ツユイリ
「いっつも真友は、そうやって、すべりだいにかくれちゃって。そこにいても、もう誰も助けに来てくれないって、分かってるでしょうに」
今、前には、音葉がいる。
・・・それはそれは楽しそうに、木坂との思い出を語っていた。
「あの時も、あの時も。優しくしてくれて。・・・真友が好きになるのも、分かるぅーていうか」
「・・・」
「面白かったよ。真友をもてあそぶのは」
「え・・・?」
「応援するよ、なんていった時の真友の顔!!あれ、永久保存版」
「・・・へぇ」
「告白した。OKでた。・・・そんな悲しい事実、教えたくなかったの」
音葉は、笑っている。
「・・・まあ、せいぜい頑張れば、振り向いてくれるかもしれないよ」
「・・・分かったよ。音葉の幸せさは。・・・もう、あっち行って」
「お望み通り、行きまーす」
音葉は明るい声で去っていく。
もうすぐ、梅雨入りで、雨がいっぱい降る。雨を見ると、木坂のことを思い出してしまいそうで、真友は嫌だった。
はぁ・・・と、ため息をついた、その瞬間。
「真友先輩、何やってるんですか?」
「え?」
顔を上げると、そこには・・・部活の後輩、沢村君がいた。
「沢村くん・・・?」
沢村くん・・・フルネームは、沢村蓮。
真友の入っている調理部唯一の男子で、一個下。つまり、2年生。
「まあ、いいんですけど。教えたくないことだったら、言わなくていいんです。・・・本題に入ってもいいですか?」
「ほ・・・本題・・・?て・・・」
「僕、真友先輩のことが好きです」
「・・・え?」
好き?
「えぇぇぇぇっえっえええっ!!」
「あっごめんなさい!びっくりさせるつもりじゃなかったんですけど・・・」
こ、こんな時に告白してくるって。
タイミングがドンピシャすぎてるよ、沢村くん・・・。
「だ、だめ・・・でしょうか・・・」
「沢村く・・・」
・・・もうダメだった。
「えっ!?真友先輩・・・?なにがあったんですか?」
「・・・あの・・・」
真友は、沢村くんに全部を話した。
誰かに話したかったんだ。・・・よりによって、沢村くんになっちゃったけど・・・。
「・・・そんなことがあったんですね」
「ん・・・」
「僕が守ります」
沢村くんは、真友の手を握ると、まっすぐ見つめて、そう言った。
「これからは、僕が。真友先輩のこと、守りたいんです。もう泣かせません。木坂先輩に負けないぐらい!僕、真友先輩に好きって言ってもらえるかっこいい男の子になります」
「沢村くん・・・。ありがとう、でも・・・」
「返事はまだ、聞きたくないです。頑張らせてください!真友先輩」
真友は、下を向いて・・・小さく、「うん」とうなずいた。
「で、提案なんですけど」
「?」
「これからは、蓮くんとか、蓮って呼んでくれませんか?」
「・・・んんっ!?」
「あっいや、僕は、真友先輩って呼んでるんで。つりあわないじゃないですか」
「あ・・・わ、分かった。・・・蓮くん」
・・・でも真友は、まだ、木坂のことが好きだった。
音葉がいようと何だろうと。好きだった。
ぼんやりそんなことを考える真友の横顔を、蓮はじっと見ていた。