいな」


 今は敷物にするレースを編んでいるベスの手元と篭を見比べながらバードが感心していた。


 勿論、ベスはレースを編んでいるのではない。篭を作る要領で中に敷く物を編んでいるのだ。

 いつか何かに使おうと思って取っておいた、元は白いテーブルクロスだった端切れを芯にして、レースで見た目を補って敷物を作っていく。


 洋裁の特別な技量を必要としないそれは、素人の作とは思えないほどの仕上がりとなった。


「想像より、ずっといい感じに仕上がったわ」


 作り上がった3つのパーツを組み合わせると、売り出そうとしている素朴な菓子を高価なものに見せ掛けるには十分すぎる出来あがりになった。

 耐久性も必要ない。菓子を傷つけずに入れておければいいだけなのだから。


「日焼けが目立つレースは、トウモロコシの髭の部分や玉ねぎの皮で煮て、色を染めてしまおうと思っているの。綺麗な黄色に染まるのよ。ラッピングのリボンにバリエーションがあっても楽しいでしょう?」


「そうなのか。凄いな、廃棄して当然のものが染料になるなんて知らなかったよ」


 それが普通で当然のことであろうと、ベスは少し居心地の悪い気分になった。

 令嬢が知るべき知識ではないし、ましてや実践したことがあるなど自慢にはならない。

 だが、使用人が減って邸内の手入れが行き届かなくなり、新しく買い替えることもできなかったベスには必要な知識と技術だった。

 レースをヘアピンで潜らせて巻きつけたこともそうだ。ベスはこれまで何度も、薄くなって擦り切れたシーツを裂いたものを縫いさして、破れたカーテンやソファーカバーを繕っていた。糸で縫い合わせただけでは弱くなった生地の補強にはならず、針を通したそこからまた裂けていくばかりだったが、領民が裂いた生地で肘や膝に開いた穴を塞いでいるのを知って教えを請うたのだ。


 初めて自分で繕ったカーテンを自分の部屋に掛けた時の、これで寒さを凌げるというホッとした気持ちと、古びたカーテンを自分で繕うことになった惨めさと、出来上がりの歪さに、泣きたくなったことを憶えている。


 だが、その惨めさがあったからこそ、今こうしてケイトリン夫人から出された課題を答えることができるのだ。不思議なものだった。


 どんな知識でも、いつかどこかで役に立つものだ。




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