アマヤドリ
ザーーーー…ザーーーー…
「うそっ」
真友は慌てて走り出した。
近くにあった、閉店している店の屋根に駆け込んだ。
雨はどんどん、強くなっていく・・・。
有岡真友、それが彼女のフルネーム。中学3年生で、子供のころから内気で引っ込み思案な性格は変わらなかった。
人と話すのもちょっぴり苦手。特に男子。親友の井上音葉が真友の通訳係なのだ。
真友の前に、かさをもってるクラスの女子たちが通りかかった。
音葉なら、普通に「傘入れて!」って言えるんだろうけど、真友にそんなことは無理だ。
1人と目が合ったけど、誰も声はかけない。
その時だった。
「うわーーーっ、やっべーーーー!」
大声が聞こえたかと思うと、真友のいる屋根の下に、1人の男の子が駆け込んできたのだった。
「・・・っ⁉」
真友はびしょぬれになってでも、この空間を抜け出そうと思った。
足を出した、その時――――――
「おいっ」
男の子に腕をつかまれて、屋根の下から出るのを阻止される。
「・・・ぁ・・・」
「お前、この雨の中、走ってく気かよ」
真友を止めるのに相当力を使ったのか、はあはあしている、その男の子。
「って、お前・・・うちの学校の制服じゃん。何年?」
「・・・さっ、・・・3・・・・」
「3年?俺も。何組?」
「・・・に・・・っ、2組・・・で・・・す・・・」
「2組?」
男の子はうーんと考えた。
「・・・お前、有岡?」
そういわれて、真友は初めて顔を上げた。
そこにいたのは、同じクラスの男の子、木坂幸希だった。
「あっ、・・・き、木坂・・・くん」
「お前有岡だったのかよ。ずっと顔上げねーし、ほんとだれかと思ったじゃんかよ」
「・・・ごっ、ごめ・・・なさい」
木坂は、ふうっと息をついた。
「俺、初対面の子に嫌われてるって、やだから。良かったよ、有岡で」
「・・・・・」
木坂と真友は、同じクラスといっても、地位が違う・・・真友はそんな風に感じていた。
真友はクラスでも目立たないタイプ。さっき通りかかった女子たちに気に入られるなんてこともないし、クラスで仲がいいのは音葉ぐらいしかいない。
それに比べて木坂は、いつも明るいクラスのボケ担当。真友はあまり興味がなかったけれど、暇つぶしに見ていたら、だんだん、木坂のネタが好きになってきた。
生徒会にも入っている。惜しくも生徒会長には、なれなかったけど。
「雨、だんだんひどくなってきたな」
「・・・う、うん・・・」
ザーーーーー・・・ザーーーーー・・・
もう学校の人たちは、きっと全員家に帰った。ここの前を通りかからなくなっている。
「有岡、スマホ持ってるか?」
真友は小さく首を振った。
「・・・やったー‼」
「え・・・」
持ってないのに、やったー?どういう意味だろう・・・真友は考えた。
「あ、ごめん、混乱したよな。いや、あのな。うちのクラス、有岡以外の人、全員スマホ持ってんだよ。俺持ってないから、クラスで1人だけ持ってないの、嫌だったんだ、ずっと」
真友はスマホなんて持っても、連絡する人いないし、家と学校も近い。塾には親が迎えに来るから、自分からいらないって言っていた。
・・・本当は、ずっとほしかった。から、音葉ともう1人、連絡できるくらい仲のいい親友ができたら、欲しいってねだろうと思っていたのだ。
親友に限らない。
・・・もちろん、恋人でもいいって、思っている。
「『スマホ持ってない同盟』なんて、結ばれんのイヤかもな!でもなんかホッとしたよ。有岡、なんか、ありがとな」
・・・男子にありがとうなんて、はじめて言われた・・・真友は思った。
「こ、こっちこそ、ありがとう・・・」
「ん?何が?ああ、スマホ持ってない同盟?有岡も結びたいって思ってたの?」
「・・・え、ああ、あ・・・まあ・・・うん・・・」
「なんだー」
木坂はイヒヒっと笑った。
「有岡も面白いとこ、あんじゃん。かわいい‼」
真友の顔が、真っ赤になった。
「あ・・・っ」
木坂も、自分で言ったことに照れてしまっている。
サァーーーーーー…サァ―ーーーーー…
「雨、弱まってきたなー。良かった」
「・・・あ・・・あの・・・ねっ」
真友は顔を真っ赤にして、言った。
「・・・一緒に・・・かえ・・・ら、ない・・・?」
どうして勇気が出たんだろう。
雨っていう天気で、神様が恋のチャンスでも、くれたんだろうか。
真友は、木坂のとなりを歩きながら、考えていた。
「ここが有岡ん家なんだ、でっか‼」
「そ、そんなこと、ないよ・・・」
木坂と一緒に帰ってきた真友は、雨の中、自分の家にたどり着いた。
「今日、また新しい友達ができたみたいで、俺、うれしい」
「・・・あ、・・あ・・・り・・・がと・・・う」
真友の声を聞くと、木坂はこう言って、帰った。
「お前の声、ちょっと、大きくなったな。これでまた話せるわ、じゃーな!」
「バ…バイ・・・バイ」
また木坂と話せるんだ、よかった。
真友はそう思った。
「・・・また雨、降ってくれないかなぁ・・・」
真友は自分の部屋で、そうつぶやいた。




