アリスとアイリス
「もしかして……人違い?」
フレデリアの言葉に、ペイジは額を抑えた。
既に時は夕刻を過ぎている。魔物が活発になる時間だ。
アリスの弟妹が普通の弟妹なら、安否は絶望的な状況だ。
「フレア、確認しなかったのか?」
ペイジの言葉にフレデリアはムッとした表情になる。
「誰かさんが死にかけの重症負わなきゃこんなことにならなかったのよ」
辛らつな言葉に、ペイジの口調がきつくなる。
「仕方がないだろう。フレアは戦えないのだから」
「そーねー、ペイジちゃんは私がいなければ、なにもできないものねー」
嘲るような言葉に、ペイジはあからさまにため息をついた。
「妖精のくせに魔力が少ないフレアに言われてもな」
妖精という言葉を殊更に強調してペイジが言った。
ただならぬ雰囲気を感じシスリナが割って入ろうとするが、二人の圧に負けて声が出せなかった。
「放っておけよ、シスリナ」
二人を見ていたクロナが呆れたように言う。
「でも……」
と、シスリナは困った表情でおろおろとしていると、
「こんなところでケンカとは、全く仕方がない人達だ」
鈴が鳴るような澄んだ声音。
「アリス」「アイリス」
ペイジとクロナが同時に声をあげ、お互いの顔を見合わせた。
「四人とも、ご苦労だったな」
亜麻色の髪をした少女が、意味深な笑みで四人を見ているのだった。
「アイリス?」
ペイジの言葉に、少女は赤いリボンで結った髪を指差した。「そう、今はアイリス」
「……なに、この感じ」
フレデリアが震えながらペイジの背に隠れた。後ろから袖を掴む手は震えていた。
アイリスと名乗る少女は、大人びた……というよりもどこか神秘的で、近寄りがたい雰囲気を放っていた。昼に声をかけてきた花売りの少女とはまるで別人だ。
困惑するペイジに、少女--アイリスは微笑みで返した。そのままクロナへと視線を向ける。
「クロナ、頼んでいたものは見つかったかな?」
「ああ」と、クロナが腰の剣に括り付けていた横笛を取り出す。「これのことか?」
緑色の塗装が施された、何の変哲もない横笛だ。使い込まれているためか、指をかける部分が塗装が剥げ、鈍色に輝いている。
「ありがとう。迷惑をかけたな」
アイリスが嬉しそうな表情を浮かべて受け取る。その様子は、年相応の少女のものだ。
「大切なものなんだ」
長い指で横笛をもてあそぶ。
「そろそろ、どういうことか教えてくれないか」
ペイジの言葉に、アイリスは意味ありげな表情を浮かべた。
「君たちはクローディアの影を探しているのだろう」
背後でシスリナが息を飲んだ。ペイジが短剣に手をかけたからだ。
「何を、知っている?」
今にも飛びかからん勢いのペイジの様子を見ても、アイリスの表情は涼しいままだった。
「君たちは避けていたんだろう?本当は、わかっているくせに」
くるりと身体を反転させると、「ああ、街には戻らないほうがいい。帝国の兵士が君たちを探している」
「帝国の兵士?」
ペイジが思わず聞き返した。アイリスは背を向けたまま歩き出した。
「クロナ、シスリナ。君たちはこの二人についていくといい。きっと、君たちを導いてくれる」
「おい、何を勝手なことを……!」
「では、機会があったらまた会おう」
するり、とリボンをほどく。歩を進めていた足を止め、少女が叫んだ。
「アイリスってば、また勝手なこと言って!」
「あっ」と振り返る少女は、先ほどまでの雰囲気とがらりと変わっていた。
「あ、あはは……ごめんなさい!」
街に向かって全力疾走。
「お、おい!」
脱兎のごとく駆け出した少女を、ペイジたちはただただ見つめることしかできなかった……
駄文にお付き合いいただき、ありがとうございます。
作者、新生活のあおりを喰らって、しばらくは更新が不定期になります。申し訳ございません・・・
気長にお待ちいただければと思います。




