3-13.侯爵邸にて
13.
その後は、いろいろと大変すぎて、ベスは心の底からバードの言葉に従わなかった事を後悔した。
主に、母シーラの暴走が酷すぎて。
「んま! 素晴らしい絵ですわね。有名な画家に描かせたのですか?」
「素敵な花瓶ですこと! お幾ら位したのかしら」
「ものすごく大きなダイヤモンドですわねぇ! えっ、ホワイトサファイヤ? 何ですか、それ。ダイヤモンドの代替品ですか?」
目に入るもの全てに対して感嘆の声を上げる。
素直にそのすばらしさに感動して声を上げただけなら良かった。だが、母シーラの言葉には必ず続きがあって、そのどれもが品性や知性を疑われるような事ばかりを口にしていくのだ。
興奮し過ぎていたのだろうとは思うが、それで慰められるのは娘であるベスだけだ。
これから親族となろうという侯爵家の方々には何の言い訳にもなる訳がない。
「ほほほ。インテバン男爵夫人たら。面白い冗談ですこと」
美しいビジューで彩られた扇で口元を隠したケイトリン夫人からまったく笑っていない目で流されても、まったく動じない母シーラにベスは眩暈がした。
「おかあさま、恥ずかしいので少しお口を塞がれた方がよろしいかと」
何度か囁きかけては見たものの元々ベスの言葉に耳を傾けた事のない母シーラが、ベスから諫められようとも受け入れる筈もなかった。
バードから何か言って貰おうと思って視線を送るものの、先ほどバードの言葉を無視するようにヴァリアン侯爵邸へ留まってしまったせいなのか、バードはすっかり剥れてしまってそっぽを向いたままだ。ベスと視線を合わせようともしない。
ベスは胃の腑が捩れるような思いで、なんとか母を抑えなくてはと思い悩んだ。
ぎゅっと両手を合わせて祈るようにしながら必死に考える。
そんなベスの、バードが立っている反対側の肩が、突然重くなった。
「ふふ。自慢の弟が選んだ妻に、こんな面白い姑のいるなんて俺の想像を遥かに超える。椿事……いや、珍事かな」
「え、あの……」
驚いたベスが顔を上げると、そこにはバードにどこか似ているものの、どこか全てに対して面白がっているような軽薄な表情をした男性が、ベスの肩に肘を置いて顔を覗き込んでいた。
初対面の男性から、これほど気安げな態度を取られたことなど無かったベスは、思わず身体を固くして声を呑んだ。
まるで、一瞬にして棒を飲み込んだようになったベスを、男性が嗤った。
「やぁ、初めまして。僕の未来の義妹が、まさか僕より歳上の、彼の有名なインテバン男爵家のご令嬢だとは思わなかったな」
ベスを覗き込むその瞳には、薄っすらと悪意が滲んでいた。
「ねぇ、今度一緒にふたりでお茶しようよ。あいつの秘密を教えてあげるからさ」
「え?」
――バードの、秘密?
その言葉にベスは興味を引かれたものの、思わず視線を合わせた先にあった切れ長でバードのモノに似ているようでまったく違う輝きを持った瞳に怯む。
その瞳の強く濁った輝きは、間違いなく、いたぶることができる獲物を見つけた、肉食獣の視線だった。
間近から向けられた悪意ある視線に、ベスの背中に寒気が奔った。
「止めろ、ヴィル。あっちいっとけ」
「おいおい。兄に向って何て言い草だい、可愛い弟よ」
「ベスも。こんな屑男の相手をするんじゃない」
「あはははは。本当に酷いなぁ。やだな、妬いてるのかい? 大丈夫だよ、安心して。彼女は僕の好みじゃあないさ」
あまりに突然、ハッキリとバードの兄だという男性から卑下されて、ベスは蒼白になった。
「ヴィル!」
バードがぐいっとヴァリの襟元を掴んで引き寄せると共に、ベスの身体をグイっと後ろへ押しやる。
「きゃあっ」




