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掌編小説の棚  作者: 穂多勢(ほたせ)
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失恋のワケ

冬の寒空の下、ロングコートに身を包んだ男は携帯に表示されている時刻をしきりに確認していた。約束の時間より10分以上が既に経過している。なぜ来ない、と舌打ちする。するとそこへ、同じく分厚いコートを羽織ったセミロングの見知った女が小走りでようやく待ち合わせ場所にたどり着いた。


「来ないと思った」


ごめんなさい、と謝罪して息を整える彼女。そう、彼女だ。


「急に呼び出して、どうしたの?」


怪訝な表情で彼氏に問う。その問いかけに男は淡泊な口調で答えた。


「別れたいんだ。もう限界なんだ」

「……え?」


硬直する暇も与えず、畳みかける。


「もう散々なんだよ! いつもいつも束縛しようとしやがって! 出かけるたびに場所や時間や誰と行くのかを詮索されるのはうんざりなんだよっ!」

「ま、待ってよ! 私はあなたのことが大切だから知りたいだけなの!」

「嘘だっ! お前はいつだって俺が知らない女と会わないか気が気じゃないだけなんだろう!」

「嘘じゃない! 私は、世界で一番あなたのことをいつでも気にかけているだけなのよ!」


怒気が強まり、口論になりかけるが辺りの人通りは皆無。二人だけの世界のように静寂が辺り一帯を包み込んでいた。


男は憤りを堪えるように、短く告げる。


「とにかく終わりにしよう。もうたくさんだ」

「いやよ! 絶対にあなたから離れるつもりはないわ!」


女は首を必死に左右に振り、別れを否定する。


「……お前は俺の身を案じているんじゃない。お前が本当に案じているのは、束縛できる人間がいなくなることだっ!!」


その言葉に駄々をこねていた彼女がぎょっと目を見開き、口を噤む。


「いつまでも気づかないとでも思ってたのか。言葉は悪いが、お前はどうしようもない! 重度の! メンヘラなんだよ!!」


グゲェェッと彼女自身の美貌に似つかわしくない、カエルが轢き殺されたような耳汚しな声が発せられた。正体を暴かれたことがよほどショックだったのか、地面に両膝をつく彼女。パクパクと反論しようと言うのか、口を必死に動かすが肝心の声が全く出ない様子。哀れにおもったのだろうか、チッと舌打ちする男。


「俺たちの関係はもう終わりだ。二度と連絡しようなんて思うなよ」


まだ喉を震わせ声を絞り出そうとする彼女の横を冷淡に、無慈悲に通り過ぎ、去っていく男。


ようやく関係が終わった男は気味悪く笑う。


「たまらないねェ……。これだからメンヘラと付き合うのはやめられねェ」


男は真正のドSだった。

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