表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/136

3-11.初めての顔合わせの日

※回想回 ベスがヴァリアン侯爵家へ顔合わせに向かった時のお話です※




11.



「よく来てくれたね。嬉しいよ。我がヴァリアン侯爵家一同、最後に残った放蕩息子のお嫁さんになってくれる人と会える日をずっと夢見てきたんだ」


 愛想のよい言葉とは裏腹に、目の前に立つ高貴な人の目は冷たくベスを見下ろしていた。

 ヴァリアン侯爵家から寄越された迎えの馬車から降りたベス達一行を迎えてくれたのは侯爵夫妻自身だ。

 その後ろに控えて使用人たちが一列に並んでいる様は荘厳ですらある。

 没落寸前というよりも崖っぷちギリギリにいながらヴァリアン侯爵家と縁戚になろうとしている身の丈を知らないインテバン男爵家の人間に対して、ヴァリアン家の力を見せつけられている気がした。


 強い視線に射貫かれて、ベスはなんとかカーテシーの形だけは取ったものの、の焦る気持ちとは裏腹に声が出ていかない。

 どこか愛嬌があってチャーミングなバードから、甘さを抜いて強面にし渋味を増したようなフォルカー・ヴァリアン侯爵を前に、ベスは胃の腑が冷たくなった。


 それでも、ぎこちなく今日の為にバードが贈ってくれた真新しいドレスの裾を抓んで腰を落としてカーテシーをとる。しかしそれ以上の動きをとることも挨拶の口上を言の葉にのせることができずにいたベスの、その縺れた舌が下の唇を嘗めた。


 その瞬間、ベスには、後ろに控えていたヴァリアン侯爵夫人に睨まれたことが、頭を上げなくとも分かった。

「はぁ……」と、ほとほと呆れたとばかりに、溜息を吐かれたからだ。

 あまりに自分が情けなくなり、ベスは一度強く瞼を閉じて力を籠めた。すると震えてはいたが声が出せた。


「いん、インテ、バン男爵家いち女、エリザベス、と申し、ます。ほん、本日は、お、まねき、戴き……あり、ありがとう、ございます」

 出せはしたが、その声も段々小さくなっていく。

 自分の名前さえハッキリと告げられなかった自分が惨めで視界が涙で揺れるベスの身体が、ドンと横から母シーラの手によって押し退けられた。

「本日はお招き有難うございます! ヴァリアン侯爵家の方々と縁続きになれるなんて! あぁ。本当に光栄ですわ!」

 侯爵の手を勝手に取り、両手で握手の形作って激しく上下に振る。

「どうか私のことはシーラとお呼びくださいませ」

 満面の笑みで名乗る母シーラに、ベスはあっけにとられて呆然としてしまった。

 シーラが次の獲物として見定めたヴァリアン侯爵夫人の手までをも強引に掴みにいった所で、ようやく我に返って母の失礼な態度を諫めなくてはと慌ててその肩を掴んで引き剥がそうとするも、ついこの間まで寝たきりであったシーラのどこにこんな力があるのか、ベスの手は軽く払いのけられてしまった。

 厭そうに眉を顰めたヴァリアン侯爵夫人の視線に、ベスは生きた心地がしなかった。


(……帰りたい)


 今しがた出迎えて貰った侯爵に挨拶をしたばかりであるが、ベスは馬車に駆け込んで家に戻りたくて仕方が無くなっていた。

 ベスは娘として、下位である男爵家の人間が勝手に侯爵家の人間の手を掴み握手へ持ち込むような不作法な行為を、母シーラが取った事が信じられないほど恥ずかしかった。


 シーラは自分の貴族としての青い血を誇り、自分の娘に平民の血が混じったことを恥じていた。そんなシーラが貴族としてのマナーを守れないなど。目の前で見ても信じられない気持ちであった。


 元々シーラは娘の婚約者から金銭的に世話になっていながら平気で他の男性の第二夫人になる話を進められるような人間である。

 ベスは自分の目を隠して母の悪い箇所を見ないようにしていただけだ。


 この結婚は元より無理がある。

 行き遅れで父に元平民を持つ男爵令嬢であるエリザベスでは、栄えあるヴァリアン侯爵家の令息を婿に迎えようなどとすることは、たとえそれが三男であったとしても分不相応というものだ。ベス自身だってそう思っているが、それ以上に傍からもそう判断されているだろう。


 だが、今。インテバン家で唯一人正しく青い血を引く母親さえも、不作法すぎて縁戚とするには相応しくないと裁定が下されたのだ。


 それを目の当たりにすることになった衝撃に、ベスは気が遠くなった。


「父さんも母さんも。いい加減にしろよ」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ