3-18.反省すべきは
18.
「それは失敗しましたね、エリザベス嬢」
勿論講義を受けている部屋に入ってから、昨日のヴァリアン侯爵邸での出来事を洗いざらい説明させられた総括として女家庭教師から頂いた言葉に、ベスは心の底から落ち込んだ。
「ハイ、そのようです。ミズ・メアリ」
目線を下げて反省を述べたが、返されたのは労りの優しい視線ではなく、むしろより冷たい蔑みの視線だった。
「その反省は、自分のどの行動についてですか? どうすれば良かったと思っているのか、答えなさい」
「え……?」
呆けたように、ぽかんと口を開いてしまいそうになって、ベスは慌てて口を閉じた。
想定外の質問に、ベスの頭は混乱した。
ベスのしでかした失敗は明らかに、侯爵夫人がお戻りになる前に帰ってきてしまった事だ。
その証拠に、昨夜バードへ報告した際も、「お戻りになる前にお暇した」ということを告げた途端、恐ろしい形相で睨まれたのだ。その事ひとつとっても、ベスの判断が侯爵夫人に対するものとして相応しくなかったということだろう。
それ以外は、お茶会の席ではかなり話も弾んだし笑顔も引きだせた。インテバン男爵領の新しい特産品についても高評価を得た自信もある。
それなのに。なぜ目の前の女家庭教師はこれほど険しい顔をしているのだろう。
嫌な予感に舌を縺れさせながら、ベスは自分が仕出かしてしまったと思う失敗について話した。
「まだそう思っているのね。はぁ。貴女には場面場面での自分の立ち位置というものに関してもう一度よく理解して貰う必要がありそうです」
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「……そんな。私は、あの場で怒るべきだったなんて。たかが男爵令嬢でしかない、私が?」
それを伝える自分を想像しただけで、ベスは真っ青になって震えあがった。
まだ理解できていないのかとばかりに、女家庭教師が片眉を上げる。どうやらベスの態度がお気に召さないらしい。
「いいえ、正しくはそのような馬鹿にしていい相手ではないと相手に思わせなくてはいけなかった、ですね」
昨日の対応を批難された挙句、返す刀で怖気づいたベスの態度をもばっさりと切り捨てられた。
けれども、どれだけ女家庭教師から言葉の刃で抉られようとも、
ベスには侯爵夫人の行いを正すような真似はできそうになかった。
「もっと無理なのではないかしら」
ほう、とため息を吐き素直に感想を呟けば、あっさりと返された。
「けれどもそれが出来なければ、社交などできる筈もありません」
キッパリはっきりと告げられた言葉の正当性について、これまで碌に社交界について知らなかったベスも理解できるようになっていた。
確かに、爵位が上の相手からであろうとも、不遜な態度を取らせない・侮らせないことができないままでは商談どころか単なる交流すら難しいだろう。
地方の小さな町だ。小麦の生産以外に何の取りえもなく、その小麦すらここ二十年近くも碌に生産できなかった。
領民の命すら守れない領主家の、たったひとりの跡取り娘であるベスに、それができないとなれば、残された道はただひとつだ。
王家へ、爵位を返上するしか道はないだろう。
「……そんなの、どうすればできるというの?」
胃の腑が重く冷たくなっていく。
「簡単です」
わざとらしいほどにこやかに、はっきりとした口調で、女家庭教師はベスへとそれを告げた。
「相手が一目置くような存在に、早くなってください。できるようになって貰わねば困るのです。あなただけでなく、あなたの家庭教師である、私もです」
にこやかに告げられたその言葉に責任という重圧を感じて、ベスはふたたび身震いした。




