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妖精の子守唄  作者: のく太
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クローディア 1

 クローディア・ナディスに『剣の妖精』の二つ名と我が国に伝わる宝剣を与えるものとする――


 突然、そんなことを言われてピンとこない。

 私はただ、「はあ」とだけ応えるしかなかった。

 どうにも魔物に襲われていた馬車を助けたら、乗っていた人がすごい貴族様で、みすぼらしい姿をした私を見て、あふれ出す慈愛と感謝と憐みの心が暴走して、勝手に結婚すると公言して触れまわったらしい。

 迷惑な話だ。それもかなり迷惑な話だ。

「大貴族である私と結婚するには、君にもふさわしい地位が必要だ」

 と、突然、国都に連れて行かれたと思うと、使用人らしき人物たちに身体の隅から隅まで洗われ、縁もゆかりもない豪奢なドレスを着せられ、連れて行かれたのは、この国の王様の御前だからたまったものじゃない。

「これで晴れて私と結婚ができるな!」

 声高らかに笑う大貴族様の顔を、私は無言で殴りつけていた。




 ――某王国の端の端。地図にも載らない小さな村の外れが私の故郷だ。

 雨が降れば雨漏りするようなぼろ家。夏は死ぬほど暑いし、冬は凍えるほどに寒い。

 そんなところに家族三人で住んでいる。

 甘えん坊のフレデリア。

 しっかり者のペイジ。

 そして、私、クローディア。

 不便で不自由で、いろいろと文句は尽きないが、それでも私たちは幸せに暮らしていたのだ。


 運命を変えたあの日、私はいつものように狩りに出ていた。

「今日は、何かとれるといいなぁ」

 最近は特に不調だ。シカやイノシシの痕跡が一向に見当たらない。

 ペイジは「こんな時もあるよ」と言ってくれたが、フレデリアは明らかに不満げな表情を浮かべていた。

「……頑張らないとな」

 それでなくとも私は剣を振るうことしか能がないのだ。気合を入れなおし、這いつくばるように動物の痕跡を探し始めると――

 悲鳴。それもすぐ近く。

 私は悲鳴が聞こえた方向に走り出していた――




「だから私は、あなたと、結婚するつもりはない!」

 馬車の揺れは、一向に慣れることがない。

 私は今、青い顔をしているだろう。それを知っていて対面に座る自称大貴族の男、グラウスの顔にはうっすらと笑みが張り付いている。私に殴られた跡と共に。

「なぜそこまで頑なに拒否するのかが理解できないな。風が吹けば吹き飛ぶような塵芥の君が、偉大なるこの国の礎となれるというのに」

 自惚れもここまで来ると病気の域だ。

 馬車に酔っていなければ、さっきと逆の頬を殴って正気に戻れと言っているところだ。

「それに、君の小さな家族も飢えに苦しむことがなくなるぞ」

 二人のことを持ち出されると、私は押し黙ることしかできなかった。

「いいかい。君は勘違いしているようだから言っておくよ。

 最初から君には拒否する権利などない。なぜなら、私はこの国の大貴族様だからな」

 私は殺気を込めた視線をグラウスに向けた。

 全身を贅肉でコーティングしたこの男は、どうやら心も駄肉で覆っているらしい。もしくは絶対的な地位に護られているという勘違いからか。

 口元を押さえながら、私はただただグラウスを睨みつける。文句を言いたかったが、今口を開けば、余計なものまで吐き出しそうだった。

 これ以上、この男の前で醜態をさらすのはごめんだった。

 押し黙った私に、グラウスは優越感に満ちた視線を向けた。

 内心で毒づいていると、馬車の速度がゆっくりと落ちてきた。

 永遠とも思えるほど長い、地獄のような時間から、ようやく解放される。目眩すら感じ始めた私は、ほっと溜息を――

 馬の嘶きと衝撃。

 椅子から投げ出されそうになるのを、私は手すりにしがみついて、何とか堪えた。

「何事だ!」

 ひっくり返ったグラウスがいきり立つ。しかし、従者から返事はない。

 私は苦労して馬車の窓から外を覗き見ると――酔いとは違う意味で血の気が失せた。

 雲一つない晴天の空に、毒々しい紫色の蝶が川を作っていた。

 数千、数万という数の蝶は、蛇行しながら城に向かって行く――

「なんだ、あれは……」

 腰をさすりながら立ち上がったグラウスも、その様子に顔を青くする。大貴族様にとってもこんな現象は、初めてらしい。

 私は王様から賜った宝剣を握りしめると、馬車の扉を蹴破って外に出た。

 はるか上空を飛んでいると思われた蝶は、まるで雨のように地上に降りそそいでいた。

 ひらひらと舞う蝶に触れられた人や動物は、苦悶の声を上げて次々と倒れていく――

 やがて、ピクリとも動かなくなった人々の身体から次々と紫色の花が芽吹き、地面を這うように根を広げ始めた。

 ――私は酔いを忘れて駆けだしていた。

 背後からグラウスの情けない声が聞こえた気がしたが、構っていられない。

 慣れないドレスが、足に絡みついてくる。

 悪態をつきながら、私は強引に裾を引きちぎろうとした。

 きめ細かく、肌触りがいい生地はあっさりと裂けてくれたが、勢い余って太もものほうまで大きく裂けてしまった。

 さすがに恥ずかしかったが、構っていられない。私は、二人が待つグラウスの屋敷へと走り出した。

駄文を読んでいただき、ありがとうございます。

初投稿・初作品のため、読みづらい点や誤字脱字など多数あると思います。

ご意見・ご感想などいただけると、大変うれしいです。


不定期投稿になります。

最後まで書ききれるよう頑張ります!

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