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3-31.婚約者からの誘い

やっとヒーロー登場\(^o^)/長かったー





31.



「ドレスですか? もう、十分作って頂いておりますわ、バード様」


 どこか平坦な返答に、バードの眉が中央へと寄る。

 手にしたグラスの中身を揺らしながら、ベスを睨むように見つめるが、一向に視線を合わせようとしない婚約者に対する苛立ちが募る。


 まるで我慢比べだと、バードは怒鳴り出したくなる気持ちを治めて詰めた息を吐いた。


 ここ数日のベスのバードに対する態度はずっとこうなのだ。バードは、まるで壁に向かって話し掛けているような気がしていた。話し掛けることを躊躇してしまいそうになるほど、素っ気ない。


 今日のこの話題ならば関心を引けるだろうと思っていたというのに、このままでは惨敗色が濃厚だ。


 一体何が気に喰わないというのか。

 バードとしては考え得る限りベスを優遇しているつもりだった。バードが嫌いな貴族の女性特有の不快さを煮詰めたような母親にも譲歩している。


 こと、目の前でまるでバードを透明人間か何かのように視界にいれようとしない女性に関する限り、まったくもってバードの中の理想や予想どおりに行ったことがないのだ。

 眉間に皺もできるというものだ。


 しばらくそうしてお互いが、相手の作り出す空白の時間に耐えたものの、結局時間切れを前にして、しびれを切らしたのはバードだった。


「ほう。いつ、君は、十分な数のウェディングドレスを作ったのかな、エリザベス?」

 いけないと思いつつも、バードの声に嫌味が混じった。

 できることなら友好的な雰囲気に持っていきたかった。だがどれだけ脳内でシミュレートを重ねようとも彼女との会話が上手くいった試しなどなかった。


 そうして今回は特にひどい結果を生みそうだと、バードは鬱になりそうだった。


「っ。ご、ごめんなさい。私、勘違いしてしまって。でも、もう私もいい歳ですし、あまり華美なお式にはしたくないの」

 視線を外しながらまたしても後ろ向きな言葉を紡ぐ婚約者の姿に、バードはうんざりし始めていた。

 バードは地味な式になどしたくなかった。どうせバードの金で開くのだ。そしてそんなことは周囲の誰もが知っている。インテバン男爵家が婿を取る形になるとはいえ、すでに没落寸前のインテバン家にそんな振る舞いはできる訳がないのだから。

 それなのに安上りな式になどしたら、バード自身の沽券に係わるというものである。


「君の、そういった節約精神は嫌いじゃないけれどね。慶事はきちんと祝わねば。ようやく天候が落ち着いて生活が上向きになってきた領民にまで、自粛を強要することになってしまう」


 つい憤慨がそのまま強い批難の言葉となってバードの口から飛び出て行く。


 そして強いその言葉はそのまま、視野が狭いと言われ続けて、これでもなんとか直してきたつもりであったベスの心へ深く突き刺さった。


 はくはくと口を何度も開け閉めしては言葉を探し、顔色を蒼褪めさせたベスの口から出たのは、結局何の変哲もない謝罪の言葉だけだった。


「浅慮でした。申し訳ありません」


 傷つけてしまったことがわかっても、元をただせばバードの誘いを無下にし、名誉を傷つけるような発言ばかりするベスへの苛立ちが原因である。

 いま受けた謝罪にしても理由を納得している訳ではないのだろうとしか思えなかった。

 立場が弱い存在として、批難の言葉を受け入れるしかなかったからではないかと穿った。


 だが、ここでそれを指摘しても目の前で肩を震わせているベスからは同じ言葉しか退きだせないであろうことは明白で、バードはつい大きくため息を吐いた。


 ここで部屋から飛び出すのも、喧嘩を始めるのも大人げなさすぎるだろう。バードは仕方がないと自分から折れることにした。


 軽く肩から力を抜く為にも、息を吐いてからできるだけ軽い口調を心掛ける。


「言葉が過ぎたようだ。君と喧嘩をしたい訳ではないんだ。それで? 婿入りする爵位のない男に、婚約者たる跡取り娘であるご令嬢のウェディングドレスを選ぶ権利を与えて貰えるのだろうか」





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