#13 夏は嫌い。だって暑いから
こんにちは!
明日葉晴です!
私は暑いのより寒い方がマシです。
でも寒いのも嫌いです。
ちなみに季節で言えば冬、春、秋、夏の順で好きです。
冬が一番なら寒いのが好きじゃないの?と思う人もいるかもしれませんが違います。
寒いのが好きとかドМじゃないですか。
私は単純に鍋料理が好きなだけですw
では、本編をどうぞ!
私は正直、最初はあなたをなんとも思ってなかった。
ただ人気者のクラスメイト。それだけ。
決して手が届かない。
関わることもない。
望みがないなら関心を持たない。
自分の手が届くところだけを願う。
そんなつまらない人だと思ってた。
けど、いつからだろう。自分の手の先を望んだのは。
私が初めて、見えないモノに手を伸ばしたのは。
あぁ、あれは蒸し暑い、夏のことだったっけ。
〇
うだるような暑さの中、私は吹奏楽部としてバスケ部の大会に応援で来ていた。ただでさえ暑いのに会場の体育館は熱気が籠っていて、ただでさえ体力を使う楽器の演奏は、最早なんかの修行のように思えた。私達の高校の試合も終わり、残るは決勝のみとなっていた。
「あっついっ!」
「あははー。翔子暑いのダメだもんねー」
「そういう美優は暑いの大丈夫なの?」
「んー…夏生まれだから?割と平気かな?」
「なんでちょっと疑問形なのよ…」
それにしても暑いわ…
「学校行事だからって、休みの日に無理やり駆り出さないでほしい…」
「しょうがないよー。それが吹奏楽部だもの」
「私達だって大会あるのに…なんで他の部の応援なんて…」
「吹奏楽部だものー」
分かってるけど…私は練習の方をしたい。
「それにほら、あたしたちは無料でバスケ見れるんだからさ。バスケ好きでしょ?今回は水瀬君も出てるよー?」
水瀬君…ねぇ…
「私はスポーツ全般好きなの。それと、別に水瀬君に興味ないわよ。どっちかというと、あのメガネの司令塔っぽい人が、いい仕事するなぁって思ったわ」
「あー…渡先輩だね。ちゃっかり見ちゃってー」
「試合は見ないと。知り合い?」
「んー…まぁ一応?あたしの中学の先輩なんだよね」
一応って何?一応って…
「へぇ…有名なの?」
「学年主席をキープ中」
「それは…有名になるわね」
「今年で五年目になるね」
「中学から!?」
「そうなのー。なんでこの学校来たんだか」
「ほんとね」
頭のいい人が考えることはわからないわね…
「翔子、ブーメランって気付かない?」
「え?」
「翔子も頭いいじゃないかー!」
「ちょっ!なんで怒るの!?」
「うがー!」
そんなくだらないやり取りをしていたら決勝戦が始まる時間になろうとしていた。
「まずい…美優、急ぐわよ!」
「うがっ!?ホント!?いこいこっ!」
その後の決勝戦、水瀬君の逆転ゴールで幕を閉じた。周りの人はまるでヒーローのように水瀬君だけを褒めてたけど、私は疑問に思った。
んー…他の人の活躍あってのことだと思うんだけどなぁ…
だけど、水を差すのも気が引けたからその時は言うのを止めた。
私達吹奏楽部は、閉会式の前に一足早く学校に戻り解散となった。
○○
学校で解散してから私は一人体育館裏で残って練習していた。
「んー…納得いかないなー…伸びが足りない?」
夏休みにある大会の課題曲を練習していたけどどうもしっくりこない。今回はフルートパートのソロがあるからどうしてもモノにしなきゃいけない。
「よし、もう一回…」
気合を入れ直して私は練習を再開した。練習に集中するあまり課題曲を何回も練習して、ちょっとは納得がいく頃にはすっかり陽も傾いていた。そして背後に人が来ていることにも気付いていなく、拍手の音でようやく私は一人の観客がいることに気付いた。そして振り向くと…
「えっ!?水瀬君!?いたなら声掛けてよ…こっそり聴かれるのは恥ずかしいから…」
私は人が近づいてきたのにも気付かないほど必死になって練習してたことを恥ずかしく思った。
あー…必死なの見られたくなかったな…
私はあんまり努力を人に見られたくはない。だから練習してる姿とかはなるべく見られたくはなかった。
「ごめんごめん。今度は堂々と聞かせてもらうよ」
だけどそんなことを微塵も感じ取れなかったのか、水瀬君は的外れなことを言った。
「あー…えっと、そうじゃないけど…まぁいいかな」
もう見られちゃったし。どうでもいいか。
「ところでなんで学校にいるの?」
私は問題をひとまず置いたところで、気になっていたことを聞いた。すると、水瀬君は照れたように頬をかいた。
「忘れ物を取りに。桜さんこそ、なんでいるの?」
いや、練習してたんだよ?見てたんじゃないの?話に聞くより察しが良くないのかなぁ…
さっきのこっそり練習を見ていた件もあって、私は話に聞くほど気遣いができないのかと思った。ちょっとみんな見た目に騙され過ぎな気がする。だけどそんなことを直接言えないし、影でも言うことはないだろうと思いつつも、取り合えず水瀬君の問いかけには当たり障りのないことを言うことにした。
「バスケ部の大会の後、戻って各自解散だったんだけど、そこから自主練してた」
「そうなんだ。あっ、そうそう。大会応援ありがとうね」
水瀬君はちょっと驚いたような顔をした後に、取って付けたような感謝の言葉を言った。
なに?私が練習してたの意外?そんなに不真面目に見える?
「お礼はいいよ。学校命令だからね。それに、水瀬君は気にしてなさそうだったし」
私は不真面目に見られたのと、取って付けたような感謝が少し気に入らなかったから、ちょっと皮肉を込めて言う。私の意志で行ったんじゃない、と。気にしてないの見てたんだよ、と。
「あー…あはは…よく見てるね」
私の気持ちが少し感じられたのか、気まずそうに眼を逸らした。
「まぁね。水瀬君、目立つから」
同じ学年の女子とかよく騒いでいるし。
私もちょっと言い過ぎたと思って、水瀬君は嫌われてはいないというつもりで言ったけど、言った後で後悔した。
あ、これじゃなんか私が水瀬君ばっかり見てたと思われるかな…確かに決勝戦は美優が変なこと言うからちょっと注目したけど…
そんなことを言えるわけもなく、私はあわてて訂正することにした。
「でもまぁ、普通試合に集中してれば気にしないよね。他の人もそうっぽかったし」
まぁたぶん意味ないけど水瀬君だけを見てたわけじゃないアピールをした。実際そうなんだけど。
「ははっ!そうかもね。みんな集中して活躍したから優勝できた」
どうやら水瀬君を見てたことに関しては気にしていないみたい。よかった。そして、私はその水瀬君の言葉で重要なことを言ってなかったことを思い出した。
「あ、言ってなかったね。優勝おめでとう。逆転シュートも決めたし」
「あぁ…ありがとう」
そう言うと、水瀬君はなぜか疲れたような顔をした。
あー…みんなにさんざん褒められて流石に疲れたのかな?
私は何となくそう感じ取り話題を変えることにした。
「でも、あのパスを出した人も凄かったよね。よく後ろにいた水瀬君に気付いたよね」
「え?あ、あぁ、あれは声の方向で判断したんだよ」
「そうなんだ。あ、あと、腕になんか巻いてた人も凄いと思ったな。水瀬君にボールが向かった瞬間に動いて、スペース作ってたし」
「あぁ、それは部長だね。それは知らなかった。俺はたまたま空いてたんだと思ってがむしゃらに突っ込んだけど…」
「へぇ。あまりに自然だったから作戦かと思った。他の人も…」
私はその後、試合で見た全部の面白かったことを話した。水瀬君は終始嬉しそうな顔で話を聞くものだから、ついつい多く話してしまった。ずいぶんな時間が経った後、私はずっと話していることに気付き、恥ずかしくなった。
「あっ!ごめんねっ!一人でいっぱいしゃべって!忘れ物取りに来ただけなのにね」
すぐ帰るだけだったろうに長く引き留めてしまった。
「いや、大丈夫。あんまり話したことなかったから、話せて良かった」
「そっか。なら良かった」
いやぁ…ほんと良かった。一人で超喋るとか、ちょっと申し訳ない。
「じゃあ俺は帰るけど、桜さんはどうする?」
私が一人反省をしていると水瀬君がそんなことっを言ってきた。正直これ以上一緒にいるとまたなんか一人で喋りそうだから遠慮したい。
「んー…私はもう少し練習して帰るよ」
「そっか。じゃあまた学校で」
「またね」
そうして水瀬君が去ったあと、私は再び練習をしてから帰った。
○○○
大会からしばらくして、今度は一年生しか出られない小さな大会があった。今回は吹奏楽部としての応援はなかったけど何となく見に行ってみることにした。
「暑い…」
「えー…珍しく翔子から誘って来たと思ったらこれかー…」
私は美優を誘って会場に入っての第一声。あきれた様子で親友が首を振っていた。
「しょうがないじゃない。暑いものは暑いの。それに、美優も見たがってたじゃない」
「そりゃねー?水瀬君も出るし?やっぱ頑張る男子ってかっこいいじゃん?」
「相変わらずミーハーねぇ…」
「いいじゃん!いいじゃん!水瀬君はそれぐらいかっこいいんだからっ!」
美優は嬉しそうに水瀬君について話し始めた。しかし前に聞いたけど、本人曰く恋愛感情は無いそうだ。強いて言えば、アイドルの追っかけみたいなものだろうか。
「まぁ…追っかけみたいなのは美優だけじゃなさそうだしねぇ」
「でさー…って、ん?なに?」
「いや、人気者は大変そうだなって」
「あー…そうだねー…」
私達は観客席に座っている女子の一団を見た。そこはアイドルのコンサートのように大弾幕を作り、団扇を持った女子たちがいた。グッズのひとつひとつに水瀬君の名前を書いて。
「美優、混ざって来れば?」
「いや…冗談でしょ?流石にあたしもアレは引く」
「だよねー…」
美優のさっきまでのテンションはどこへやら。真顔で引いていた。
「離れよ?」
「仲間と思われたら一生の恥ね」
「同感」
そんなわけで私達は離れて座り試合を観戦することにした。大会は順調に勝ち進み、ついに準決勝となった。
「前の大会の決勝の相手ね」
「ホントだ。こりゃ厳しいねー。復讐に燃える対戦相手っ!漫画的には熱い展開だけどねー」
「現実はもっとドロドロだものね。相手、親の仇のような目をしてるわよ」
「あちゃー…これは飲み込まれるね。厳しいかな?」
美優の予想は的中し、試合開始時点からうちの高校は相手の高校の雰囲気に圧倒され、勢いを作れないでいた。しかしうちの高校も負けておらず、押されながらも必死に食らいつき僅差に抑えていた。
「前の大会とシチュエーションが似てるねー…」
「そうね…ただ、前と違うのが…」
「今回はメンバーがねー…」
「まぁそれは相手も同じなのだけれどね…」
「んー流れが悪いっぽいかなー…皆、だいぶプレッシャー感じてるっぽいね」
美優の言う通りだ。必死なのは同じだけれど、今回試合に出てる人たちは皆、若干の焦りと悲壮感がある。
「あっ…!」
そして、遂に前回の大会とほぼ同じような状況になった。ただし、今回は水瀬君がパスを出す側になった。フリーなのは、同じクラスの吉田君だけだった。
「頑張れ…」
思わず小さく応援の声が漏れた。しかし願いは届かず、水瀬君の投げたボールは軌道がそれてしまう。
「あぁ…」
パスは奇跡的に防がれることはなかったが、軌道のそれたボールを吉田君は取れずにこぼしてしまう。こぼれたボールは相手の手に渡り、そのまま逃げ切られて試合が終わった。
「あーあ。負けちゃったね」
「そうね」
あのとき、水瀬君のパスがちゃんと…それこそ前の大会のあの人のように、きれいにパスが渡っていたら、もしかしたら結果は違っていたのかもしれない。
まぁ…そこを悔やんでもしょうがないわね…明後日学校で労えばいいかな。
私は自分の中でそう結論付けて、帰ることにした。
「帰ろっか」
「おっけー。それにしても吉田君も残念だったねー。あれ取って決めてたら水瀬君みたいに一躍ヒーローだったのにねー」
「そうね。まぁでも、今回はヒーローを作るための縁の下が失敗しちゃったものね」
「あ。やっぱり気付いてた?あのパス。あれはいかんよねー」
どうやら美優もパスの軌道がそれていたことはわかっていたようだ。まぁ明らかに逸れていたし、気付かないのもどうかと思うけど。
「やっぱり水瀬君も失敗するんだねー」
「そう考えると、より難しい状況で正確にパス出したあの人は凄いわね」
「渡先輩はそういう人だからねー」
「そういう人?」
「いっつも冷静」
「なるほど」
渡先輩とやらはやっぱり凄いようだ。
「まっ!学校で二人を慰めてあげまっしょい!」
「そうね」
そうして、私と美優は会場を後にした。
○○○○
月曜日、私が教室の近くに行くと何やら騒がしかった。
「水瀬君なら取れたボールを落として」
「謝んなさいよ」
教室の方からそんな言葉が聞こえてきた。
は?なにそれ…?誰がそんなことわかるのよ…
若干の嫌悪感を覚えつつ、私は教室の前に着く。
「違うって…」
水瀬君が落ち込んだ様子で否定しようとしたのが聞こえた。私は教室の扉を開けた。
「水瀬、いい。俺が…」
中に入ると吉田君が水瀬君の言葉を遮って頭を下げようとしていた。
あぁ…!どいつもこいつも…!
「アホくさ。なんで吉田君しか責めないのよ」
私はあまりの馬鹿らしさに口を挟んだ。教室にいる人の視線が一斉に集まる。
「なによ、翔子。コイツ庇うの?」
いや質問してるのはこっちだし。それに誰だっけ?あー…確か中学一緒だった?なんで名前呼び?てかあんたクラス違くない?まぁいっか。
そんなちょっと場違いなことを思いつつ、質問に答えることにする。
「庇うとかじゃないわよ。私はなんで吉田君しか責めないのって言ったの」
ついでに私の疑問をもう一度口にする。
「どう違うのよ!」
しかし私の質問の意図がわからないのか、そもそも日本語が通じないのか。どちらにしろ私の疑問は解消されなかった。
この学校って別に頭悪くないわよね…?
「ミスしたって意味なら水瀬君も責めるべきでしょ?って言ってんのよ」
しょうがないから私は懇切丁寧に説明をした。ここまで言えば私の疑問にもしっかりと答えてくれると思う。そうじゃないと困る。正直疲れる。
「水瀬君が何をミスしたっていうのよ?」
あー…そっから?だから会話が微妙に…ていうか…
「あんた、ホントに試合見てた?明らかに最後のパスは軌道がずれてたじゃない」
私のその一言で教室中が静まり返る。そして…
「だとしても、水瀬君なら…」
「それ」
「はぁ?」
私が最初に聞こえた一言を先頭にいた奴が言おうとしたから、それを遮った。
なにが、水瀬君ならよ…スーパーマンかなにかと勘違いしてない?
「あんた達は“水瀬君なら”って言う。実際に似たような状況で取って、シュート出したよ?でもなおさら水瀬君に言うべきことがあるんじゃない?」
「な、何をよ…」
女子達は本当に理解ができないといった様子で私のことを見てきた。いや、女子達だけじゃなく教室中が私に注目していた。
「“先輩ならちゃんと投げてたのに”って」
水瀬君なら取ってた。先輩なら投げれてた。どこに違いがあるのだろう。しかしそれが分からないのか、先頭の女子が勝ち誇ったような顔で前に出てきた。
「先輩ならって…先輩は年上だし、吉田は同い年だし、違うじゃない」
何その子供じみた理屈。そんなんで勝てると思ってるのか。
「その年上に混ざってこの間の大会に水瀬君は出たのよ?なら先輩と同じレベルを求めても問題ないでしょ?」
「くっ…」
くっ…じゃないわよ。正直疲れたし、もうすぐチャイムだから終わらせよう。
「この場の正解は二つ。二人を責めるか、二人を労うか。それだけよ。私は後者をオススメするわ」
私がそう言ったとき、ちょうどよくチャイムが鳴った。
「ちっ…この場は許してあげる」
「そう」
何を?と思ったけど口には出さず、退散する女子達を見ずに自分の席に向かう。
「ほら、水瀬君も吉田君も席に着こうよ」
「あぁ…そうだね」
「お、おう」
すれ違いざま、二人に声を掛けて私は席に着いた。
全く…ホントに疲れた。
13話目を読んで頂き、ありがとうございます!
今回、京弥君の過去同様、一話にまとめたかったのですが溢れてしまいました。
なので二話構成になります。
理由は初登場の美優ちゃんを書いてたらちょっと面白くなってしまいました。
というわけで美優ちゃんは今後も出します。
むしろメインの話を考えます。
第三章になりますかねー。
こうご期待?
では、次も引き続きお付き合い頂ければ幸いです。