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もうすぐ5歳になるゆうくんはとても元気な男の子です。
ある日、そんなゆうくんがグスグスと泣いていました。お母さんに叱られてしまったからです。
「ちゃんと、あとでかたづけようとおもってたもん…」
お母さんが叱ったのは、ゆうくんが遊んだオモチャを広げたままだからでした。
ゆうくんとしては、片づけるつもりではあったようです。
「おかあさんはいつもおこってばかりだ。きっとぼくのことがきらいなんだ…。やさしいおかあさんがほしいな」
ふと、ゆうくんはおばあちゃんが内緒だよと教えてくれた『逆さ虹の森』のお話を思い出しました。
『逆さ虹の森』は不思議な森。普通であれば丸っぽい橋のような形をしているのに、『逆さ虹の森』に架かる虹は逆さまの形だとか。
そしてその森の中に『ドングリ池』という池があって、ドングリを投げ込んでお願い事をすると叶うらしいのです。
「けいくんのおかあさんみたいなやさしいおかあさんととりかえっこしてくださいって、おねがいすればいいんだ!」
けいくんはゆうくんにとってお友達です。お友達のお母さんがゆうくんを叱るなんてことはめったにないのですが、ゆうくんにはそれが分かりません。
「あ、でもにんげんははいっちゃいけないって、おばあちゃんがいってた」
『逆さ虹の森』に人間が入ってはいけない───それは神さまとのお約束なんだと、おばあちゃんは教えてくれました。
「でも、すこしならいいよね…?」
一度だけなら、神さまも許してくれるはず。ゆうくんはだんだんワクワクしてきました。
「ちょっととおいけど、ぼくがんばるもんね」
森に行くと決めたゆうくんはさっそくお気に入りのリュックを取り出しました。
こっそり食べ物や飲み物を持ち出してはリュックに詰め込み、お母さんの隙をついていざ出発です。