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魔法使いショータと春の羽書

 冬の寒さも落ち着いて、海から暖かい風が吹き上げてきます。小さな島の野山にも、少しづつ花が咲いてきました。

 そんな春のある日のお話です。



 小さな島の丘の上、港町を見下ろすその場所に、小さな研究所がありました。その研究所の中から声が聞こえてきます。

「いかん!やっちまった!」

 ボカンッ!と音がなり、黒い煙がもくもくと外に漏れ出します。


「ゲホッゲホッ……」

 魔法使い服を着た先生は窓を開け、煙を追い出します。

「もー、先生、またですか?」

 魔法使い服を着た男の子が、研究所に駆け戻ってきました。

「ショータ君、またとはシツレイな。この実験はこれが初めてだよ」

 ショータ君は、魔法使い見習いの男の子です。そして先生は、ショータ君の魔法の先生です。二人は小さな島で魔法使いのお仕事をしています。


「それはそうとショータ君、花びらは集まったかね?」

「はい」

 ショータ君の持つバスケットには、ふわりとした花びらがいっぱい入っています。研究所の外では満開の桜の花びらが、ひらりひらりと舞っています。


「よし、それじゃあ、今年も春を届けるとしようか」

 先生は分厚い魔導書を取り出します。

「〈伝書鳩の魔法〉くらいだったら、先生は丸暗記してるんじゃないですか?」

「まあね。ただ、今日ばかりは失敗できないから、念には念を入れてというやつさ」


「いつもは失敗してもいいみたいな言い方ですけど……」

「いやあ、なに!そんなことはないさ!俺はいつだって大真面目だよ。ただ、今日は年に一度の魔法だ。特別な時には形から入るのも重要なのだよ。わかるかい?」

「そういうもんなのんですかね……」

「ああ、そういうものさ」

 先生の言葉に、ショータ君はなんとなく納得したようです。


 魔法使いの主なお仕事は、遠くの人々へ者やお知らせを伝えることです。この小さな島で桜が咲いたことは、遠く北の島へと伝えられます。そうして、寒い北の島にもうすぐ春がくることを伝えるのです。


「ショータ君、北に送る切羽(きりはね)を」

「はい」

 先生は魔導書をパラパラとめくって〈伝書鳩の魔法〉のページを開きます。そして、たくさんの白い包み紙を用意して、ショータ君が持ってきた桜の花びらを包みます。


「先生、これでいいですか?」

 ショータ君は鳥の羽の束を持ってきました。先生は羽を見て頷くと、それを桜を包んだ紙に1本ずつ貼り付けます。


「よし、それじゃあ……」

 先生は小さな魔法の杖を持ち、包み紙に向かって指揮棒のように振りながら、呪文を唱えます。


「春を告げるは桜の彩り、遠く届ける鳩の羽。星の導き手がかりに、遠く空へと舞い上がる。……さあ、飛んでいけ!」

 先生が魔法の杖で包み紙をトンと叩くと、包み紙は白い光に包まれてふわりと浮かび上がります。そして、研究所の窓から外に飛び出しました。


 小さな包み紙は舞い散る花びらとすれ違い、高く高く空へと浮かび上がっていきます。そして、北へ北へと、春を告げるために飛んでいきました。


 ショータ君はその景色を見上げます。あれだけ多くの羽書(はがき)を一度に飛ばすことは、ショータ君にはまだ難しいことなのです。

「……先生、僕も先生みたいな魔法使いになれると思いますか?」


 先生は笑ってショータ君を見ます。

「なれるに決まっているさ。なんたって、俺の弟子なんだからな!ハハハ!」

「先生はいつも自信たっぷりですね」

 ショータ君も、笑いました。



おしまい

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