誕生
「レイ様、どうされたんですか?」
ぼんやりと精霊が飛び交う空を見ていた俺に気付いて、話し掛けてきたのはラジエルだ。
彼女は、俺がこの世界に生まれ落ちた瞬間から傍にいてくれる天使だ。
そう、まさに俺は、この世界
――――神話が息衝く世界『マイソトロギア』に生まれた。今から一ヶ月程前の話だ。
◇◇◇◇◇
「御生誕、おめでとうございます」
うっすらと目を開けた俺の目に飛び込んできたのは、金髪碧眼の美少女だった。そして、その子の背後で動く物が気になる。
羽根だ。翼だ。少女の顔と羽根を交互に見る俺を少女は不思議そうに見返す。
先程まで俺はゼロと話していたのにこれは、どういう事なのだろうか?
「えっと……?」
凄まじい違和感。俺が喋った筈なのに高い子供の声が聞こえる。そして、更になんかスースーする。
「!」
素っ裸だよ!美少女を前に裸とかどんな変態だ!!怒濤の展開で混乱して固まっている俺に少女が優しく声を掛けてくれた。
「まずは、そこから出ていただいて、綺麗にしましょう」
素直に従った。俺がいたのは、仄暗い虚の様な所だと思っていたが、卵だった。
異世界だから、こんな大きな卵もあるんだなと感心してしまった。
「こんな大きな卵から産まれる生物は、いませんよ。神様だけです」
この世界では、神様が卵から産まれるのかと、また感心していると、
「私も創世から生きておりますが、初めて目にしました」
「え?創世から…長生きなんだな」
「天使は大体が創世の頃からいますよ」
やっぱり天使だった。背中に翼があるから、そうかなとは思ってたんだよね。それにどことなく、神聖な気配もするし。
「泉まで御案内しますね」
「いや…えっと…流石に裸は……恥ずかしいんだけど」
「失礼しました。服は、想像していただければ大丈夫だと思いますよ」
と、言われたのでやってみる。何が良いかな~。着慣れてるのが良いかな。いつも着ていた草臥れたシャツとハーフパンツを想像した。すると、すぐにパッと着衣。どういう仕組みなんだろう?
「…………」
美少女天使が、なんか微妙な顔してるんだけど?なんでだ?首を傾げたら話題を変えられた。
「では、こちらです」
立ち上がって気づいた。俺、なんか視線が低い。そういや、ゼロが子供なってくれとかって言ってたっけ。え?今、俺子供か?鏡欲しいんだけど。
「では、お手伝いします」
「いらない!いらないから!自分でやるよ!」
「かしこまりました」
泉に案内されて、水浴びを促される。とりあえず、体を洗う手伝いは断った。誰が、美少女に洗われたいよ。いや、洗われたいけども!今は混乱してるから下心なんぞ持てんわ!じゃあ、洗いますかね。
俺は、泉の中へと入っていく。不思議と冷たさはないな。温いな。
先ずは顔を洗うか、と掌に水を掬うと目線が水面をいった。なんだと!
そこには、膝裏までの長さの白い髪と天を向く長い睫毛に縁取られた大きな瞳は金色。
白い肌は肌理細かく、シミ一つ、毛穴一つない。小さな鼻、頬と唇は桃のように瑞々しく、白皙の美貌のゼロによく似た十歳くらいの美少女がいた。
え?俺?は?待て待て!俺は男…か?どう見ても、これは美少女だ。何故に。
そうか、この顔に草臥れたシャツとハーフパンツは、ミスマッチだったのか。だから、あの美少女天使が微妙な顔したのか。納得だ。
あと、見ないようにしてたけど、………………………無い。何がって、ナニが。OH!無性ですね。マジか。
「ない」
「神様ですので、必要ないんですよ。天使にもありませんよ。あと、神様には臓器というものがありません」
バッと振り向けば、美少女天使が、手で目を隠して立っている。見えてないの?え?でも、なんか今、心を読まれたような?
「そんなスキルはありません」
「嘘だ!絶対嘘だ!」
何かを言いたそうに口を開いたが、直ぐに閉じて首を傾げた美少女天使が、
「神様の御名をお聞きしても、宜しいでしょうか」
「そっか。名乗ってなかったな。俺はレイ」
「レイ様ですね。かしこまりました。創造神ゼロ様からあなた様が異世界から転生されたのは、お聞きしていますので、此方の世界の事をお教えしますね」
うへっ。勉強かよ。なんで、この年になってまで…あ、子供だ。俺、子供だった!
「君の名前は?」
「申し訳ありません。私には名前は、ありません」
「そうなんだ」
「はい」
少し寂しそうに微笑んだ美少女天使。創世の頃から生きているのに今まで名前を呼ばれないのは、辛くは無かったのだろうか。
「じゃあ、俺が付けて良いかな」
「!レイ様自らに名を頂けるなんて、光栄です!」
先程の寂しそうな笑顔が一変して、にぱっと輝かんばかりの笑顔になった。うっ。眩しい。やっぱり可愛い女の子は、笑っているのが良いね。こっちまで嬉しくなる。
「そんなに…んじゃあねぇ」
思案する俺にビシビシ伝わる期待でいっぱいの視線。何が良いかな?これから色々な事を教えてくれるんだし、知識を増やしてくれるって事だろ。知識…天使だな。確か、知識の天使がいたな。名前は、
「ラジエルはどうかな?」
「ラジ…エル、私の名はラジエル」
名前を噛み締める様に髪と同じ金色の睫毛が伏せられる。するとラジエルの体が、淡く輝き、頭の上に光の輪が現れた。所謂、天使の輪だな。
「ありがとうございます。これまでで一番の宝物を頂きました」
「どういたしまして」
うん、やっぱりラジエルは、笑っているが一番良いね。いつも、笑ってて欲しいな。
体を洗って、泉から出るとまた草臥れたシャツとハーフパンツ姿に戻る。だって落ち着くし。誰に言い訳してんだろ俺。
「ところで…」
なんか、さっきから目の前を浮遊する光の玉が気になる。たまに肩に乗ったりする。頬擦りするのもいる。
なんか、ちょっと可愛いな。こういう生き物なのか?
「精霊ですね」
「精霊か、へぇ。人の姿とかじゃないんだな」
「力が強い精霊なら、人の姿になれますね」
ほうほう、成る程。ラジエルによると、精霊は多種多様に存在するとの事。
後、勉強するようにと言われたが、俺が生まれた卵がなっていた樹―――神樹に触れると、あらゆる知識が流れてきたので、勉強しなくて良くなった。それに関しては、ラジエルが、がっかりしていたので、花を贈ったら機嫌を直してくれた。
読んでいただき、ありがとうございます。