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2-10.空回る

10.



 2人が案内された席は、庭にあった噴水が見えるオープンデッキにあった。

 店内は薄暗く、流れる生演奏の音楽で他のテーブルでの会話は聞こえない程度にはプライバシーに配しているようだ。

 けれど、一段高くなっているデッキに設置されているそのテーブルへ辿り着くには、店内をゆっくりと歩いていった先にある2段しかない小さな階段をのぼらなければならない。なんとなしに注目を浴びる席でもあった。


 まるで本当に愛しい婚約者に向けるような優しい瞳で自分を見下ろしているバードのエスコートを受けて歩きながら、確かにこの席なら効果的にバード医師には婚約者がいるということを知らしめることができるだろうとベスは感心していた。



 ただ、料理はどれも絶品、とはいかなかった。

 鴨は少しパサついていたし、マスは少し臭みを残していた。もしかしたら食前酒でのサービスがあまりにも良かったので、ベスの中で期待値が高くなり過ぎていたのかもしれない。

 もしくは、ベスの食事のほとんどが、領民たちがその好意で届けてくれる本当に獲れたて新鮮な川魚などを持ってきてくれたものばかりになっていたせいかもしれない。

 それでも、マスのムースの後に出てきたレモンシャーベットとデザートのプラリネアイスだけは最高に美味しかった。


「ごちそうさま。美味しかったわ」


 それでも綺麗に食べきって礼を告げると、バードが面白い物でも見たように笑っていた。


「君はちゃんと食べきるんだな」


 その言葉に、ハッとした。貴族令嬢としては最後のひと口を残すのがルールだ。

 学生時代は確かにベスもそうしていた。けれど、今のベスにはそんなことはできない。

 けれど、バードにしてみれば、ベスは自分の依頼を受けて婚約者役としてここにいるのだし、食事代も自分が支払うのだから、どれをどう残すのかまで指示する権利があると言いたいのかもしれない。

 なぜ今言うのか。次から気を付けて欲しいだけなら帰りの馬車の中でなり、2人きりの時にしてくれればいいのにと恨みがましい気持ちになったが、目を閉じて感情をやり過ごし、謝罪の言葉を口にした。


「……貴族令嬢らしくなくて悪かったわ。次からは残す様にします」

「ベス」

 咎めるように名前を呼ばれたが、ベスにはすぐには目を開けられなかった。


 じっとしていると、目の前の席から立ち上がる気配がした。


「あっ」


 子供の様に不機嫌を晒したベスに呆れてしまって、置いていかれるのかと思ったベスだったが、バードはテーブルを回ってベスのすぐ横に立つとその手を取った。


「踊ろう。せっかく綺麗にしてきたんだ。皆に見せびらかさなくては」


 本気で怒らせた訳ではなかったのだとベスはホッとして、「喜んで」と笑顔で席を立とうとした。



「あら! バード医師ではありませんか。お会いしたいと思っていたらこうして会えるなんて! これって運命というのではありませんのこと」


 そこに姦しい声が割って入って、ベスは驚いた。

 艶やかなブルネットを巻いて垂らしている。ドレスは華やかな赤だ。

 体の線が出るような大人っぽいデザインで、まだ少女といってもいい目の前の娘には相応しいとは思えなかったが、自信の溢れる表情と若さで押し切っている。

 それにしてもパートナーがいる男性にいきなり話し掛けた上に、その腕に触るなんて、どれほど不作法なのだろう。ベスは、この令嬢の顔を知らなかったが、親はもっと厳しい教育係をつけるべきだと心の中で叱り付けた。



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