思い出の地 4
「大丈夫ですか?」
シスリナがフレデリアに声をかけた。
「……大丈夫じゃない」
生気のない表情でフレデリアが応えた。
崩壊した家の一部で、ペイジとクロナが何かを探しているようだった。フレデリアの瞳は、その姿を映すことなくただただ虚空を彷徨っていた。
「わかっていたの。ここはもう、私たちの居場所じゃないんだってことが」
だから、来たくなかった。
ここにはもう、幸せだった頃の思い出すら風化してしまっている。
「あの人はたまに、強情なところがあるの。私の言うこと、聞いてくれない時がある」
フレデリアの表情のない瞳から、ぽろぽろと涙が零れ落ちた。
顎を伝い、服を濡らす涙をそのままに、フレデリアはペイジを指さした。
「ペイジね、あれは私の家の奴隷だったの」
突然の告白に、シスリナは息を飲んだ。
「私の家は……まあ、それなりに裕福でね。帝国の中にあったの――」
当時、帝国内では人間を奴隷にすることが一種のステータスとなっていた。
奇しくも戦争のさなか。奴隷にする人間なんぞ、掃いて捨てるほどいた。
フレデリアの両親もまた、例外なく人間を奴隷として扱っていたのだった。
それが残酷な行為であることを、幼いフレデリアは理解していなかった……
「ペイジは戦争孤児でね。まあ彼の両親は、私の父が殺したんだけど」
絶句するシスリナにフレデリアは苦笑いを浮かべた。
「戦争だったからね」
シスリナは絞り出すように呟いた。
「戦争、の一言で済ましていいのですか」
「そうね。でも、戦争の意味も、ペイジの憎しみも悲しみも、あの時の私には理解できなかったのよ」
それどころか幼いフレデリアは、傷つき、憔悴しているペイジに一目で恋に落ちていた。
理由をつけてはペイジを連れまわし、命令し、従わせ、一緒の時を過ごした。
幸せだった、と思う。少なくともあの時は。
ペイジもまた、親の仇であるフレデリアに徐々に心を開いていったのだ。
「でもね、私の両親はそれを快く思わなかったの」
人間と妖精が対立する世界で、幼いとはいえ、自分の娘が人間に恋をしたとなると気が気でないだろう。
そして、フレデリアとペイジは引き離された。
「いっぱい、いっぱい泣いて、怒って、苦しんで……気が付いたら、私は炎の中にいたの」
感情による魔力の暴走--シスリナは思わず自分の腕を抱いた。
「おかしいでしょ。炎の妖精が、火にまかれて苦しんで死んでいくの。私はね、灰になるまで焼かれていく両親を笑いながら見ていたの」
両親を殺し、住まいを焼いたフレデリアを連れ出したのは、ほかでもないペイジだった。
炎の中で笑うフレデリアの手を引き、いたるところに火傷を負いながら、それでも手を放すことはなかった。
「私の父親、あれでも戦争で貢献していたからね。死にもの狂いで追われてね」
暗い笑みを浮かべる。「あの時、捕まって、殺されていればこんな思い、しなくてもよかったのに」
子供の足だ。逃げるにも限界があった。
右も左もわからない森を抜け、山を登り、追いかけてくる大人たちの手から抜け出そうとして、崖から落ちた――
「気が付いたらローディ……クローディアに抱かれていてね。それこそ有無を言わせずにここで一緒に暮らすこととなったの」
だから、とフレデリアが続ける。
「ここは、私たちの思い出の地。辛いことも、悲しいことも楽しいことも、いろいろなことがいっぱいあったけど、みんなで笑って乗り越えてきたの。あの、きれいな思い出のままでいたかった――」
こらえきれず、声を上げて泣き崩れたフレデリアを、シスリナは複雑な感情で抱きしめるのだった……
駄文にお付き合いいただき、ありがとうございます。
いよいよ新生活に片足突っ込みました・・・なんとか忙しくなる前に完結させたいです(´;ω;`)




