#14 私が目指したいから
こんにちは!
明日葉晴です!
こうなりたい、こうありたい。
誰しも理想像は持っていると思います。
私も憧れの作家さんとかいます。
作風は全然違いますが…
でもそういうものを持っているのは、わかりやすい原動力になるんじゃないかな、と思います。
では、本編をどうぞ!
前回のあらすじ
夏は暑い。女子がアホ。
○
「さっきの啖呵、超よかったよー」
昼休み。開口一番美優にそんなことを言われた。
「やめてもう」
「いいじゃんいいじゃんっ!ホントのことなんだしっ!あたしも正直ムカついてたからさー、スカッとしたよ!」
「なら加勢してくれてもよかったじゃない」
「いやー加勢するまでもなくフルボッコだったからさー。つい見惚れちゃった」
「調子いいこと言って…」
「ホントホント!あれで翔子のファンがまた増えるんじゃない?」
え。何それ。怖い。
「ファンって何?」
「え?あー…あははっ!」
笑ってごまかした!?
「それよりさー」
「ちょっと、話題変えないで?」
「いやいや、、案外変わってないんだけどね?とりあえず聞いて?」
「わかったわ。それで?」
「うん。でさー、あの啖呵の後、水瀬君が妙に熱っぽい視線で翔子のこと見てたよ」
「はぁ?」
何それ?ちょっと言ってる意味がわからない。
「いやいや、それはないでしょ」
「いやいやぁ?あれは惚れた人の目だったねー」
「ないない。私、水瀬君を責めたんだよ?それで惚れるのはおかしいでしょ?」
「んー…実はドMとか?」
「なるほど…誰にでも欠点が…いややっぱりないでしょ」
「でも、まんざらでもないでしょ?」
「まぁ、好かれて悪い気はしないけど…それでも水瀬君が私に惚れることはないでしょ。私としても、雲の上みたいな人だし」
「わっかんないよー?」
「ないない。はい。この話はおしまい。お昼食べに行きましょ」
「えー…つまんなーい」
そうして、文句を言われつつ食堂に向かってお昼を食べた。
○○
夏休み前の終業式。今日は部活は休みだけれど、私は一人屋上へと向かっていた。
練習練習っと…
私は自主練習を思いっきりしようと思い、屋上の扉を開けようとした。が、話し声が聞こえた為に手を止める。
「呼び出してごめんね」
「俺は構わないよ。それで話って?」
あ、水瀬君だ。話って?は無いでしょ。こんなとこに二人っきりだとしたら告白でしょ。
「うん…あのね…わたし…水瀬君が好きです!付き合って下さい!」
ほらきたぁ。
私は相手が気になったから少し扉を開けて様子をうかがった。見てみると、違うクラスで結構水瀬君と遊んでいた子だった。かなりかわいい子で、一時は付き合っているという噂もあった。本人達が否定して終わったが。
「気持ちは嬉しいけど、ごめん。俺、今は誰とも付き合う気がないんだ」
「そう…だよね…水瀬君、誰とも仲良くしようとしないもんね。わたしも結構近くにいたけど、二人だけで遊ぼうとしなかったもんね」
「うん。ごめん」
そっかぁ…仲良さそうで、付き合ってる噂があってもダメかー…
「いいよ。何となくわかってたし。わたし、転校するからさ、最後に伝えておこうって思って」
「そう…なんだ…気持ちには応えられないけど、ありがとう」
「どういたしまして。ねぇ、最後に聞かせて?どうして“今”は誰とも付き合う気がないの?」
確かに…それは気になる。
「俺はまだまだ、未熟だ。そのせいでこの間、同じ部活の仲間を守り切れなかった。だから俺はもっと頑張らなきゃいけない。そのためにはもっと真剣に部活に打ち込まなきゃ。だから…」
「そっか。わかった。ありがとう」
今のままでも十分完璧だと思うけど…そっか。水瀬君は理想が高いんだね…頑張れ、男の子。
「じゃあわたし、行くね。ありがと」
「うん。じゃあ元気で」
「うん」
あ、まずい。こっち来る。逃げよう。
私は慌てて屋上から離れた。私はその日以来、部活で水瀬君を見つけるたびに心の中で応援することにした。
○○○
それから、夏休みになった。
相変わらずコンクールの練習や、他の部活の応援に駆り出されたりして忙しい日々だったけど、概ね平和だった。自主練習の時とかは、何となくちょっと気になって体育館に行ったりしていた。そのことを美優に知られたら…
「えー?それって恋じゃないのー?」
なんてからかわれたりもした。
「んー…違うと思うけど…なんか目標高くてすごいなって思って。私は目標とかあんまり立てないで自分の出来ることしかしないから」
そう返すとニヤニヤされた。
「そぉ?まぁそういうならいいんじゃないのー?」
「いやホントだって」
「はいはい」
「もうっ!」
この気持ちを言葉にするなら、憧れだ。私は高い理想は作らない。先に諦めてしまう。だから、理想を高く持って、進む人に憧れてしまうんだろう。
○○○○
そんな夏休みのある日、吹奏楽部の練習が少しだけ早く終わった。だから私は体育館裏のスペースで自主練習することにした。
自主練習を始めてしばらくすると、後ろから声を掛けられた。
「桜さん。練習聴かせてもらえるかな?」
振り向くと、水瀬君がいた。あの大会の日のことを覚えていたのだろう。
「水瀬君か。いいよ。その約束だもんね」
私はそれだけ言って練習を再開する。正直見られながらは緊張するけど、本番も人に見られるわけだからいい練習だと割り切り、演奏する。
なんか…変に意識しちゃうな…
そうしてひとしきり演奏が終わり、水瀬君の方を向いた。
「どうだった?」
変に見られてないだろうか?
「綺麗な演奏だと思うよ」
水瀬君は拍手をしながらそう言った。綺麗。その一言にドキリとする。
私、じゃなくて、演奏、なのにね。ダメだ。美優に変なこと言われたから意識してるのかな。
「ありがとう」
「流石、一人残って練習するだけはあるよ」
「そんな、まだまだだよ」
私は自分で感じてることを素直に言った。
私はまだまだ。水瀬君のように高い目標はないけれど、それでも自分の精一杯までは頑張りたい。
そんなことを思ってる中、水瀬君は言葉を続けた。
「桜さんの名前みたいに思ったよ?」
「私の名前…」
そう言われたとき、私の気持ちは沈んだ。桜翔子。私は子供の時から、さんざん、桜が飛ぶとか、桜が終わる時期には桜を散らすなとか言われ続けたから。しかし、水瀬君の次の一言は違った。
「うん。桜の中を翔けてるような、そんな綺麗で爽やかな感じ」
「あ…えと…ありがとう…」
屈託なくそう言い切った水瀬君をまともに見れなくなり、思わず顔を逸らしてしまう。
ど…どうしよう…今のはちょっと…かなり嬉しい…かも…
私の名前を本当の意味で、しかも頑張っていることに例えて言われるのはどうしようもなく嬉しく、どうしても顔が緩んでしまう。
このまま気まずい沈黙が流れるよりマシかな…
そう思い話題を変えるためにも、照れ笑いでありながらも顔を上げた。
「ところで、水瀬君はまた忘れ物?」
変な笑顔になってないだろうか…
そんなことを思ったけど、水瀬君は何事もなかったかのようでいた。
「忘れ物だよ」
普通な態度…よかった…
「意外と抜けてるんだね」
「どう思ってたのかな。俺の事、どう思う?」
私がからかい半分で言うと、水瀬君にそう返された。
え?え?どう思うって…えー…からかい返された、のかな…?でもなんか真剣っぽいし…
水瀬君の表情を一度見て、真面目に考えることにした。正直、水瀬君のことは最初は自分とは違う手の届かない人だと思っていた。雲の上の存在。だけど、普通に忘れ物をしたり、バスケでミスしたり、友達を大切に思っていて、ミスを糧にさらに上を目指そうとする。優しくて完璧であろうとする人。だから…
「完璧な人。抜けてるところを知ってもやっぱりそう思うかな。私なんかがちょっと頑張っても、手が届かないくらい高いとこにいるって思う」
完璧なくらい完璧であることを目指す。かっこいい人。頑張っても手が届かないから、もっと頑張らなきゃ同じところにいけない人。
あぁ…美優の言う通りかもしれない。
同じ景色を見てみたいと思うことが、隣に立ちたいと思うことが恋というのなら、これはきっとそうなんだろう。
「ははっ…抜けてるんじゃ完璧じゃないよ」
私の回答にどう思ったのか、水瀬君は笑った。
「えー…水瀬君がどう思うか聞いたんじゃない」
「そうだね。ごめん」
「まぁいいよ」
「じゃあ、手が届かないって思われて遠ざけられないように、もうちょっと崩そうかな」
そんなことを水瀬君は言った。
そんな、滅相もない。水瀬君は崩れる必要なんかない。
「んー…いいよ。そのままで。水瀬君はそのままが一番いいよ」
だって、努力をし続けるのが水瀬君だから。水瀬君がこっちに来る必要なんかない。
私が、そっちに向かいたいから…
「そっか。ありがとう」
「どういたしまして」
私の回答に今度は満足したのか、短くそう返した。
「じゃあ俺は帰るけど、桜さんはどうする?」
私はまだ水瀬君の景色は見れないけど…
「なら…私も帰ろうかな」
今は…
「そっか。じゃあ送るよ」
そばにいてもいいかな…
「んー…じゃあお言葉に甘えよっかな」
そう言って私は笑って、水瀬君と一緒に帰った。そして、もうすぐ私の家までというところで、私は水瀬君と別れることにした。
「じゃあ私はすぐそこだから、ここまででいいよ」
「そっか。わかった」
「うん。…あのさ、今日は楽しかったよ」
「俺も…楽しかった」
「それはよかった」
「うん…俺…頑張るよ…桜さんみたいに綺麗な人が応援してくれるなら。俺はどこまでも…それじゃ」
「あ…ありがとう…じゃあね」
そう言い残し水瀬君は去っていく。
あぁ…ずるい…最後にそんなこと言っていくなんて…そんなの…
「本当に…好きになっちゃうじゃない」
我ながら単純だと思う。でも、真正面から綺麗だなんて言われればそれは好きになっちゃうよ。
「私も…頑張ってみようかな…」
空に向かって独り言をつぶやいて帰った。高いところにいる人を目指すために。
○○○○○
あの時まで、私は本当にあなたのことは何とも思ってなくて。
でも、あの時のあなたの顔が真剣だったから。
だから私もあなたを目指してみようと思った。
あなたの隣に立ちたいと思った。
それでもなかなか手が届かなくて、だから私は偶然あなたと近づいた幼馴染に協力してもらった。
あなたの隣に立つために、あなたの見てる景色に近づくために。
今思えばちょっとずるい方法かもしれないけど、それくらいあなたの隣に行きたかった。
幼馴染には悪いことしたかなとも思うけど。
でもおかげで、昔みたいに気軽に話せるようになって嬉しかったのは内緒。
あなたが直してくれた関係だと思ってるよ。
あなたを好きになってよかった。
あなたが私に手を伸ばす努力を教えてくれた。高いところを目指す為の第一歩を。
だから…
私を好きにさせてくれてありがとう。京弥君。
翔子ちゃんの過去編を読んで頂きありがとうございます!
これにて第一章のメイン二人の過去は終わりですね。
しれっと登場した美優ちゃんがおいしい役目を果たしましたね。
三章のメインは決定ですね。
さて今回の過去編を作るにあたり、私は悩みました。
二人の恋に落ちる瞬間です。
全く別タイミングか、同じ瞬間か、これが問題でした。
結局、微妙にずれるタイミングという中途半端なところになりましたが、私は割と満足してます。
なんせ二人の話は微妙にずれてるところから始まってますから、恋に落ちる瞬間から徹底して微妙にずれてればいいと思ってます。
初志貫徹。いい言葉ですね。
では、引き続きお付き合い頂ければ幸いです。