始まりは曇天の空
20××年1月某日。
新しい年が明け活気に溢れる東京都内をスーツ姿の2人の男女が、
大量の荷物を抱えながら忙しなく走っている。
行き交う人とぶつかり謝罪しつつも急ぐ足は止めない。
今日は12時にスターエッグビルに社長と待ち合わせをしている。
何階のどこに行けばいいのか聞いたがニッコリ微笑まれはぐらかされるだけだったので、
早めに向かい社長が来るのを外で待っておこうと考えていたのだ。
いたのだが、今現在の時刻は11時45分。
当初予定していた到着時間である。
「なんでこんなことに......。」
赤信号で足止めをくらっている間に腕時計で時間を確認した女性が溜息をつく。
溜息を聞いた隣の男性がビックっと肩を揺らし泣きそうになる姿を見て、また1つ溜息をついた。
「せいちゃん......。僕せいでごめんね。」
「せい君のせいだけじゃないわ。私も一緒になって確認をしなかったのが悪い。」
「本当にごめん!まさか、大事な書類を忘れるなんて思わなくて。」
「別に大丈夫よ。次からは一緒に確認をしましょう。さあ、青になるわ。」
信号が青になるのを確認し、また走り始める。
カラッとした空気が肌を刺激する。
ちらほらと道端に雪があり、何度が足を滑らせかける。
どんよりとした曇天は2人の心を映しているかのようだった。
なぜ2人はこんなにも急いでいるのかというと、今日の待ち合わせはただの待ち合わせではないからだ。
2人を救ってくれ、そして雇って下さった社長が「事業を開始するからメンバー紹介する。」と連絡してきたのだ。
つまるところの初めての顔合わせ。第一印象が決まる凄く大切な日なのである。
こんなことになるならもっと早く行けば良かった、なんて独り言ちつつ走り出す。
慣れない靴で走ったせいか靴擦れが酷い。靴下に血が滲んだ感覚が伝わってくるも気にしない。
綺麗に整えた髪が汗で崩れようが、下し立てのスーツを転んで汚そうが気にせずに走った。
お目当ての場所までもう少し。
この信号機を渡ってすぐにあるコンビニを右に曲がり、ランチメニューが美味しいと評判なカフェと古本屋の間にあるビルがスターエッグビルだ。
目的地の前には何人かの男女が集まている。
もしや紹介される人達なのだろうと当たりをつけ、息と身だしなみを整え話しかける。
「「あの!!もしかして、オーディションに合格した人達ですか!?」」