欲しかったもの
この世界――マイソトロギアは、様々な種族が存在する。
エルフが住むズィプロ国、ドワーフが住むラスヴロ国、魔族が住むアトリレ国、獣人が住むキノ国、人間が住むめメスィキトゥリノ連合王国がある。
俺が住むのは、そのどれでもないデオスホラと呼ばれる神樹に抱かれた大陸で他の大地とは接していない。
人間の国が手裏剣のような形でその真ん中の穴の空いた所に内海が存在し、内海の中心部には穴が空き、その海の水が流れ込む様になっている。その流れ込む穴の上に神樹の根に支えられてデオスホラがある。
俺は、今日もぼんやりと神樹の根に跨がって、海の向こうを眺めている。
夕方の茜色の空を見上げる。精霊の光と星といくつもの浮遊大陸が見える。
別に退屈だとか外の世界に行ってみたいだとかは思っていない。
ラジエルを始めとした天使達に甲斐甲斐しく世話をされているから退屈だと感じる暇がない。
何故俺に異常に構うのかと思い天使達に聞いてみた所、神の不在期間が永かったのだと言う。
また居なくなるんじゃないかと不安なんだとラジエルが、教えてくれた。
この神と言うのが、ゼロの事だ。何故、ゼロは居なくなってしまったのか分からないが、ゼロがいない事で世界が不安定になり、不穏な影が差し始めた――そんな時に俺が生れたのだと言う。神は存在するだけで、世界が安寧するそうだ。
他の天使達が歓喜して大変だったんですよとラジエルが笑っていた。
茜色の空を飛ぶ真っ白な翼が見える。それは、ゆっくりと近付き、俺のすぐ傍までやって来た。
「レイ様」
「ルシフェルか」
そう俺に声を掛けて隣に降り立ったのは露草色の瞳に艶やかな黒色の髪を緩くみつあみにさせた美少年ルシフェルだった。
いつも率先して俺の身の周りの事をしてくれ、この世界に疎い俺を気遣ってくれる優しい天使だ。決して堕天使じゃないぞ。綺麗な白い翼だぞ。
立ち上り、自分より頭一つ分は背の高いルシフェルの頭を撫でてやる。最初は、目を限界まで開いたが、俺が笑いかけるとルシフェルは、ふにゃりと笑った。
寂しがり屋の天使達の頭を撫でるのが、日課になっている俺。
美形揃いの天使達の頭を撫でると皆、はにかんだ笑顔をする。それがなんか癒される今日この頃。最近では、事有る毎に頭を撫でて欲しそうに傾けてくる。
「レイ様、帰りましょう」
「そうだな。帰るか」
俺はルシフェルの手を引いて、他の天使達が待つ場所へと歩き出した。
いいな。待っている人がいるって言うのは、俺には待ってくれている家族が無かったから。
借りていたアパートの部屋へ帰って来て「ただいま」と誰ともなく帰った事を言っても誰も誰からも返事が返って来ない時は寂しくて、空しくて、侘しい。
それに比べて今は、こんなに待ち望んでくれる《家族》が居てくれる。なんか、嬉しくてそわそわする。
デオスホラに唯一ある人工の建物が俺達の家だ。
簡単に言うと平安時代の貴族の建物みたいな家で所謂、寝殿造りというものだ。
平安時代の寝殿造りは、壁が無かったので風や雪が入ってきて、とても寒かったらしい。
その為、寝る時は厚手の物を羽織ったり、部屋に火鉢が置かれたりとしていたらしいが、天井が高いので、暖かい空気が上に逃げてしまって、なかなか暖まらなかったそう。
ルシフェルと一緒に歩いているとラジエル達が、こっちを見ていた。
「お帰りなさいませ」
「ただいま」
嬉しそうに笑う天使達と俺。なんか、天国みたいだなぁ。あれ?そうなのか?神がいるし、天使いるし。ここは天国か!
◇◇◇◇◇
今日ものんびりと神樹に腰掛けた俺は、晴れ渡った空を眺めた。
今日もいい天気だ。きっと洗濯物がよく乾くだろうな~。明日の天気は、何だろな?晴かな?曇りかな?雨かな?
【神力:天候改変】取得
久し振りに聞こえたアナウンスにビクッと反応してしまった。また、変なの取得したな。どんな力なんだろう?
【神力:天候改変】
天気を自由に操る事が可能。自分の好きな様に変える事が出来き、天気予報も分かる。
今日のデオスホラ近辺の天気は晴れ気分。
明日のデオスホラ近辺の天気は雷雨気分。
地域別天気▼
案外普通だった。でも、明日は天気荒れるんだな。まあ、基本的にここは晴れなんだけどね。
てか、何故に晴れ気分?なんで気分?誰の気分なの?俺じゃないよ。
地域別天気もなんかテレビの天気予報みたいだな。まあ、便利っちゃ便利か?
なんか、もう慣れつつあるけど、この世界にはレベルとかスキルとかステータス等が存在する。かくいう俺にもある。神なのに。
これ、誰が管理してんだろ?不思議だ。
【ステータス】
名前 :レイ
種族 :神
レベル:0.1
年齢 :1歳未満
状態 :健康
神力 :創造、不老不死、多言語理解、状態異常無効、全知全能、世界を見守る生暖かい目、飛行、精霊魔法、属性魔法、天候改変(←NEW)
称号 :創造神の娘、傾国の美少女、天使達を束ねる者
お分かり頂けただろうか。レベルが0.1なんです!何故!初期レベルですらないとか!レベル1以下って存在するの!?
年齢も一歳未満だし!俺、赤ちゃん?ねえ?俺、赤ちゃんなの?あ!生まれたてだった!!
あと神力は、人間で言うところのスキルだな。これの《世界を見守る生暖かい目》は、千里眼みたいなものだ。でも、何故!生暖かい目!!世界を見守る目で良くない?生暖かい目!!俺そんな目してんのか!?
そして、いつの間にか称号がついてる。創造神の娘は、まあ分かる。天使達を束ねる者も分かる。傾国の美少女って何!?俺、国傾けるの!?誰だ!こんなのつけたの!?
まあ、身に付いてしまったものは仕様がない。諦める。はぁー。
俺のテンションは急降下したが、いつもの日課である観察を続けよう。
視線を海の向こうへ向けようとして気付いた。船だ。それも何隻もいる。
このデオスホラに近付くなんて珍しいなぁと見ていたら、落ちた。おおう、落ちていく。あ、あと一隻になった。
助けた方が良いのかな?と思い、重力魔法で船を救出する。
救出した船をデオスホラの大地に下ろす。すると中から数人の人間が現れた。
第一人間接触ですね!さてさて、この人間達は此処になんで近付いてきたんだろうね?
読んでいただき、ありがとうございます。