商人の国
俺は肉屋へと浮かれながらやって来た。まだ、日が高いのにもう既に酒を飲んでいる奴等もいる。というのも、この肉屋は本当は酒場なのだそうだ。
元々酒場をやっていたが、店主が仕入れてくる肉を客に提供していたら、いつの間にか肉料理をメインに提供するようになったらしい。
ちなみに俺は飲まない。あえて、飲まない。下戸って訳でも過去に酒で失敗した訳でも無い。ただなんとなくだ。
「お姉さん、お姉さん、あれ食べたいんだけど」
近くを通り掛かった女性に話し掛けて、隣の席の大柄の男が食べている分厚いステーキ肉を指差した。
「はい、ちょっと待っててくださいね」
短いスカートを翻して去っていった。なんで、短いんだろう?チラリズム文化がここにも?見えるか見えないかという境界線に男心は夢と希望を抱くとかなんとか。俺はもともとそう言う方面にあまり興味がなかったんだよね。恋愛に割く余裕がなかったとも言う。友達からは枯れてるとか言われていたっけな。ほっとけ。
注文した料理が届くまでぼんやりと店内を見回す。客の層がほぼ男。女の客は数えるほどしかいない。
「おい、知ってるか?この町一番の奴隷商人の屋敷に現人神がいるんだってよ」
「マジか!よく見付けたな」
「しかも、偉く別嬪だって言う話だ」
何処からか俺の情報が漏れているらしい。まあ、もう居ないけどな。ここにいるし。
多分、屋敷の誰かから漏れたんだろうけど、人の口に戸は立てられないって言うけど、一応神様だよ?神様売買の情報漏れちゃって大丈夫なの!?宗教国家にバレたらただじゃすまないぞ!?口がばがばじゃないか?
戸どころか壁も無いんじゃないか?商人…っても、奴隷商人だけどさ、商人って信用第一じゃないのか?
「もしかして、その別嬪さん…」
「ああ、国王陛下が買い上げるんだってよ」
「最悪だな」
やはり、国のトップが動いたか。まあね、神様だもんね。どうせ、願いを聞けとか言ってくるんだぜ。人間の欲に際限は無いからな、きっと死ぬまで国王の欲を満たす道具にでもさせるんだろうな。
「陛下の女好きは有名だからな。毎晩可愛がられる事になるだろうな…可哀想に…」
そっちかぁーーーー!!!うん、確かに欲だね!!俺、なんの力も無かったらヤバかった!!脱出できて良かった!!
「今まで何人の女を孕ませた事か…」
前科持ち!!ヤバい奴やん!!国王ヤバい奴やん!!
「女官に手を出すわ、まだ幼い少女にも手を出すわ、恋人が居ても平気で取り上げるわ、結婚してても取り上げて後宮へ入れて、孕むまで出して貰えないとか」
横暴なんて言葉では片付けられないな。非人道的にも程があるだろ。まるで畜生だな。
「お待たせしました」
やっと来た料理だったが、先程の会話で一気にテンションがただ下がりなんですけど…なんとか、出来んもんかね…でも、俺が神様だからって、なんでもかんでもやって良い訳じゃないしな。
「つい先日も結婚間近の女を後宮に召し上げたらしい」
「婚約者も気の毒だな」
うん。やっぱり粛清しよう。心にそう誓った俺は目の前の肉を平らげる。
デカい肉の塊にバターとニンニクが乗って食欲をそそる匂いがする。大きめに肉をカットして口の中へと運ぶ。
口に入れた瞬間、ニンニクの匂いが鼻を抜け、噛み締める度に肉汁が溢れる。
優に500グラムはあった肉はものの数分で俺の中へと消えた。胃がないからね。
代金は銅貨1枚だった。そう考えると安いな。採算取れてるのか心配になる。
国王がいる王宮って何処にあるだろ?
【神力:マッピング】取得
お!新しいスキルか。お?なんか、右上の方に文字が書いてある。
【コメルシアンテ王国 王都セルセラ】
と表示されている。人間の国の正式名称はメスィキトゥリノ連合王国、だから此処はメスィキトゥリノ連合王国同盟コメルシアンテ王国なんだ。長い。
やはり人間の国でしかも商人の国だ。この国は全ての物が商品で身分や肩書き自分でさえも商品となる。だから平気で奴隷等が売買されている。
奴隷は獣人などの人が多い。勿論、人間もいる。
店内から出て、大通りを進む。町の真ん中向いて進めば王城があると踏んでいる。
予想に違わず、王城は権威を象徴するように町の中心にあった。
さて、どうやって侵入しようか。夜を待つのが、妥当だが。空を飛んで行った所で兵士にバレるだろう。幽霊みたいにいるかいないかの存在なら簡単なのにな。
【神力:透過】取得
【神力:透化】取得
透過と透化を併合し
【神力:霊体開放】取得
おうふ?透過は擦り抜けで透化は透明化って事だよな。で、合わさって幽霊?いや、霊体か。えっと、説明文は?
【霊体開放】
任意で反物質である精神体になる事が可能になり、所謂幽霊になる事が出来る。体を透明にする事が出来、壁などの障害物を擦り抜ける事も可能である。更に念力などの特殊能力の使用も可能。また、意識を限り無く薄くし広げる事で広範囲の情報を集める事も出来る。
うん。よく分からん。まあ、良いや。取り敢えず、幽霊になれるってことね。
【That's right】
何故英語?まあ、良いか。これで憂いなく王城に侵入できる。待ってろよ。色ボケ王め!
読んでいただき、ありがとうございます。