神様がウチにやって来た
「突然なんですが、私の子供になって下さい」
長い白い髪にシミや毛穴さえも確認できない白い滑らかな肌に白い睫毛に縁取られた瞳は、金色。顔のパーツが完璧に配置された白皙の美貌の青年が、人懐っこい笑顔で、ケーキの箱片手に持って佇んでいた。
ドアを開けた状態で固まっている俺は、築五十年位にボロボロのアパートの二階に住み、草臥れたシャツとハーフパンツを着た黒髪黒目の普通のどこにでもいる男だ。
なんだ、こいつの麗しい顔面は。あれか?俺の目を潰したいのか?
そっとドアを閉めて、チェーンロックを掛けてから、先程の顔面凶器の存在を無かった事にした。
ドン、ドン、ドン
「え?どうして閉めるんですか?話だけでも聞いてくださいよ。ケーキもありますよ。美味しいよ?」
ケーキをチョイスするって、女子か!いや、甘いもの好きだけど。それで、散々学生の頃にからかわれたからな!でも、好きだ!人の好みに口挟むなよって言ってやったよ!
「しょうがないですね」
諦めたのかな、と思った瞬間。
「じゃーん」
いきなり、部屋の前にいた筈の美青年が室内に現れた。
「ほあ!!」
◇◇◇◇◇
「いやあ、驚かせてしまいましたね。改めまして、私はゼロと言います」
狭い一室に輝く美青年が綺麗に正座して、俺と対峙している。淀んだ部屋の空気が、浄化されていく様な笑顔が眩しい。
眩しくて、目が潰れそうなんだけど。サングラス欲しい。
「はぁ…」
「実は私、他の世界で神様をしているんです。それで、貴方を私の子供として、世界の一つを管理して欲しいのです」
「電波か」
納得したように頷く俺に、ちょっと傷付いた様な表情でゼロが否定した。
「違いますよ。さっき、突然現れたでしょう?あれは、私が起こした“奇跡”なんですよ」
「安い奇跡だな」
「うぐっ。他にも色々できるますが、今は、それは置いときます。で、私の子供になってくれますか?」
「そうだな…。天涯孤独だし、家族が出来るのも…」
俺が、まだ赤ん坊だった頃に児童養護施設の前に捨てられていたらしい。その後、里親が見つかることもなく、年齢を理由に施設を出て、働きだした。
「じゃあ、子供にしますね」
「結論が早くないか?」
「では…」
そう言うと、ゼロは、俺の額に自分の掌を当てる。他人に触られるのは、久し振りで、自分以外の体温を感じ、体の力が抜けるのを感じた。初めて会う人、いや神様の体温でリラックスするのも不思議に思ったが、本人に悟られないようにする為に話し掛けてみた。
「………何してんの?」
「はい、終わりました」
額に当てられていた掌が、離れた途端に他人の体温を何処か寂しく感じた。
例え、美青年でも俺にはその気はない筈なんだが、なんかゼロの肌は心地良い。
「早っ!!何もしてないけど?」
「良いんですよ。全て私が手続きしましたから」
「手続き…役所みたいだな」
また、人懐っこい笑顔を作ると、
「では、これからの事を説明しますね。貴方が生まれ落ちる世界の名は『マイソトロギア』。人間や獣人やエルフ、ドワーフ、魔族、神獣、魔獣等の命が住んでいます。そこで神様として世界を管理して下さい。管理と言っても、貴女の好きにして良いんですよ。人間を滅ぼそうが、大地を割ろうが貴方の自由」
にこっと笑ったゼロを見上げると
「忘れないで下さい。貴方が想像した事が“奇跡”になるんです」
ゼロが、そう言った途端に部屋の中は、強烈な光でいっぱいになった。俺は目を開けていられずに目蓋をぎゅっと閉じた。
「さあ、どんな創造をするのか見せて下さい。レイ」
ゼロが言った生まれるとは何か、なんで俺の名前を知っているのか聞け無かった。