3-49.エレーナとアジメク・2
49.
無駄のない手付きでテーブルを片付け、新たにセッティングをするアジメクの一挙手一投足を、エレーナは黙ってじっとみつめていた。
「エリザベス様がお戻りになるまでまだ少々掛かるでしょう。どうぞ」
冷たいエレーナの視線をまったく気にする事なく淹れたての茶を差し出すと、アジメクはそう言って客へと頭を下げた。
先ほど侍女が淹れたものとはまた違う、華やかな香りの紅茶だった。
乾燥させた花々や果物の皮がブレンドされているようで、湯気と一緒に甘い香りが立ち昇った。
柔らかな色合いといい、香りの引き出し具合といい、それは確かに極上といって差支えないものであった。ハインリヒ侯爵家で一番おいしい紅茶を淹れる侍女と同等かもしれないとエレーナは感心した。
でも。
いや、だからこそ。
エレーナは、アジメクの淹れた紅茶を、拒否した。
「この紅茶は、私には飲めないわ」
「……失礼致しました。ただいま淹れ直します」
「いいえ。淹れ直されても、私には飲めない」
「……アレルギーか何かをお持ちでしょうか。ティーセット自体を新しく」
その時、初めてエレーナは、アジメクに対して顔を向けた。
そうして冷たい瞳でそれを告げた。
「いいえ。私は、邸の女主へ忠誠を捧げていない使用人の手を介したものを、口に入れる気がないと言っているのよ」
「お言葉ですが、私はご主人様に忠誠を誓っておりますよ」
アジメクは何も気にしていないかのように気軽に返事をしたものの、その返答を耳にしたエレーナの圧が高まる。
まるで部屋の温度が突然下がり冬に戻ったかのようであった。
ふたりとも、相手を見つめる視線すら動かさなかった。
手も、足も、まるで動かさずに、そのままだった。
そうして見つめ合ったまま、どれくらい時間が経ったであろう。
なにかを諦めたように、ついに、アジメクが目を伏せ、息を吐いた。
「私は、ヴァリアン侯爵家より命をうけ、手伝いに派遣されているだけの者です。我が主はヴァリアン侯爵様とケイトリン夫人のみ。忠誠はおふたりへ」
アジメクは微笑みさえ浮かべて、ゆっくりと、頭を下げた。
どこまで説明するべきか、計っていたのだろう。そうして真実を述べることにしたのだ。
だが、エレーナは未だにアジメクを鋭く見つめたままだ。
「ベスは、そのことを知っているのね?」
「はい」
ようやくエレーナは納得をした。ベスのこの執事に対する一歩引いた態度。あれはこの執事の後ろにあるヴァリアン侯爵家に対するものだったのだ。
「他の使用人もなの?」
「いいえ。私以外は国の補助を受け、この地方に派遣された医師とそのご家族へ仕える者です。採用はウィズバード様がなされました」
「そう。では、ベスの新しい婚約者は、ボンクラなのね」
言い切ったエレーナに、アジメクは目を瞠った。その表情は一瞬で収まったけれど、エレーナを見る目が、面白そうだというそれに変わった。




