3-52.インテバン男爵領の夢・2
52.
「あら。よく見ると色違いのものもあるのね。香りも違うわ」
「そうなの。ハーブを練り込んであるの」
「へぇ。甘さの中に爽やかさがあって、スッキリしていいわね」
今回は麦芽糖の色だけでは寂しいだろうと、庭で育つハーブを砕いて混ぜ込んだ飴も試作している途中だった。
「一度乾燥させたハーブを使う事で、エグ味が消えて食べやすくしてあるのよ」
「へぇ。そのまま使うのではないのね。乾燥させた方がいいなら、一年を通して同じ味が出せるのもいいわね」
「そうなの! でももっといろいろな味や色を出せるようになりたいわ」
すっきりとした味わいの緑色の飴のものと元の自然な麦芽の甘さを堪能できる琥珀色の飴と二種類になって見た目もよくなったとベスは自負していた。
まぁ緑といいつつベースとなる飴が茶色を帯びている為、落ち着いた緑にしかならなかったが、それでも味を選べるようにしたことはベスの中で画期的であった。
いつか、痩せたインテバン男爵領でも果物を生産することもできるかもしれない。
果物そのものを出荷はできなくとも、飴の中に混ぜ込んで味を増やせるかもしれない。夢だけは広がっていく。
夢見る表情になったベスに、エレーナが微笑む。
「なら。ねぇ、ハインリヒ侯爵領で採れた果物を使ってはどうかしら」
「え、でもハインリヒ侯爵領は遠いわ。果物を運んでくるのは難しいんじゃないかしら」
インテバン男爵領とは違い国の南に位置するハインリヒ侯爵領は中央に流れる大河の運んでくる肥沃な土により味が濃くおいしい果物が豊富である。特に管理しなくとも育つそれらにより元々豊かな領地であったが、現侯爵が異国より持ち込んだ農作物に関する育成管理法により、生産性が一気に増加していた。また品質も向上し高値で取引されている。
「でも、乾燥させたハーブでも作れるんでしょう? なら果物も乾燥させて運んでくればいいじゃない!」
「あぁ!」
ベスはそのエレーナの発言に、なるほど、と感心したものの、次の瞬間暗い顔に戻った。
「でも、我が家では高価なハインリヒ侯爵領の果物を仕入れるなんてできないわ。輸送量も必要だし」
ただでさえ果物は高級品だ。
それを仕入れて輸送するとなると専門の業者に頼むしかなくなる。
食品以外のものを送るならば、配達日数が不明な格安輸送を使う手もあるだろうが、口に入れるものである。しかも貴族相手が相手となる高級な菓子に使う材料だ。きちんとした専門業者を雇って運ぶか、自身が雇い主として輸送手段を確保するしかない。
「うーん。ウチって、お義父様のお陰で果物の生産量が倍増しているのだけれど、どうしても傷が付いたり形が悪かったりするものもできるし、廃棄することになってしまう果物も増えたのよ」
傷がついたり、収穫が遅れてしまった果物は腐りやすい。
形が悪いものは、輸送時に隣と擦れあって潰れてしまうことも多く、潰れてしまうと隣り合わせた果物まで一緒に腐らせてしまう原因ともなる為、領外へ輸送することはできなくなる。
これまで、領内で安く流通させたり、ジャムにして領外へ販売も試みてきたが瓶詰めにしたものを馬車で運ぶのは難しいのだ。
なにしろ重いので馬が疲弊する。そして、走る道が悪くても瓶が割れるし、急いで大きく揺れても割れる。
野盗に追いかけられたらキャラバン自体が全滅する。悲劇となることは想像に難くなかった。
「勿体ないな、と思いつつも、豊作の年は一級品以上のモノ以外は、埋めてしまって肥料にするというのが一番効率的だと結論づけられてしまったばかりなの」
「そんな……」
食べ物を埋めて腐らせ肥料にする。
飢饉の記憶が薄れていないベスにはとてもではないが信じられないことだった。
「でも、そこで乾燥させて菓子につかうというアイデアを、私はいま、エリザベス・インテバン男爵令嬢から貰った訳なのよ!」
「!」
「素晴らしいわ、ベス。どうか、この素晴らしいアイデアを、我がハインリヒ侯爵領へ持ち帰らせて貰えないかしら。そうして是非、これを実現させるべく、最高のお菓子を生みだして欲しいの。我がハインリヒ侯爵領の果物と、もちろんインテバン男爵領の穀物を使って」




