28*Abet
Abet――扇動する
ヒュギエイア総合薬物研究機関日本支部 ラボラトリー・コード113・『ナルキッソス』
「『はじまり様』、ジアセチルモルヒネ達は一向に動き出さないようです」
『…そうか…それはそれで、残念…かもしれねえな…』
C8H12N2O3・バルビタール。商品名はベロナールで、デバイスの色は灰色。
他の薬や人間には『はじまり様』と呼ばれている、チオペンタールと同じバルビツール酸系の睡眠薬である。
「そうですね。で、『はじまり様』の目的とはなんでしょうか?メチルフェニデートらを使って何がしたいのですか?」
『…目的…か。……面白い、景色が…見たい。……それだけだ…』
「面白い景色…?」
『…オレは…面白いことが、好きだから…』
バルビタールは面白いことを何よりも好んでいた。それ以外には目的がなかったのである。
それは、彼が役目を終えていることを悟っているからだ。
『…それに…オレは…欠陥品、だから…な』
彼は当時存在していた他の睡眠薬に比べ画期的なものだと考えられていた。
しかし、治療用量は中毒量よりも低かったが、長期にわたる使用によって耐性がつき、薬効を得るために必要な量が増加した。遅効性であるため致命的となる過剰摂取が珍しくなかった。
1960年代には、こうした欠点のあるバルビツール酸系よりも新しい、これらの点が改善されたベンゾジアゼピン系が登場した。
今のジアゼパムやフルニトラゼパムらである。
『…もう…主力は、あいつらだろ……無理に、オレを…駆り出さなければ…治らない、病気なんて……今や…どこにも、ないだろうから…な…』
「なるほど。もうジアゼパム達もいますからね」
『ああ……面白い景色が…見れた、その日には……満足して、消えることが…できるかも、しれない…』
「…安心してください」
「必ず、メチルフェニデート達ならできますよ。『はじまり様』が期待する以上のものを見せてくれるでしょう」
『…だろうな……チオペンタールも…いるんだから…』
「そうですね。彼は貴方と同族ですもの。…それでは私はそろそろお暇しますね」
松本は『ナルキッソス』を立ち去った。
***
▼C14H19NO2
カナを守ろうと思っていた私だが、人間と薬の間ではそのような決意は綺麗事に等しいのだと知った。
知らされてしまったのだ。
人間と薬の関係はすごく複雑なものだと。
この世界は、勧善懲悪でできているわけではないのだと。
考えてみればそうだ。
ジアセチルさんは、彼女自身のある目的のために、私を利用している。
ロヒプノールさんが人間を助けるのも、結局は彼自身が贖罪をするためだ。
ならば何故、私達薬はヒトの姿を取り、ヒトのような心を持ち、ヒトなる者――人間と共生するのだろうか?
人間は私達を使い、病気を治すように依頼する。
その一方で私達を取引し、営利のために使う人間もいる。
私達は、一体何なのだろう?
「…リタリン?」
何故かそこにはメサドンがいた。
「ああ…お前か。誰かと思った」
――こいつ。
――私が悩んでるのに気づいて…
――気づかれるんじゃなかった。
――こいつに訊いても絶対ろくな答え返ってこないの知ってるんだからな。
――お前はロヒプノールさんじゃあるまいし。
「リタリンってある意味酷いところあるよねー…」
「お前に言うのは少し気が引けるだけだ」
「そうなの?…エフェドリンさんにだったら言うの?」
エフェドリン――彼は私にとって兄のような存在である。
「…言わない。心配を掛けるからな」
「心配掛けるって思ってるんだ?…大丈夫だよ?」
「エフェドリンさんには、僕達の方からあまり君に関わらないように言ってあるから」
――はあ?
意味がわからない。
メサドンは口止めをしたと言うことか?
心配を掛けることは避けたいとはいえ、関わるなというのは言い過ぎだ。
「お前、今なんと言った?」
「うん?…エフェドリンさんには、リタリンに関わらないように言ってあるから…って」
メサドンはエフェドリンさんに、私に関わるなと言った。ということは、彼の協力は望めないと見ていいだろう。
それならば、頼れるのは誰だろうか?
モルヒネさんか。
彼はジアセチルさんの兄だから、ジアセチルさんの思惑はわかるだろう。ただ、彼が妹さんである彼女の思惑に乗らないとも限らない。
ケタミンさんか。
彼女とジアセチルさんの間には何か確執があるらしい。敵の敵は味方、ということか?
トリアゾラムさんか。
彼は治療でのリーダーをしており、普段から最年長として薬をまとめている。
ロヒプノールさんか。
――いや、彼が助けるのは人間だけだと聞いたことがある。
「そうなのか…じゃあ、誰に頼ればいいんだ…!」
「そだねー…僕達以外に頼るってのは…ちょっと頂けないなー?」
メサドンは彼ら以外を私が頼ることは良しとしていないらしい。
何故だ?何を企んでいる?
「大丈夫だよ、僕は姉さんのために動いてるわけじゃないから」
「…どういうことだ?お前はジアセチルさん側じゃなかったのか?」
「まあね。でも、僕はただ姉さんに従ってるわけじゃないんだよ?」
「僕は、姉さんを利用したい。だから、君の力を貸して?」
――は?
――そう来るのか、お前。
「…了承できないな。あの人とは記憶のことで取引をしているんだ」
「でも、本当は嫌なんでしょう?だったら僕のところへ来ればいい」
「そういう問題じゃない!」
「違うの?」
「ああ!お前みたいな奴が一番信用ならないんだよ!」
メサドンは何を考えているのかさっぱりわからない。ジアセチルさんに従っているのは、利用するためだったのか。
――それならば、私に協力を持ちかけたのも全部…
「そっかあ。残念だね…できることなら、リタリンには味方になってもらえると嬉しかったんだけどなー?」
「残念だったな。味方を探しているなら他を当たれ」
「でも大丈夫だよ?まあ…はっきり言って、ほしいのはもう1人の君だけだし…」
やはり、デキストロメチルフェニデートが目当てなのか。
デキストロメチルフェニデートの力を以って、ジアセチルさんを――
「そうか。…だが」
私は制御装置を外した。
『私の力は――そう簡単に貸さないぞ』
「そうそう…それでこそだよ」
同時刻 瑠璃光総合病院 病室
早織は、彼方を見舞いに来ていた。
「それで、神宮寺さん。聞いてほしいの」
「…なんですか、先輩?」
「ずっと本当かどうかわからなかったのだけど…」
「メチルフェニデートは――2人いる」
「…え?」
夢の中に出てきていた少女がその正体とは、彼方はまだ気づかなかった。
*会話劇という名の茶番【妹様の部屋】
『えー、有栖川です。このコーナーははっきり言って茶番です。本編の清涼剤が目的です。司会は作者の私と、ジアセチルモルヒネです』
「ここから泥沼になってきたわね。昼ドラかしら」
『違う違う。しりんかはあくまで『泥沼理系バトルアクション』だから。ここまでバトルする昼ドラとかないっての!このコーナーではコピペの改変をします!』
・学級委員
ケタミン「テトラから『お兄のパソコンのパスワードのヒントを見たら「僕の次の学級委員候補」と出て、セキュリティー意識の低さになかば呆れつつ自分の化学式を入れたが通らなかった時の俺の心情を答えてください』ってメールが来てから1時間も返信を考え続けている」
・マジカル○○
メサドン「ガンマ、だから君は『マジカルバファリン、バファリンといったら薬』で初っ端からすべてをフラットにかえすのやめてくれる?テトラ君も真面目に薬を選ばなくていいよ」
・恐ろしい
ケタミン「本当に恐ろしいのは『大抵のことは笑って許し、しっかりしていて要領が良く、色んな人から慕われ、視野が広く周りに気を配れるような人』が怒ったときだね。アレは本当にヤバイよ」
四ヒドロキシ酪酸「死人が出るレベルだわ」
フルニトラゼパム「お前らメサドンとテトラに何したんだよ!」
・お客様は…
メサドン「さっきテトラが人間達のコンビニで『おい!お客様は神様じゃないのかよ!』というクレーマーと完全に縮こまってしまっている店員の間へ割って入り『鎮まれ…!鎮まりたまえ!さぞかし名のある山の主とお見受けしたが何故そのように荒ぶるのか!』と神対応してるテトラがいた。確かに大麻はしめ縄とかに使われるもんね」
・聞いたか
テトラヒドロカンナビノール「いつだったか、『はは、人肉美味い…』と楽しそうな寝言を言うデソモルヒネさんにソラが『違うっす、それはマジックマッシュルームっすよー』と囁きかけた。デソモルヒネさんは『…マジック、マッシュルーム?…』って混乱して悩んでた。おい、聞いたかシロシビンお前食べられてるぞ」
『ありがとうございました!次回もよろしくね!』
※この後、正真正銘のあとがき始まるよ!
***
*正真正銘の真面目なあとがき
皆様こんにちは、はじめましての方ははじめまして。「私立薬師寺学院特進科!」、略して「しりんか」をご覧いただき、ありがとうございます。「しりんか」の原作担当の有栖川優悟と申します。以後お見知り置きを。
略称の「しりんか」は、「『しり』つやくしじがくいんとくし『んか』」の前2文字と後ろ2文字を取ったものです。
・瑠璃光総合関東病院はNTT東日本関東病院、ヨコハマ市薬剤師会は横浜市薬剤師会、フィリア女子学院は頌栄女子学院中学校・高等学校をモデルにしていますが、あくまでもモデルというだけなので実在の施設・団体とは全く異なりますし、全く関係ありません。
さて、前回解説していなかった用語を解説します。
☆制御装置
メチルフェニデートが着けている、デキストロメチルフェニデートを制御するための腕輪型の装置。
※用語は今後増えていく可能性がございます。
※本作の薬物に関する解説は、ウィキペディアから引用しているものがほとんどとなります。正確性については保証致しません。
ウィキペディア、及びこの作品を見ている全ての方々を始めとした私に関わる全ての方々に、この場を借りて御礼を申し上げます。
また、この作品は二次創作を歓迎しています。
19月01月24日
自宅にて
有栖川 優悟