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2-7.初めての店へ

7.




「あぁ、着いたな」


 馬車が停車して、待ち構えていた馬丁が扉をゆっくりと開けた。

 先に降り立ったバードにエスコートされベスも馬車から降りる。



「ようこそいらっしゃいました、バード様」


 バードが連れてきた店は、いつものビアの店ではなく、ましてやインテバン男爵領でもなかった。

 隣のインテアン男爵領に少し前にできた新しい店だった。


 纏めてインテ地方と呼ばれてはいるものの、インテアン男爵領は、インテバン男爵領と隣り合わせているとはいえ、違う領地なだけあって大旱魃の影響がインテバン男爵領より少しだけ抑えられた。主な生産物がトウモロコシだったのも幸運だったのだろう。麦より暑さと乾燥に強い。ただし基本的に売価が低い。だがあの旱魃で売価は一気に上昇。生産量が低くなった分をある程度は補うこともできたそうだ。ベスは最近知った。



「こんなお店が、できていたなんて」


 インテバン男爵領に最近できたお店とは格が違うといわんばかりの、まるで王侯貴族が通うような華やかな店構えだった。実際には、少し裕福な商人たちが商用で使うことがほとんどだったし、たまに家族の記念日に奮発してくるような店だ。そこまで高級ではない。あくまで高級感を愉しませてくれる店だ。

 けれど、美しい錬鉄飾りがついた門をくぐり抜けると、店の入口へと続くアプローチには手入れの行き届いたトネリコの木の間に彫像が並び置かれて、その後ろには小さいが噴水が涼やかな水の音を奏でていた。どうやら店の窓から臨めるようになっているらしい。

 数年前まで旱魃に苦しんでいたとは思えない造形だ。いや、だからこそ、なのかもしれない。


 ぎゅ。ベスはエスコートしてくれているバードの腕に掛けた手に力を強めた。


「大丈夫。ここは最近できたんだけど、俺みたいな庶民でも気軽に行ける店だ」

 耳元で揶揄うように囁かれる。


「!! わ、わたしは」

 臆していることを悟られたくなくて、つい反射的に声を荒げそうになったベスは、慌てて口を閉じた。貴族令嬢として、あるまじき行為だと恥じる。


「わかってるさ。ベスは庶民じゃない、ちゃんとした貴族のご令嬢だ」

 少し困った様子のバードの言葉に、自分の言葉が誤解されたのだと判ったベスは、胸の奥が冷たくなった気がした。


 自分が誤解されることなどベスにとってはよくあることだ。

 今更それに傷つくことなどある訳がなかった。「あぁ、まただ」とため息をひとつ吐いたら忘れられる、その程度でしかない。


 その程度のことでしかない、筈だった。




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