アマモリ
あの日から、真友は音葉や木坂とまるで話さなくなった。
1週間たった今でも、騒ぎはまだ収まらなくて、みんなはずっとからかい続けていた。
「・・・」
真友は、その輪に入らずに、一人で座っていた。
今日月曜日と、それから木曜日は、真友の入っている調理部の活動日。
もともと部員が少ない調理部には、3年が真友と飛鳥、2年が蓮ともう一人、本村春香という女の子。1年は福田鈴という女の子と、中山わこという女の子だけだ。
「はい、みんな、今日のテーマは・・・大好きなあの人にあげる差し入れ!あの人ってのは、もちろん恋人でも、心友でも、家族でも、誰でもいいからね。じゃあスタート!」
飛鳥は部長で、「倉井部長=暗い部長⁉」はいやだから、みんな「飛鳥部長」って呼んでって言ってる。
・・・木坂くん、ポテトサラダ好きだったな・・・。
思い出して、真友はポテトサラダ作りに取り掛かった。
「真友先輩は何作ってるんですか?」
蓮に言われて、真友はびっくりして振り返った。
「蓮くん、びっくりした・・・・・」
「ごめんなさい。あっ、ポテトサラダ、ですか?」
「う・・・ん・・・」
「美味しそうですねー。って、まだ出来上がってませんけどね」
蓮はそんなことを言って、去っていく。
・・・この前の告白は、本気なの?
あれから何度も会っている。けど、蓮のことは好きになれません、なんて・・・いう勇気は真友にはない。
「はい、では、私帰ります・・・じゃーね」
「えー部長いなくなっちゃうの?じゃあ私も帰りますー」
「え、待って!私も一緒に行きたいですー」
人気者の部長がいなくなっちゃうと、みんなは一斉に帰りだす。真友はまだ、ポテトサラダを作っていたけれど。
「あ、雨・・・」
「雨降ってきちゃった、どうしよう・・・僕傘持ってないんですよね」
「蓮くんも、そう・・・なんだ・・・。わ、私も」
「あれ?あそこ、・・・雨漏り?」
真友が指さした先には、水がぽたぽたと落ちてくる様子が見えた。
「本当だ」
真友と蓮は、あわてて、布かなんかをかぶせようとする。
「真友先輩、届きます?」
「い、椅子持ってきてくれる・・・かな・・・?」
「はい」と、いすが真友の前に置かれた。
「あ、ありがと・・・」
真友がそう言って手を伸ばすが、真友の身長では届かなかった。
「いいですよ、僕やります」
「ごめん、おねが――――――――」
ズルッ
「え?」
真友は椅子から落ちそうになって――――――――「あぶない!」って、蓮が叫んで――――――――
ズザッ!!
・・・唇が、ふれた、ような、きが、した。
「え・・・」
「あっ・・・」
真友と蓮はぼうぜんとして、お互いを見つめた。
「え・・・今あいつら、キ・・・?」
・・・調理室の様子を、木坂が、のぞいていた。