3-21.評価と褒賞
21.
『インテバン男爵領でもちゃあんと皮の柔らかいトウモロコシを選んで作らせてやれば、或いはこんなに領民に苦労をさせることもなかったでしょうに。え? そういう種を選んでも皮が厚くなる? ……へぇ、そんな事もあるんですなぁ。あー、そういえば皮の厚いトウモロコシをわざわざつくる地域もあるそうですな。加熱すると皮が破裂して膨らむんだろうですよ。安価で旨い菓子にできるそうです。そういう種類なら良かったんでしょうなぁ』
ベスに対して、領地経営を実際に行ったことも無いのに上から目線で助言をしてくる人という者は少なくない。
本物の大叔父からの手紙を届けてくれたその男も、そういった一人だった。
だが、ベスは聞かされた言葉の中にあったヒントに夢中だった。
──インテバン領で採れる皮の厚くなったトウモロコシも菓子にすることができるのではないか。
聞かされたアイデアを元に試してみたいとは思うものの、失敗して貴重な食料を無駄にしてしまうと思うと実行に移す勇気がでなかった。
「ヒントは大叔父様の遣いとしてきた方が齎して下さったものだし、お菓子そのものも私が考えて作ったものでもないわ。知識も技術もないもの」
フルフルと曖昧な微笑みを浮かべて首を横に振った。
「ヒントを戴いた後も、すぐに動き出せた訳でもなかったし」
可能性に気が付きはしたものの、失敗を恐れて動けなかったベスに、恐れてばかりいないでチャレンジしてみればいいと、応援してくれる人がいたから動けただけだ。『やってみろよ』『大丈夫さ』と言って貰えたから、優柔不断なベスにも行動がとれた。
その人がいたから──。
「そこに誰の助言があったとしても、実際に試作に挑まれることを決められて実行したのは、エリザベス様です」
思いがけないミズ・メアリの言葉に、ベスは内なる思考に囚われるのを止めた。
「え?」
意外な言葉に呆けた様子のベスを、ミズ・メアリが女家庭教師の顔で見下ろしている。
瞳を揺らして見上げたその顔は、少し怒って見えた。
「見舞いの手紙と慰労金を届けてくれただけの相手と、ほんの少しの時間に交わした雑談から、自領に活かせるかもしれない可能性を見出し、実現可能なレベルまで持っていったのも、すべて最終的にはエリザベス様がお決めになられて差配を取られた事で得られた結果です。それを自分の手柄ではないというのは謙遜を通り越して、不快なレベルです」
それは怒った口調ではあるものの、ベスがよく知っている筈の自国の言葉であるにも関わらず、なぜか、ベスの頭の中で意味を成すのに時間が掛かった。
呆然として、言われた言葉を繰り返した。
「不快な、レベル……?」
突然うまく働かなくなった頭を、ベスがゆっくり傾げる。
茫洋としてうつろな視線のままでいるベスを、女家庭教師の強い瞳が射貫く。
「えぇ。あなたの指示を受けて努力した者たちに対する侮辱でもあります」
「侮辱?! そんなっ」
ベスは慌てた。
まさかと思った。侮辱になる可能性があるなど、ベスにはまったく思いつきもしなかった。ちなみにそこまで言われてもどこが侮辱になるのか未だにベスには分からない。
「あなたに向けられて伝えられていようとも、その誉め言葉は家そのもの、引いては一族が治める領地領民に対するものであると、いい加減理解するべきです」
それはベスにとってはまるで、突然受けた啓示のようだった。
「あなた個人を褒めている言葉にしか聞こえなくとも、あなたが美しくある為に、あなたが賢くある為に、尽力してくれた者がいる筈です。その者たちの努力の成果なのだと思ったなら、軽々しく否定するなどありえないでしょう」




