死闘
紫色の蝶を従え、現れた甲冑の騎士にペイジはゆっくりと剣を抜いた。
「ペイジ……」
怯えたような声を上げるフレデリアに、ペイジは下がるように指示を出した。
「あんたも、存外にしつこい奴だな」
正眼に剣を構え、油断なく対峙する。騎士はペイジの言葉を無視するように地面に突き刺さったままの剣を見た。
「それに触るな!」
地面を蹴り、騎士との距離を詰める。腰だめに構えた剣をそのまま繰り出した。
騎士は手甲でペイジの剣を受け止めると、力任せに払いのける。
「くそっ!」たたらを踏んだペイジは、手首を返して袈裟懸けに斬りかかるも、やはり装甲に阻まれた。
騎士が剣を引き抜くと、紫の蝶が纏わりつき、大斧へと姿を変貌させた。
「ローディ……」
背後からフレデリアの悲痛な声が響き渡った。
ペイジは苛立ちのあまり、歯を食いしばる。
「お前は、また俺たちから奪うのか」
咆哮んだ。
「答えろ! グラウス!」
騎士の動きが一瞬、止まった。
ゆっくりとペイジへと顔を上げる。
「--よくわかったな、小僧」
嘲笑う。大斧を地面に突き立てると、兜を慣れた手つきで外し始めた。
現れた顔を見て、フレデリアが大きく息を飲んだ。
「……随分と男前になったんじゃないか?」
ペイジがせせら笑う。
グラウスの顔半分が焼けただれ、醜く変色していたからだ。
「そう思うか?」
グラウスも口角を釣り上げた。「なら、お前も、お前の女も同じように顔を焼いてやろう」
腕を上げると、地面が槍のような鋭さをもって襲い掛かってくる。
一本、二本、三本……次々と繰り出された大地の槍を潜り抜け、ペイジは剣を振り下ろした。
大斧で受けたグラウスに、ペイジは叫んだ。
「お前はなぜ生き延びることができたんだ」
「忘れたのか?この甲冑はかの妖精王が身に着けていたものだと言っただろう。これはどんな魔法も吸収する」
ペイジを力任せに突き飛ばす。「たとえ、それが禁呪であろうともな」
斧を振り上げると、紫色の蝶がひらひらと舞った。
「そして、吸収した魔法は自分のものとなる」
勝ち誇った表情でペイジを見下す。
「見ろ。帝国が多大なる犠牲の上に放った禁呪、妖精の輪環は私の手でいつでも発動できる。この偉大なる力があれば、帝国を乗っ取ることだって可能だ!」
「……その割にはフレアの炎はしっかり喰らったんだな」
ペイジの言葉に、グラウスは激高した。
「黙れ!忌々しいガキどもめ!お前たちがいなければ、こんな無様な姿に」
振り下ろされた大斧は地面を引き裂いた。「だが、この空間にいる間は、どんな高位の妖精でも魔法が封じられる。お前の女も例外なくな。そして、どんな武器も通さないこの鎧。私に隙はない!」
「首を斬り落とせば、さすがに死ぬだろう」
剣を構えなおしたペイジは大きく息を吐いた。「それに、その鎧はローディが斬った」
「ローディ? ああ、あの女か」
ふと、何かを思い出したかのようにグラウスが嘲笑う。
「そういえば、お前たちはアレを置いて逃げたのだったな」
グラウスが続ける。「アレの最後、知りたいか?」
「お前っ!」
安い挑発だとわかっていても、身体はすでに怒りに反応している。
背後から聞こえたフレデリアの静止にも止めることができなかった。
雄叫びを上げながら突っ込んできたペイジを、グラウスは冷笑で応えた。
「今のお前のように、身体を薙いでやったよ」
風切り音。殴りつけられたような衝撃にペイジの身体は大きく弾き飛ばされた。
一拍遅れて右肩から左わき腹に一筋の線が走ると、一気に斬り裂かれた。
「ペイジ!」
何が起きたのか理解するまで数瞬の時間を要した。
かすむ視界に覗き込んでくるフレデリアの顔が見える。
「ほう、真っ二つに斬り裂いたつもりだったが、剣で受けていたか」
つまらなそうにグラウスが言った。
ゆっくりとした足取りで、二人の元へと近づいてくる。
「それにしても、まだ生きているとはな。お前は本当に人間――?」
グラウスはペイジとフレデリアの二人を見比べ、笑い出した。
「そうか、そういうことか!お前はその女の傀儡だったのか」
「違う!ペイジはそんなんじゃない!」
ペイジの身体を抱きしめたフレデリアがグラウスを睨みつけた。
「別に恥じることではない。むしろ、素晴らしいことだ。死者の魂を世界に留めるだけの魔力。面白い、気に入った」
グラウスが手を伸ばす。「フレデリアとか言ったな。私と共にこい」
「……ふざけるな」
息も絶え絶えにペイジが叫んだ。「お前は、ローディだけではなく、フレアまで――」
ペイジの胸を大地の槍が貫いた。つまらなそうにグラウスが言う。
「お前は、どうしたら死ぬのかな。四肢を斬り落としてみるか。それとも……」
大斧を構える。「首を斬りおとせば、さすがに死ぬか?」
もはや声を上げることもできなくなったペイジの頬を、フレデリアはそっと撫でた。
「ペイジ、ごめん。私、やっぱりあいつが許せない」
フレデリアはペイジの唇にそっと自分の唇を重ね合わせた――
駄文にお付き合いいただき、ありがとうございます!
もう少しで完結です。最後までお付き合いいただけると嬉しいです。




