#8 俺だってたまにはいい仕事するぞ
こんにちは!
明日葉晴です!
策士策に溺れるって言葉ありますよね。
私は今までに自分の企てが成功した試しがほとんどありません。
サプライズとか、計画段階でばれてしまいます。
いつか人を驚かせてみたいですねっ!
では、本編をどうぞ!
前回のあらすじ
追う側になる。水瀬母が若い。
〇
水瀬の家に行った、次の日。俺は堂々と遅刻することにした。質問責めは嫌だから。
水瀬の奴、ちゃんと予防してんだろうな…?
かなりの不安を抱え、俺は一限終了後の教室にたどり着き、扉を開く。その途端、少し騒がしかった教室内が静かになり、視線を集める。
「おっ!英治っ!遅刻か?」
視線が集中して、居心地の悪さを感じてる俺の気も知らず、水瀬が声を掛けながら俺に近付いて来た。
「あ、あぁ、寝坊だ」
嘘だけど。
「そうなんだ。規則正しい生活しないとダメだぞ」
「気を付けるよ。ところでお前、ちゃんとクラスの奴らに言っといたのか?」
俺は気になっていることを率直に聞いた。質問責めの為に囲まれることはなかったが、さっきから遠巻きにヒソヒソされている。
「あぁ、言っといたよ。俺が英治と勝手に仲良くしたいだけだから、みんなは英治に構わないでくれって」
「それだけか?」
「それだけだね」
それだめじゃね?
コイツは本気で平等の友達を維持する気があるのかと思うほど、フォローが明後日の方向に向いていた。
しょうがない…一芝居するか。
「悪いな。この間偶然お前と道で会った時撮った、お前の犬の写真はまだ印刷してないんだ。印刷したら持ってくるよ」
俺は出来る限り自然に、かつ、クラスに聞こえるように言った。
「えっ?写真は…」
「しっ!今は話を合わせろ」
「あ、あぁ。わかった。じゃあよろしく頼むよ」
「俺の仕事が遅いばっかりに待たせて悪い。そんなに構って焦らせなくても、ちゃんとやるから待っててくれ」
「あぁ…そう。わかった。じゃあ今度ね」
「あぁ、今度な」
そう言って、俺は自分の席に着く。丁度よく、2限のチャイムがなり、それぞれも席に着いた。
これで仕込みは終了…後は…
俺は一つのメッセージを水瀬に送り、そして、もう一つ桜にもメッセージを送った。
その日の学校は、水瀬の一言が一応は効いていたのか、俺に構ってくる奴はいなかった。
〇〇
夜になり、俺は一人、公園のベンチに座っていた。
遅いな…
学校で水瀬に送ったメッセージには、
『部活終わったらお前の家の近くの公園に、ユキを連れて来てくれ。ユキの写真を撮る』
とかいていた。返事には了解の意味があったが、なかなか来ない。
あー…しくった…何時にくるか聞いときゃよかった…
そんな後悔を抱いてきたあたりでようやく、足音と犬の鳴き声が聞こえてきた。
「ワフッ!ワフッ!」
「ユキ、今は夜だから静かに」
「フゥ…」
「よし、いい子だ」
水瀬は部活が終わってからすぐに来たのか、制服のままだった。
「お待たせ。部活がちょっと長引いてね」
「いい。急に呼び出したのは俺だからな」
「それで?今日はどうしていきなり写真を撮るとか言い出したの?」
「明日、今日撮った写真を渡す。それをクラスの奴らに見せれば、俺はたまたま撮影に協力しただけの人になるからな。そうすれば一連の騒動も少しは収まるはずだ…と思う」
「前撮ったやつじゃダメなの?」
「前のはお前の家で撮ってるだろ?それだと、誰も家に呼ばないお前のスタンスが崩れて、また問題が増える。それは俺もお前も得はないだろ」
「なるほど。ありがとう。俺のことまで心配してくれて」
「ついでにお前も得するだけだ。感謝はいらん」
「ははっ。そっか。ありがとう」
「だからっ…まぁいい。始めんぞ」
「了解」
ということで、撮影を始める。が、その前にメッセージを送信。
これでよし…
今は夜だけど、この公園はそれなりに明るい。撮影に支障はそれほどなかった。順調に撮り進め、俺自身も納得のいくものが撮れた。それに、夜間の撮影はあまりしたことがなかったからいい経験にもなった。
さて…そろそろ来る頃か…
水瀬とユキの撮影も佳境に差し掛かった頃、一つの足音が公園内に響いた。俺と水瀬が足音の方を向くと、そこには桜がいた。
「桜…さん…どうしてここに…?」
「えっ…と…」
桜はちらりとこちらの方を見た。俺は水瀬にばれないようにそっと首を振る。
「さ、散歩…かな」
「そ、そうなんだ…」
「水瀬君達は何してるの?」
「えっと…今は…」
今度は水瀬が俺の方を向く。こっちは俺が説明した方がいいだろう。変な言い訳させるより俺が話して後で細かく説明すればいいだろう。
「水瀬の家の犬を撮らせてもらってた。理由は今は深く聞かないでくれ」
俺は後で話すというメッセージを込めて桜に話す。桜は少し不満げな顔をしたが、一応伝わったのか何も言わなかった。
「そうだ。桜、一緒に撮らせてくれないか?」
「「えっ!?」」
水瀬と桜が同時に声を上げる。二人はお互いを見合った。桜は恥ずかしそうに顔が赤いが、水瀬は微笑んでいた。
「桜さん、ここで会ったのも何かの縁だし、どうかな?」
「えっ…と、じゃあ…ちょっとだけなら…」
「わかった。英治、じゃあ頼むよ」
「しゃあっ!任せろ!」
「「夜だから静かに」」
「お…おう…」
お前ら…
そういうわけで、桜を加えて撮影を再開。桜を撮るのは依頼達成後の約束だが、まぁこれは…
ふふふ…計画通り…
そう、これは全部俺の計画。朝の段階でメッセージを送ったのはこの為だ。桜には朝にメッセージを地図付きで送っていた。
『今日、俺が呼んだら指定の公園まで来い』
そうして、水瀬が来た後にメッセージを送りこの公園まで呼び出した。特に説明がなくても来る当たり、律儀というかなんというか…まぁそれはさておき、ここでこうやって徐々に接点を増やせば俺の出番もいらなくなるだろう。桜と水瀬の依頼…まぁ同一の依頼なんだが、一緒に達成できるチャンスを作った。
我ながらグッジョブじゃね?
なんて自画自賛しながら、二人と一匹の写真を撮る。撮影はいたって順調だ。水瀬は前回で慣れたのか、だいぶ自然に写真に写るようになった。桜は…まぁ水瀬がいて緊張してはいるみたいでぎこちない。だけど水瀬のリードもあってか、かなりいいポジションを取る。しかしまぁ…
あー…やっぱコイツら映えるわー…
撮ってて超楽しい。写りがいいものを撮るのはやっぱり楽しい。
……とはいえ、被写体に頼るんじゃなくて、俺が被写体を最大限に活かさなきゃいけないんだよな…っと、ダメだ。今は集中、集中。反省は後だ。
気持ちを切り替えて、集中する。しばらく撮影をしてから切り上げを宣言する。
「よし、とりあえず終わり。桜、もう帰っていいぞ。協力サンキュ」
「えっ?あぁうん、わかった…けどアンタ達は?」
「俺はコイツと少し話がある。いいか?」
「俺と?…わかった」
「そう…わかったわ。じゃあまたね、水瀬君」
「うん。また学校でね」
「あれ?俺は?」
「……じゃあね」
冷たいなー…まぁいいけど。
そういうわけで桜は帰っていき、俺と水瀬は公園に残った。
「それで?話って?」
「あぁ…どうだった?桜と仲良くなれたか?」
「えっ!?えっと…」
おぉ…!照れてる…!?
さっきまで桜といた時は何ともなさそうだったのに、様子を聞くと照れるのか。少しだけ気恥ずかしそうに頬をかく水瀬がそこにいた。
「まぁ…うん…ちょっとは頑張ろうと思えた…かも。桜さんには意識してもらえてなさそうだったけどね」
いやいや、コイツ何見てたの?俺とお前の態度の違い見た?アイツお前に緊張しっぱなしだったぞ?
と口には出さずに心にしまった。言わない約束は守る。
「まぁいいや。これでちょっとは進展できるきっかけになったんじゃね」
「そうだね。いい偶然だったし、英治の機転は助かったよ」
ごめん…偶然ではないし、俺の中では予定通りだ。
「おう。これから頑張ってくれよ。じゃあ今日の写真は明日渡すから、後は話し合わせてくれよ」
「了解」
「じゃあ、帰るか」
「そうだね。じゃあ、また明日」
「おう」
そして、俺と水瀬はそれぞれ家に帰るのだった。
○○○
「まぁ、アンタにしてはいい作戦だったんじゃない?」
俺は家に帰り部屋に入ると、何故かいた桜に、開口一番そんなことを言われた。
「なんでいんの?」
「おばさんに上げてもらった」
くっそ!あのばばぁ!
「はぁ…まぁいいや。俺の意図が伝わったようで何より」
「えぇ。納得いったわ。それに、あの朝のやけに説明的なやつの辻褄合わせね」
「話が早くて助かる」
「じゃあはい」
桜はおもむろに俺に手を伸ばしてきた。
「はい?」
「はい?じゃないわよ。今日の写真よこしなさいよ」
「今帰ってきてあるわけねぇだろ!?」
「なによ、使えないわね」
「それは流石に理不尽すぎるぞ…また今度やるから今日は諦めてくれ」
「今印刷しないの?」
「するけど、今から確認と編集するから時間かかるぞ」
「分かったわ。今日はアンタの頑張りに免じて引き下がってあげる」
おぉ…!グッジョブ俺。
「じゃっ、帰るわ」
「おう。下まで送る」
「いい。さっさと仕上げなさいよ」
「そうか。じゃあな」
こうして桜は帰り、俺は作業に集中し、明日に備えるのだった。
8話目を読んで頂き、ありがとうございますっ!
人のために動くというのは結構勇気がいると思います。
責任とか、関わりとか、お節介じゃないかとか、そういう不安がいっぱいですよね。
でもどうでもいいと思います。
やってから考えましょう。
英治君みたいに自分の利益ありきの方が動きやすいですかねぇ。
では、これからもお付き合い頂ければ幸いです。