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死体と誘うメッセージ


「あ、鷲尾(わしお)さん。いま時間ある?」

 彼が教室の中から顔を出して声をかけた。

「え? どうしたの苗倉(なえくら)君」

 呼びかけられた少女は、廊下で窓の施錠を確認して回っていたところだった。

「ちょっとちょっと、真斗(まこと)くん! なぜ寧々香(ねねか)に声を――」

 教室の中からは彼女の声も聞こえた。

「手伝ってほしいことがあってね。――あ、日直か。戸締りだね。僕も手伝うよ」

「え、別にいいよ。悪いし」

「いや、声をかけたのはこちらだしね」

「あ、ありがとう」

 彼は廊下に出て施錠を確認して回る。




 日直の仕事を終えて、教室に戻る。

 放課後の教室には3人だけだった。

「ごめんね、苗倉君。ゴミ出しまで手伝ってもらっちゃって……」

「いいよ。僕がやりたかっただけだし。休憩で頭を冷やすのにちょうどよかったから」

「頭を冷やす? あ、そもそも手伝ってほしいことがあるって――休憩って頭を使うことなの? 勉強で何かわからないところでもあったの?」

「いいや、そういうわけじゃないんだ」

「ぷくーっ」

「ん? どうしたの皆元(みなもと)さん。毎度おなじみハムスターのモノマネを始めて……」

「いえいえいいえー。別になんでもないですよー。――ぷっくー」

「あの、みっちゃん。やっぱり、うち、お邪魔じゃ――」

「あ、そんなことないよ。寧々香が悪いことはないよ。――悪いのはすべて、この男の方で」

 彼女が取り繕う。文句を言われた彼が返す。

「え、なんだよ。悪いって」

「だってだって、わからないからって寧々香に助っ人を頼むのは、どうなの?」

「え、でも助っ人禁止とか、言っていなかっただろ? それに『こういうこと』はみんなでやった方が楽しいと思うんだけど」

「ええ、ええ、そうですね。正論ですね、まったく!」

「と、ところで、どうしたの。楽しいことってことは、勉強でわからないところがあったとか、そういうことじゃないんだよね」

「ああ。謎解き。暗号。皆元さんが作ったから、解いて欲しいんだってさ」

 

「ええ! そうよ。私が考えたの。――さあ、あなた達に、この謎が解けるかしら?」

 彼女が笑顔で胸を張って、挑発した。




 その紙には、単語が書かれていた。


 sky

 tail hair

 corpse

       』


「なに、これ?」

「うん。僕も見た時そう思った」

「フフフフフ」

 彼女はただ楽しそうに笑っていた。

「えーっと英単語だね。英文には――文章にはできないよね」

「ああ、そうだね」

「書かれている単語はスカイ、テイル、ヘア……えっと、最後の単語は……」

「コープスだよ」

「あ、そうなんだ。苗倉君よくわかったね」

「ああ、ゲームに出てくるからね。ポータブルモンスター嘘の月バージョン、吸血鬼城跡地って場所で、コープス系のモンスターが出てくるんだ」

「ああ、なるほど。でも、そのゲームそんな場所があるんだね」

「あ、うん。このフィールドは『月』バージョンだけの限定だからね」

「ああ、なるほど。そうなんだ」

「その代わり、『太陽』バージョンでは蜃気楼の館があるよ。限定フィールド」

「あっ、そうなんだ。(……あれって、限定フィールドなんだ)」

「うん。蜃気楼の館では、ファントム系のモンスターが出てくると思うんだけど、それが限定モンスターでね。『太陽』のみ出現するマウスファントムからグローアップできるドラゴンファントム。それと『月』のみ出現するラットコープスからグローアップするドラゴンコープス。その2体を合体させることで、絶龍エクリプスドラゴンに――」


「ちょっとちょっと! そこのお宅! 話しが飛び過ぎでしょうが」

 さすがに彼女が引き止めた。


「おっと、夢中になってた」

「あ、ごめんね。みっちゃん」

「いやいや、寧々香は悪くないよ。――でもでもしかし真斗警部よ。おたく暗号を解読する気があるのかね? まじめにやりなさいよ」

「うん。まあ、そこそこにやるけど。でも結局、皆元巡査が考えた暗号だし、なにか、くだらないメッセージが出てくるだけなんでしょ?」

「いやいや、くだらなくないかもしれないじゃん。くだるかもしれないじゃん!」

「なんだ、くだるメッセージって……」

「あーもう、とにかくまじめにやってよ。――あ、じゃあ、こうしよう」

「ん。なに皆元さん」

「え。なにみっちゃん」


「制限時間をつけます。あと15分以内に解読できなった場合、私は答えを一生ずっと答えません。死ぬまで答えがわからず悶々と苦しむがいいわ!」


「なんだか、よくわからない脅しだなぁ……」

「いいでしょ! ハイ、15分スタート」

 彼女がスマホのタイマーを開始させた。

「そもそも、僕らが15分以内に、解読できても、できなくても、結局は自分の力で答えを出さないといけなんだから、なにも変わらないんじゃ……」

「いいえ苗倉君。今この15分以内に正解を出せば、みっちゃんが『正解』を保証してくれる。けれど15分以内に正解できなければ、その『解答』が『正解』かどうかわからなくなっちゃうんだよ」

「あ、そっか。それが答えだと自分で思っても、皆元さんが『正解』と言わなければ、本当に正しいのかどうかわからないもんね」

「そうそうそうそうその通り。そういうことよ! やる気になった?」

「んー。べつに……あまり気にならないし」

「ちょっと! がんばってよ真斗くん」

「ま、うん、とりあえず考えるよ」




 彼らは、紙を見ながら考える。

「頭文字を繋げてみるとか、か? STHC、ステヘコ、意味は通じないな……」

「やっぱり日本語に訳してみるべきなんじゃないかな?」

「えーっと、日本語に意味は――コープスが死骸、テイルが尻尾、ヘアが髪の毛、スカイは――天空って意味で…………ん。あれ?」

「どうしたの、苗倉君」

「コレ、そういえば、皆元さんが前に、僕に見せてきた『暗号』とは違うモノのような気がするんだけど……」

「ギクっ」彼女が反応した。

「そうなの苗倉君? ちなみに前はなんて書いてあったの?」

「えーっと、コープスは変わっていないと思う。1番上の単語は確か『樹木』とかの『ツリー』だったような……。で、2番目の単語は……なんだったかな、Vから始まる、なんかペッパーみたいな調味料だったと思うんだけど……」

「ほらほら! あと10分だよ。考えないと」

 彼女が急かす。

「ねえ、皆元さん。これ『暗号』変えた?」

「…………」

「皆元さん。これ『暗号』変えた?」

「……」

「皆元さん。これ『暗ご――」

「聞こえてるから! 繰り返さなくても。同じ言葉を何度も繰り返さなくてもいいから!」

「皆元さん。なんかそれは、自身のアイデンティティを否定している気がするけれど……」

「ええ、ええ、変えましたとも。変えましたよ。そういう気分じゃありませんでしたので! とにかく今は、この暗号を解いてください!」

 彼女がへそを曲げながら認めた。

「うん。逆ギレされる意味がわからないけれど、わかったよ」




 彼は考える。

「えーっと、単語は4つ。上から順にスカイ、テイル、ヘア、コープス」

「みっちゃん。テイルとヘアが、同じ列に書かれているのは、なにかこの謎に関係あるの?」

「いいえ。まったくないわ。スカイ、テイル、ヘア、コープスであってるよ」

 彼女があっけらかんと言った。

「ていうか、皆元さん。ヒントありなの?」

「あ、しまった。ここからナシね」

「ぐだぐだかよ」

「苗倉君。でも、これで4つのワードは、正しいってことがわかったよ」

「そうか、なるほど。皆元さんがそれぞれワードを答えたから、アルファベットの形や、文字の位置で読み解ける暗号じゃないんだね。数字の6が9になったりするようなタイプではないってことか。象形からなる暗号じゃないんだね。――そういうことだよね、皆元さん」

「しまった。寧々香め、ハメやがったな」

「え、そんなことは……」

「いや、どちらかと言うと、皆元さんがハマりにいった感じだと思うけど。自滅だよ」

 彼が、うんざりしながら確認した。




「あと6ぷーん!」

 彼女が急かすよう宣言した。

「ということは、単語それぞれの意味が何かを表わすタイプのモノってことか。――スカイ、テイル、ヘア、コープス――関係性は、ちょっと思いつかないし」

「うーん。……えーけーわいてーえーあいえる……ローマ字読みも違うっぽいね。……てん、しっぽ、かみ、しがい、てしかし……てんし、かしがい、……くう、お、かみしがい――メッセージ性があるのかわからないね」

「ん? 『くう』ってなに、鷲尾さん」

「え。スカイから連想したんだけど。ほら日本語訳で『空』だから、くう」

「おっ!」

「あ、皆元さんが、お、と言ったぞ」

「うん、そういう路線っぽいね」

「はっ……しまった。またハメやがったな!」

「いや、だから皆元さんの自滅だってば……」

「えっと、くう、しっぽ、かみ、しがい……くう、お、かみ、しがい……神殺し? いやごめんね。考えていたら変なところに思考が飛んじゃった……」

「もしかして、食う、オオカミ死骸――ということか。皆元さん、ネクロファジーはあまり良い趣味じゃないと思うんだけど……」

「全然全然違うからっ! って、日本では野生のオオカミは絶滅しているんでしょ? いや、そもそも食べないし! 『食う』関係じゃありません!」

「あ、鷲尾さん、『食べる』関係じゃないらしいよ」

「うん。ヒントだね」

「ああ、しまった!」

「しゃべるたびに自爆してヒントを出してくなぁ……」

 彼が、げんなりと言った。




「あと3分っ!」

 彼女がイライラしながら宣告した。

「鷲尾さん。スカイからなる『空』の字は『くう』が違うということは、『そら』かな」

「うん。そうかも。――そら、しっぽ、かみ、しがい、……か。うーん」

「テイルの尻尾というのも単純化すれば『尾』だし、『お』と発音した方が暗号としては使いやすいと思うんだ」

「……そら、お、かみ、しがい……コープスの死骸というのが、メッセージとは繋がってこないと思うし……あっ」

「どうしたの鷲尾さん」

「むくろ!」

「あー、骸かぁ。なるほど」

「え、なになに、何が?」

「うん。みっちゃん。死骸よりも『むくろ』って表現の方がメッセージとして使いやすいかと思って――そら、お、かみ、むくろ……まだ何とも読めそうにないけれど……」

「あ、ああ、なるほどね。ムクロとも読めるもんね」

「「うん。ムクロはちがうな」ね」

 二人が同時にいった。

「え、なにがなんなの。ふたりとも」

「いや、皆元さんはコープスの骸を『ムクロ』と読むことを知らないっぽいし。知らないことを、自分が作る暗号に使えるわけないだろ?」

「あ、たしかに……またハメ――」

「ハメてないから! 全部、皆元さんの自滅だから。マジでしゃべるたびにヒントになってるよ。コレ、このままならば、答えまで出てくるんじゃないかな?」

「なんだとぉ。じゃ、わかったよ。私、答えが出るまでしゃべらないから!」

 そう宣誓した彼女が、口を一文字に閉じた。




 あと1分。

 そんな大きな文字が書かれた用紙。それを彼女が2人に表示した。

「みっちゃん。本当にしゃべらないつもりなんだ……」

「徹底してるな……そんな紙に書いてまで伝えなくても……って、ん」

「どうしたの、苗倉君」

「暗号で、ヘアの『かみ』だけど、それは違うような気がしてきた。――『かみ』を表わすならば『ペーパー』のが伝わるし」

「なるほど、たしかに」

 ガタっと椅子に座った彼女が反応した。

 やられた、という反応だ。

「ならば、ヘアは……『毛』……『もう』か『け』か?」

「そら、お、け、しがい……?」

「らおけ……カラオケ、か!」

「あ、『空』って『から』って読むもんね」

「カラオケ、しがい……。あ、したい、だ」

「ああ! 『死骸』が『死体』ってことだったのね」

 彼がわかったので訊ねた。


「この暗号は『カラオケしたい』という意味だよね。皆元さん」


「ぐあああ! 正解だ!」

 彼女が嘆いた。

「まさか、しゃべらなくてもヒントを出すとは……」

「ああ、そんなつもりではなかったのに……」

「あの、1つ、いいかな? 皆元さん」

「ん? なにかななにかな、真斗くん」

「はあ……」

 彼が溜息をついてから告げた。


「想像をはるかに超えて、くだらなかった……」


 ピピピピピ、とスマホのタイマーが鳴った。






「そんじゃ一度、家に帰ってからにしよう。1時間だけね。駅前でいい?」

 彼の提案で、その運びとなった。


 彼女が堂々とラブソングを熱唱し、その友達が流行りのJポップを綺麗に歌い上げ、その後に彼がアニソン(映像つき)を恥ずかしげもなく歌唱した。


「僕ちょっと飲み物を取りに行ってくるよ」

「あ、うん。苗倉君。いってらっしゃい」

 彼は個室を出て、ドリンクバーのコーナーへ。

 炭酸飲料のボタンを押してグラスに注ぐ。

「あの、真斗くん」

「ん? 皆元さんも飲みもの注ぐ? もしかしてここ使う? ちょっと待ってね」

「あ、うん。そうなんだけど、そうじゃなくて。ちょっと聞きたいことがあってね」

「ん? なに」

 彼女は少し間をあけて、聞いた。


「真斗くん、ホントは始めから暗号、解けていたんじゃないの?」


「え、なんで?」

「だって、その、なんとなく……」

 彼女はモジモジしながら、答えを聞く。

「いや、わからなかったよ。だから鷲尾さんに助っ人を頼んだんだし」

「…………そっか」

「そういえば、アレ、どんな意味だったんだろう」

「アレ、って、解いたじゃん。『カラオケしたい』って意味で――」

「いや、その前だよ」

「え。」

「はじめに皆元さんが僕に解けって渡した暗号。どんな意味があったのかと思って」

「あ、あれ、は――」

 彼女が狼狽する。――今さらか、と。

 暗号を渡した時は、心の準備をしていたのだが。


「えーっと、『カラオケしたい』の暗号と同じ解読方法なら、……1番はじめの単語が『ツリー』だから木――『き』かな。で、続く単語はちょっと思い出せないから置いておいて。最後は同じ『コープス』だったから、『き――したい』というのが、意味だったわけだね?」


 コクン、と彼女が頷いた。

「なるほど。でも真ん中のワードがわからないから、これ以上はわから――」

「ビネガー」

「ん?」

「2番目の真ん中のワードは、ビネガー、だったんだよ」

 彼女の顔が赤くなってゆく。


 tree

 vinegar

 corpse

      』

 それが、彼女が始めに渡した暗号だった。

 その後、予定がくるったので、無理やり変更したが。


「なるほど。ビネガー、ね。――『お酢』って意味だったっけ?」

 コクン、と真っ赤な彼女が頷いた。

「たぶん、わかったよ。皆元さん」

「…………」

「じゃあ帰りに行こうか」

「ん。え、へ?」

「え。どうしたの、皆元さん」

「え、いや、だから、暗号の答えが――」

 動揺する彼女に、彼が答えた。



「え。だって、アレだろ。キオス――って、駅の構内にある……」



 売店の名前と、勘違いされていた。

「いやいや、んなわけないじゃん!」

「え、だって、ビネガーは『お酢』なんだろ?」

「いや、そうなんだけど、そうじゃないというか」

「あれ、ちがった? でも2番目のワードがわかっても、3番目のワードもわからないと、やっぱり完全解読できないし。だから、わかるのは『キオス――したい』だけだから、てっきり駅の構内にあるお店で買い物でもしたいのかと――ん? あれって、『ヨ』だったっけ? ちがうんだったらいったい――」

「もおっ! もういいから! 恥ずかしいからやめなさい」

 赤面の彼女が止めた。

 ――もう言えぬ。

 答えを自分でいうのは、恥ずかしすぎる。

 もはや、解かれることも恥ずかしい。

 冷静になったら、もう羞恥全開だった。

「うーん。じゃあ別の発音なのか? ツリー、ビネガー、あと何かと、コープス……おそらく『したい』は確定として……あれ、単語って4つだったっけ?」

「あーっ! もう! もういいから! もう考えなくていいから!!」

 彼女が嘆いた。


 その後、彼女のこぶしがよく響いた。

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