オオアメ・コサメ
「音葉・・・音葉・・・!」
真友は大雨の中をダッシュで走って、学校へと戻る。
さっきよりも雨が強くなってきた。
「音葉・・・どこ・・・っ・・・」
やっと教室に行ったけど、音葉はいなかった。
「・・・」
真友は学校の中を歩きながら、ずっと考えていた。
『真友なんて、大っ嫌いだもん』
・・・音葉は理由もなく、人を嫌ったりしない・・・
あっ、そういえば・・・直前に木坂のことを好きかどうかを確認されたんだったっけ・・・。
・・・もしかして。
もしかして、もしかして・・・音葉も木坂のことを―――――――?
「・・・心友。だけど・・・ライバル、みたいな関係になっちゃったのかなぁ・・・」
真友はまた走り出した。
ひとつ、心当たりを見つけたから。
「音葉ーーーーーっ!」
「え・・・」
声が聞こえた。
「音葉!?」
「ま・・・真友・・・?」
滑り台の穴の中をのぞくと――――――音葉はいた。
「真友・・・!」
ぎゅっ
「え・・・」
音葉に抱きつかれて、真友はストンと座り込んだ。
「待ってた・・・来てくれるの・・・」
「音葉・・・」
「真友なら約束、覚えててくれるって、思ったの」
真友ははっきりと思い出した。
真友が男子に何か言われて、教室を飛び出してったあのとき。ちなみに、しゃべるのが苦手になったのはそれからのことだった。
どうしたらいいかわかんなくなって、音葉と同じように、滑り台の中でシクシク泣いていると・・・音葉が駆けつけてきて、「大丈夫⁉」と叫んでくれたんだ。
「困ったら、頼る。親友なんだから、ね?」
「音葉・・・」
「じゃあ、分かった!何かあったときは、滑り台の穴の中で集合。そうすれば、困ったときに頼れるもん」
にこっと笑う音葉。
そうだ、約束したんだ。
「音葉、あの・・・ちょっと聞きづらいんだけど」
「ああ、私の好きな人のことね」
大きな声で言ったので、真友は「えっ」ととぼける。
「あれは、木坂だけど、さ。私、告白したらふられたよ」
「へ?」
「うん。だからあきらめたの。それに真友と争うみたいなことはしたくなかったし。・・・でも、ケンカしてむしゃくしゃしてたから、先に告白しちゃった。ごめんね」
「・・・え、いや・・・」
「私、真友のことを応援するって、約束したのに。あはは、バッカみたい」
「音葉は、バカじゃないよ」
「え・・・でも、私、」
「いいの。バカじゃないんだから」
さっきまで大雨だった空は、いつのまにか、小雨になっていた――――――。
「じゃーねー」
「うん。いろいろごめんね、あと、ありがと」
音葉と別れると、そこには木坂がいた。
「き・・・・・きさか・・・・くん」
「おう。仲直りしたのか・・・。よかったな」
「う・・・うん・・・」
「空、見たか?さっきまで大雨だったのが、小雨に変わってる。
・・・見てたら、今の有岡と井上なのかなーって思えてきて・・・」
あぁ・・・
今はもう、雲一つない青空になっている。
雨は止んでいた。
「って、お前・・・髪の毛びっしょりだぞ」
「あ・・・さっき・・・」
「そうだな。自分のことなんか気にせずに、井上のことだけ考えて走ってったもんなー」
にこっと笑う木坂。
なんだか、音葉と似ている。
真友の周りには、いつも笑顔でいてくれる人が、たくさんいる。