2-2.仕事をする、ということ
2.
シーラだけではない。ベスの生活も一変した。
王立学園では普通に淑女科を卒業して、未来の男爵夫人として家政について学んでいただけのエリザベス・インテバンは、あの最初の破談から始まった一連の件により社交界から爪弾きにあうようになった。
次の婚約者が決まらないまま、母シーラに代わって男爵家の家政を取り仕切るとともに、父の領地運営の手伝いをするようになった頃、領地を襲った大旱魃による被害を抑える為に、国への補助の嘆願や金策へと領地を離れて駆けずり回るようになっていた父テイトに代わり、少しずつ任される仕事が増えていき書類の仕事は最後の決裁を除いてそのほとんどをベスが請け負うようになっていった。
天候不順を乗り越えて領地運営に少しだけ余裕が生まれた頃、父テイトが起死回生の渡航に踏み切ったのだ。
ずっと領地経営について手伝いをしてきた関係で、書類仕事に関する手筈についてはなんとなくベスにもできることにはできるのだが、効率のいい正しい領地運営に関する基礎知識はさっぱりで、何か事が起こるごとに応急的な対処で誤魔化し続けてきただけともいう。
つまり、ベスがやっていたことは手伝いでしかなかったのだ。
領地の運営が著しく滞ることなくやり過ごせていたので大丈夫だと思われていただけ。元々、旱魃の影響でおかしくなっていた部分に目を瞑ってやり過ごしてきていたからこそ、足りなくて当然で仕方がないインテバン男爵家が周囲から諦められていただけだ。
ベスの周りには、領主代行としての能力が足りていないということを指摘してくれる者すらいなかった。
しかし、この契約上の婚約を受け入れた事でベスが得た仕事、領地を区切って診療日を決めるという作業において、インテバン男爵領だけでなく隣のインテアン男爵領についても把握する必要があるということで、バードがベスの下に部下を雇ってくれたのだ。
情報を整理し判断する手伝いをする秘書と、領地の情報を臨機応変に収集してくれる少年の2人だ。
秘書の名前はアジメク。異国の血を引くというその人は、色黒で銀髪の涼やかな印象の、佇まいの美しい人で、元々バードの元で秘書をしていた。
紹介を受けた段階では男性だと思っていたが男装の麗人で、ベスは自分の間違いに赤くなるやら蒼くなるやら大変だった。年齢はベスより上とも下とも判断が付かない。ベスが歳を訊ねた時は笑顔で封殺された。
下働きの少年の名前はセタ。孤児院の出身だというがとても頭がよく、「インテ地方のことなら隅々まで全部知ってる」と豪語していた。実際に、インテ地方の住民について彼に聞いて答えが返ってこなかった事はなく、その記憶力の良さにベスは感心することしきりだった。
けれど、ちょっと口が悪い。顔合わせの第一声が「領主様の一人娘のオジョウサマだって聞かされてたから期待してたのになぁ」だったのには、さすがのベスも凹んだ。
この二人を迎え入れたことが、これほどベスの肩を軽くしてくれることになるとは、顔合わせの時にはまったく想像できなかった。




