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3-48.エレーナの後悔

48.



 ひさしぶりに会った親友エレーナに見守られながら、ベスは化粧がすっかり落ちてしまうほど泣いた。そうしてその涙が落ち着いた時には心の内がスッキリとしていた。


「まるで子供のように泣いてしまったわ。すこし化粧を直してきますね」


 はにかんで笑うと、エレーナが頷く。


「えぇ。ゆっくりしていらして。そうだ、お茶のお替りをお願いしてもいいかしら」


 勿論よ、とベスは請け負い、廊下へと出て行った。

 その後姿を見つめながら、エレーナは会えなかった時間のベスを思った。


 二度目の婚約が流れてからも続く天候不良により、領地経営がついに破産するしかない状況へ陥ってしまったので爵位を王家へ返上しようと思っているのだと、これまでのご厚情に感謝するという手紙を受け取って、慌てて個人資産で貸付できるギリギリの金額を持ち出して会いに来た友人は、学生時代の溌溂さを完全に失っていた。


 あれだけ溌溂とした瞳に輝きは一切なく、頼りないほどやせ細た身体は見ているのが辛くなるほどだった。


 不名誉な噂からも、大旱魃からも親友を救えないのかと自分の無力さが嫌になった。

 母親から罵倒され縮こまっているベスを見ているのも辛くて早々に辞去した。

 もっとなにかできたのではないか、するべきではないかという焦燥感はあれど、自身の妊娠がわかってからは偶に手紙をやり取りするだけになっていた。


「違うわね、無力な自分を見せつけられているようで。逃げたのね、私」


 ぽつりと口から出てしまった言葉の続きを飲み込む為に、エレーナは目の前にあったティーカップを口元へ運んだ。

 だが既に空になっていて、思わずため息が出た。

 ソーサーにカップを戻し、手慰みにカップの縁を指でなぞる。


 確かに、あの支援物資と僅かな融資を持ってきたあの時に比べたら、着ている物は真新しくベス自身にも似合うデザインのもので上質になっている。顔色もずっといい。

 それでもエレーナには、ここから彼女の未来が明るいものになるのだと信じ切ることはできなかった。


「まったく。婚約者様とやらは、一体何をしているのかしら」


 敵だらけのベスにようやく味方ができたようだと、ちゃんと任せられる相手だったと、エレーナはユーリから聞かされていた。

 それなのに、この体たらくだ。

 ベスはまったく幸せそうな顔をしていないし、いまだ泣いているではないか。

 一度はベスの傍から逃げてしまったエレーナではあるが、だからこそ彼女の手を取る者は、ベスを幸せにしてくれる人であって欲しかった。


 コンコンコン。


 応接室をノックする音が響く。

 この邸の女主たるベスは、化粧室へといってしまったままだ。今は、ベスの戻りを待つエレーナしかいない。

 仕方がなく、エレーナは扉の前まで移動して声を掛けた。


「エリザベス様は今、席を外されております。どのようなご用件かしら」


 旧友と憚ることなく心の内をさらけ出し合う為に、双方の侍女を下がらせておいたが、ベスの化粧直しには時間が掛かるだろう。もし扉の向こうにいるのが、侯爵夫人たるエレーナがやってきたことで挨拶をしなくてはと思った婚約者であったなら、すこし拙いことになりそうだとエレーナは逡巡した。

 しかし、扉の向こうから聞こえてきたのは「お茶のお替りをお持ちしました」という女性の声だった。


「ありがとう」


 咽喉も乾いていたし、丁度よかったと扉を開けたエレーナの前に立っていたのは、さきほど無言の圧を女主(おんなあるじ)たるベスに掛け、謝罪を強いていた不遜な使用人だった。





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