妖精の輪環 3
振り下ろされた戦斧を剣で受け止める。衝撃で火花を散った。
想像以上に重い一撃に、身体が悲鳴を上げた。
呻いたペイジは歯を食いしばりながらもなんとか受けきった。
しかし、戦斧は二撃、三撃と容赦なく振り下ろされる。
受け、流し、避ける――徐々に剣を握っている腕が痺れ始めた。
騎士が斧を振りかぶった隙に、斬撃を放つも、分厚い装甲に阻まれ、不快な音を立てるだけで効果がない。
甲冑が重いのか、相手の動きはお世辞にも早いとはいえない。それは幸運ではあったが、決め手に欠けるペイジは徐々に消耗していく一方だった。
横薙ぎの一撃を避けると、ペイジは反撃せずに数歩後退した。
数合打ち合っただけで剣は刃毀れしている。
そもそも重厚な戦斧と打ち合うことが想定されていないのだ。
烈火の如く怒り狂うフレデリアの姿が脳裏に浮かんだ。そういえば、この剣を選んだのは彼女だったか。
ふう、と息を吐く。剣を収めると、腰に仕込んでいた短剣を抜いた。
――ペイジ達の運命を変えた日も、紫色に染まった世界の中だった。
大切な家族を置き去りにして、生き延びたあの日……
何度抱き合いながら泣いただろう。お互いを慰め、求めあい、消えない傷を舐め合った。
一人では立ち直れなかった。ペイジとフレデリア、どちらかが欠けていたら、失意のなか、命を断っていたかもしれない。
――失ったものを取り戻す。
自分は剣を、彼女は魔法を――学ぶものは違ったが、想いは一緒だった。
「まだ、死ぬわけにはいかない」
歯を食いしばる。萎えそうな足を踏ん張り、感覚が薄れた腕を叩き起こす。
再び闘志を燃やしたペイジをーーあざ笑うように騎士は――加速した。
「くそっ!」
虚を突かれたペイジは、その巨体を避けることができず、胸部に強烈な体当たりを受けた。
骨が軋んだ。いくつかの臓器が損傷したのかもしれない。地面に叩きつけられ、視界が回る。
朦朧とする意識。全身を覆う倦怠感に、このまま眠ってしまいたい衝動にかられる。
馬乗りになってきた騎士は、手甲に覆われた拳を振り上げた。
霞む視界。それでも、小さく破損した装甲が光を弾いたのを見逃さなかった。
辛うじて手の中に残った短剣を首筋の、その僅かな隙間に突き刺した。
ペイジは咆哮を上げながら、短剣に力の限り押し込んだ。
騎士の身体からは血の代わりに、黒い瘴気があふれ出し、宙に舞って溶けるように消えた。
明らかに致命的な反撃を受けた騎士は、それでも止まらなかった。
ペイジの顔面を目がけて、拳を振り下ろし――
目の前で火花が散った。
耳障りな、甲高い音と共に、手甲が微かに跳ね上がった。
「いったぁ!」
悲鳴のような少女の声。そちらに気を取られる前に、
「おっさん、力を貸せ!」
今度は少年の声。
右手に微かな体温を感じ、短剣ごと手を握られていることに気がつく。
騎士の背に足を掛けて立つ少年の姿が見えた。
「さっさと、斃れろぉ!」
少年の叫び声を聞きながら、ペイジは最後の力を振り絞った。
「ペイジ!」
聞きなれた声に、遠ざかりそうな意識をなんとか取り戻す。
「ペイジ、しっかりして!」
轟々と音を立て、突如全身を炎が包み込む。心地がいい、暖かい光だ。痛みと一緒に火の粉が弾けていく。
霞む目は、次々と落ちていく紫色の蝶を映していた。その向こうには、懐かしい青い空が見えた。
「……勝ったのか?」
我ながら、間抜けな問いかけだと思う。
返答の代わりに、腹を叩かれ息が詰まった。
「死ぬなよ、おっさん」
ドカッと腰を下ろす音。
「わ、私も手伝います……」
苦労して首を巡らせると、見知らぬ少年と少女がいた。
「私は約束を果たしたわよ。あなたはどうなの?」
毅然とした声音が、微かに濡れていることに気がつき、ペイジは苦笑した。
「なんだお前、泣いているのか?」
少年と少女の慌てふためく声。
フレデリアが何かを叫んでいるような気がしたが、ペイジの意識は闇へと落ちていった……
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