妖精の輪環 4
ああ、またこの夢か……
ペイジは深いため息を付いた。
紫色の空。地面に咲き乱れる同色の花。黒い雨のように降っているのは、花の蜜を求めて死をばら撒く蝶だ。
ペイジの目の前に、二人の子供が現れた。
頭まですっぽりと外套で包みこみ、顔は見えない。だが、それが誰なのかペイジは知っている。
他でもない、あの日の、幼い時のペイジとフレデリア――
何度も立ち止まり、振り返っては、また走り出す……やがて、闇に消え去った二人を、ペイジはただただ、眺めていることしかできなかった……
胸に走る激痛に、呻きながら目を覚ました。
どうやら生きているらしい。ペイジは額を押さえ、乾いた笑い声をあげた。
「……あの、大丈夫ですか?」
聞き慣れない少女の声にペイジは身を起こそうとして、激痛が走り失敗する。
「まだ動かないでください!」
心配そうな表情で覗きこんでくる少女――やはり見覚えはない。
「やっと起きたの?」
と、少女を押しのけて見知った顔が現れた。
「フレア――」
ペイジが口を開く前に、フレデリアは自分の口でそれを塞いだ。
批難の声を上げようとするペイジの頭を押さえこみ、フレデリアはたっぷり時間をかけて唇を貪った。
酸欠寸前になるところで、ようやくフレデリアはペイジを解放した。だが、その表情は不満げである。
「魔力使いすぎた。あんたの貰ったわよ」
乱暴に唇を拭うと、ぷいっとそっぽを向く。
「……せめて、子供のいないところでやれよ」
呆れた声を上げるペイジ。見ると、少女は顔を真っ赤に染めて俯いていた。
「おー。おっさん起きたのか。って、どうした、シスリナ?」
木々の向こうから、怪訝な表情を浮かべた少年が現れた。
ペイジはようやく二人が、自分を助けてくれた人物だということに気がついた。
「おっさんはやめろ」
痛む胸に顔をしかめながら、身体を起こした。
「ペイジだ」
右手を差し伸べる。少年は一瞬その手を見、ペイジの顔を見て苦笑する。
「クロナだ、ペイジさん」
強く、握手する。
ペイジは改めてクロナとシスリナと呼ばれた少女の姿を見た。
二人とも年は十四、五くらい。背はさほど高くはないが、しっかりとした筋肉が付いた体つきのクロナ。黒髪黒眼で、腰に交差するように幅の広い鉈のような武器を吊っていた。
少女――シスリナは年頃の女の子らしいほっそりとした体つきで、質素な服の下からも、女性の象徴がしっかりと強調されている。
若草色の長い髪に鳶色の瞳が輝いていた。
こちらは短剣を少し長くしたような剣を一本、腰に吊っていた。
「……なんか、視線がいやらしいよ」
フレデリアは不機嫌な声を出した。
その言葉にシスリナはまた顔を真っ赤にし、クロナは言葉の意味がわからなかったのか、不思議そうな顔をしてフレデリアを見た。
「……それで、俺はどれくらい寝ていた?」
ペイジは頭を掻きながら聞いた。
時刻は夕刻にかかろうかというところか。
微かに赤く染まりつつある空……あの恐ろしい光景が嘘のように澄んでいる。
「とりあえず街に戻ろ」
ペイジの問いに答えることなく、フレデリアはさっさと歩きだした。
シスリナは戸惑うようにペイジとフレデリアの二人を見比べて、フレデリアの後を追った。
「女どもはいつでも薄情だよな」
やれやれと言った表情で、クロナはペイジに肩を貸すのだった。
駄文にお付き合いいただき、ありがとうございます次回からはスマホ投稿になります。
なるべく投稿は継続できるように頑張ります…