思い出の地 1
逃げるように走り去る少女の背中を、四人は茫然と眺めていることしかできなかった。
「なんだったんだ、あれは」
ペイジがようやく口を開いた。
「実は……私たちもよくわからないのです」
困ったように応えたのはシスリナだ。
どうやら弟妹というのはクロナとシスリナを示していることには間違いないようだ。
「私の魔法、操られてた……?」
フレデリアが小さく呟いた。いまだ震え続ける手は、不安と恐怖に彩られているようだった。
「そんなことより逃げるぞ」
シスリナの手を握り、クロナが言った。「ペイジ。俺たちは行くよ」
「……あなたたちも帝国の連中に追われているの?」
ペイジの腕にしがみついたまま、フレデリアが聞いた。
「あなたたち、も?」
シスリナが小首を傾げる。
「……昔、ちょっとね」
苦笑いを浮かべるフレデリア。ペイジはため息を付いた。
「まあ、これも何かの縁だ。一緒に行動しないか?」
ペイジの提案にシスリナが目を輝かせた。
「私は賛成です!フレデリアさんの魔法、もっと教えてほしいし」
「……魔物が寄ってこなければいいけどな」
クロナの頭をフレデリアが小突いた。
どうやらようやく本調子になってきたらしい。
「じゃれるのは後にしろ」
背後から聞こえるクロナとフレデリアの小言を無視して、ペイジとシスリナはさっさと歩きだした。
結局来た道を戻った四人は、森を抜け、街から遠く離れた場所まで移動していた。
帝国の兵士が追ってきている様子はない。
「今日はここで野宿だな」
周りの安全を確認したペイジは、途中で拾った木々をまとめる。フレデリアが息を吹きかけると、轟々と火の粉を巻き上げて燃え上がった。
「……便利な人だな」
ぼそりと呟いたクロナ。フレデリアに睨まれると顔を背けた。
「ちょうど湧水がありました」
シスリナが慣れた手つきで水を入れた鍋を火にかける。
「お腹すいたぁ」
「あ、パンならありますよ。……食べかけでよければですが」
シスリナがフレデリアにパンをちぎって渡す。その様子は仲のいい姉妹のようだ。
「ペイジさんもどうぞ」
差し出されたパンに、ペイジは苦笑で返した。「ありがとう。でも、それは君が食べてくれ」
ペイジの言葉にシスリナが少し驚いた表情を浮かべ、「……はい」小さい声を出してうつむいた。
「ごめんね、シスリナ」
フレデリアが呆れたような声を上げると、責めるような目をペイジに向ける。クロナはその様子を黙ってみているのだった。
静まり返った世界に、ぱちぱちと音を立てて火の粉が舞う。
空を見上げれば、満天の星空がすべてを包み込んでくるような錯覚を起こす。時折流れる星々にペイジは目を細めた。
フレデリアとシスリナが抱き合うように眠っている。その無垢な寝顔はとても愛らしく感じられる。
「……何も聞かないんだな」
同じように二人の寝顔を見ていたクロナが呟いた。
独白のような声音にペイジはゆっくりと目を閉じた。「訊いてほしいのか?」
「いや……」クロナは視線を動かさず「だけど、俺たちと一緒にいると――」
「すまなかったな」
ペイジの言葉にクロナが顔を上げた。「お前たちを巻き込んでしまった」
紫色の世界。死を運ぶ蝶。そして、戦斧を振り上げる甲冑の騎士……あれは、ほかでもない、ペイジとフレデリアに仕向けられたものだと確信があった。
ペイジの横顔を見つめていたクロナは、小さく首を横に振った。
「……あれも、きっと必然だったんだと思う」
「必然?」
クロナの言葉に、ペイジは眉をひそめた。「どういうことだ」
「俺たちは、出会うべきして出会った――そういうことだよ」
寝る。と顔を背けたクロナをペイジは苦笑して見つめるのだった。
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