真っ黒な私の護衛が勇者になる動機
初投稿です。お手柔らかにお願いします。
「ナマル王国までの道のりの護衛をセルバに任せる。王女の事を最優先に行動するように」
王座に腰掛けているお父様、つまり国王様がセルバ様に向かって命令した。
とにかく真っ黒な装備で身を包んだセルバ様は小さく頷いている。
それにしても憂鬱です。
何故ならナマルの国へは、王子様に会うために行くのですから。お父様は、私をナマルの王子様と結婚させるつもりなのです。
つまり今回の訪問の目的は王子様との結婚する前の顔合わせにあります。
私だって王女とは言えその前に女なのですから、好 きな人くらい自分で選びたいのですが、このご時世なので仕方ありません。
というのも、先日魔王が復活して世界は大混乱。いがみ合っていたわたしの国とナマルの国も休戦を強いられまた。
しかし、お互い信用し合うことは難かしく、とうとう私が王子の妻、兼人質となることで解決したのです。
なにもかも仕方がありません。
私はトボトボとその場を離れた。
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「で、では行きましょぅ。王女様」
なんとなくおどおどした感じで、セルバ様は仰った。
「わかりました」
私が馬車に乗り込むと、出発した。
ナマルの国までは馬車での移動になる。結構遠いので途中で町の宿に泊まる予定だ。
それにしても驚きました。お父様が任せると仰いましたけど、まさか護衛が本当に一人だなんて。それ程この方が強いということなでしょう。
ーーーーーーーーーー数時間後ーーーーーーーーーー
急に馬車が止まった。
「どうかしましたか」
「あ、えっと、はい。魔物がいたので、少し待っていてください」
セルバ様が剣を抜く音が聞こえた。
どれ程の実力なのか少し気になります。私は馬車の扉から顔を出してみてみることにしました。
ゴブリンです。痩せていてなんとなく弱そうです。セルバ様を見てみると、震えている?
いや、そんなはずはないです。よね?
「スーパーダークブラックインパクト」
バシュ
とんでもない名前の攻撃と共にゴブリンは倒れた。と思ったら、どういうわけかゴブリンは倒れていません。怯え顔のゴブリンは急いで逃げて行きました。
どういう事でしょうか。セルバ様を見てみると顔色が青い気がしました。
「あの、具合が悪いのでしたら少し休んでから出発しましょうか」
「い、いや大丈夫です」
「でも顔色も悪いですし、今もゴブリンを逃してしまいましたよ」
「そ、それは」
「それは?」
戸惑っているのが簡単にわかった。
すると急にセルバ様の雰囲気が変わった。
「右手に封印されし暗黒竜が疼きだしたせいだ。もう大丈夫、封印は完全に修復された」
何故か口調も変わっている。でも私は見逃しませんでした。彼の視線が右上を向いていることを。お母様が言っていました。嘘をつく時は自然と視線が右上にいくと。
「今嘘つきましたね」
少し怒った口調で言い、逃げられない様に手を握る。
「い、いえ暗黒竜はみんなの心の中に」
さらに右上に視線がいく。怪しい。
「そもそも、あんこくりゅうってなんですか」
「それは、漆黒の翼を持ち天空を駆ける伝説の黒竜。その力は世界を一瞬で焼き払うほどなのだ。です。」
おどおど話していたと思ったら急に熱が入った様に話し出す。多分この人は、あんこくりゅうなるものに憧れているのでしょう。
だがら、服装も真っ黒です。好きは好きでも、嘘はいけません。
「とにかく、嘘はいけません。私は嘘がわかるですから。何故逃してしまったのか言ってください」
怒った顔を近づける。
「えっと、その、実は、魔界黒煙龍が」
「怒りますよ」
「す、すいません。実はその、怖くて。いつもこうなんです。剣術の成績はいいんです。でも練習だけで、実践になると…。でも、頑張りますので、護衛の任務はどうかお任せください」
怖い?では何故お父様はこの方に護衛を。もしかして強そうだったから?少し不安になってきました。
しかし、セルバ様は、絶対に守ると言わんばかりの目で私を見つめてきます。私が目を合わせると、何故か顔を赤くして逸らされるのですが。
まあ大丈夫でしょう。ここらの魔物はあまり強くないのではずなので。
「わかりました。とりあえず日がしづむまでに町に着かないといけないので、行きましょうか」
「は、はい」
決意の漲った嬉しそな顔で返事が返ってきた。
その後も何度か馬車は止まりその度にセルバ様は剣を抜いた。幸い強い敵はいなかった様なので、なんとかなった。
馬車が止まるたびに聞こえてくる、ブラックソードブレードとか、暗黒ブラック斬りとかの意味はよくわからないけれど。
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町に入るとすぐに、声をかけられた。
「宿をお探しではありませんか。馬車は俺たちがなんとかしときますので、ついてきてください」
そう言われたので、きっとお父様の手配だと思い、私は馬車から降りてセルバ様と一緒に声をかけてきた男についていった。ガタイのいい男だ。
薄暗い路地に入っていく。
本当にこっちで合っているのかと、少し不安に思って尋ねてみた。
「すいません。本当にこっちなのですか」
すると男は振り返り、不気味な笑みを浮かべながら答えた。
「あぁ、ここで間違いよなオルガ」
「okだ」
セルバ様も驚いている。
私は不意にした声の方に振り向こうとした瞬間、何かに頭を殴られてしまった。
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目を覚ますと目の前には信じられない光景が広がっていた。セルバ様が縛られ、そのまま声をかけてきたに殴られ蹴られしているのです。
「おら、言え。そこの女は誰なんだ。高そうな馬車だと思ったら、これまた高そうな女が乗ってやがる。どこへ身代金を要求したらいいかわかりゃしない」
嘘、なんでこんな事に、
「やめて」
私は大声で叫んだ。
「おっと。やっと起きたか。最初からお前に聞けばよかったんだがなぁ。まあいい。お前は誰だ。このボロ雑巾に聞いても答えやがらねえ」
「その人に暴力を振るわないで」
私は泣きそうになるのを必死でこらえて、震える声で言った。
「質問を命令で返すな。お前は誰だ。そうだ、それとついでに、この雑魚はなんなんだ。強そうでいて実はクソ雑魚だ。俺にやめろ〜とか言って襲いかかってきたから殴り返したら吹っ飛びやがる。しかも、何回も何回も殴られに飛び込んできやがる」
セルバ様の姿を見てその痛みがどれほどのものだったのか想像するのも辛い。
それを雑魚呼ばわりなんて許せない。
頭の中でブチっという音が聞こえたのが自分でもわかった。
「うるさい。人を傷つける貴方達の方が雑魚よ。絶対に許さない。早く縄を解いて」
男はニタニタと笑いながら言った。
「いい事教えてやるよ。俺はイライラすると周りのものを蹴り飛ばしたくなるんだ。こんな風にな」
そういってセルバ様を二、三度蹴った。
さっきまでの怒りが、一気に絶望に変わる。
「もう、やめて 」
「ならとっとと質問に答えろ」
「答えるわ。だから彼を解放して。お願い」
「解放するわけねぇだろ」
「まぁいいじゃねぇか。解放してやれ。もうクソの役にも立たない。どうせこいつはそこの女の家来ってところだろ。装備は奪ったんだ。もう用はない」
もう一人の、確かオルガという名前の男がそういった。しかし、その顔には善意など一欠片もなく悪意の塊だった。
「おい、いいのかよ」
「いいんだよ。お前は見たくないのか。さっきまで、「その人を返してください」とかいってカッコつけてだ奴が無様に逃げていく様を。自分が勇者とでも思ってた奴が、無力を悟って逃げていく姿を」
「ハハハハ、さすがオルガだ。いい酒のネタになりそうだな。…………おら、とっとと失せろカス」
そう言って下衆な笑みを浮かべた男にセルバ様は縄を解かれた。しかし、セルバ様立は逃げようとしない。
「早く逃げて」
「いやです、貴方を守るのが私の使命です」
「そんな体で何ができるの。いいから逃げなさい」
「いやです」
「ダメ、逃げなさい。生きていることが何より大切なの。あんな奴等の安い挑発に耳を貸さないで」
「いやです」
「逃げて」
「いやです」
「逃げて、お願い」
「いやです。私は貴方を守ると約束しました。それに私はそこの男二人が許せませんので」
口にするのもしんどそうなのに。このままもう一ど殴られたら、本当に死んでしまう。
「おいおい聞いたか、こいつ、俺等が許せないらしいぜ。せっかく逃げられるチャンスだったのになぁ〜。じゃあ相手してやる、かかってこいよ」
ダメ、やめて、そう叫びたくても言葉にならない。本当は嬉しかったからです。そういって欲しかった。でもそれはとっても酷い事だとだともわかっている。
私は自分のわがままな欲望を押し殺して、叫んだ。
「逃げて」
「もう大丈夫です」
そう言ってセルバ様は、ボロボロの笑顔を私に向けた。
「今一番怖いことは、王女様を見殺しにするとことだ。お前等なんてもう微塵も怖くはない」
「何わけわかんねえ事言ってんだ。かかってこないならこっちから行くぜ」
そう言って男はセルバ様を殴るためにまっすぐ突っ込んでいった。セルバ様は軽くかわして、相手の腹部を思いっきり蹴りあげた。男は腹を抱え、泡を吹いて倒れてしまった。
「おい、冗談だろ」
もう一人の漢は動揺を隠せていない。
「お前もやるのか」
セルバ様はもう一人の男を恐ろしい剣幕で睨んだ。
男は隠し持っていたナイフをセルバ様に投げつけた。しかしそれを軽々と指で挟んで受け止めるを
「チッ」
そう言って男は走り去ってしまった。
セルバ様は、おぼつかない足取りで私の方に近づいてきた。そして縄を解いてくれた。
私はセルバ様を抱きしめた。
「バカ。死んじゃうんじゃないかって、私 本当に怖かったのよ」
「すいません、怖い思いをさせてしまって」
「そうじゃないわ。逃げなかった事に私は怒ってるのよ」
「申し訳ございません」
「バカ、…………でも、ありがとう。かっこよかった」
セルバ様は、ボフっと効果音の付きそうなぐらい顔を赤くした。
「え、その、あの」
私は無視し、セルバ様に回した手を離さない。
「貴方が私の結婚相手ならよかったのに」
ふと口からそんな言葉が漏れてしまった。
「え、あのそれって」
ますますセルバ様が赤くなっているのがわかった。そういう私も恥ずかしくて顔が熱くなるのがわかった。私は慌てて手を離す。
気まずい。
突然、セルバ様が口を開いた。
「僕は、国王様に王女様のことを第一に行動しろと言われました。僕は王女様が嫌がっている結婚の準備に、王女様を連れて行くのは命令違反だと考えました。だから、私は王女様を連れ去ることにしました。ダメですか」
え、冷めてきた顔の熱が一気にぶりかえしたのがわかった。嬉しかった。でもそれはダメな事だということを私は知っていた。
「ダメよ。嬉しいけどダメなの。私が結婚を断ったら第2王女が、私のために結婚しなくてわならいわ。そんなことさせられないもの。それに、お父様の名誉も傷つけてしまうわ。ごめんなさい。でも本当に嬉しいの。ありがとう」
「だったら」
不意にセルバ様が呟いた。そして私をじっと見て言った。
「僕が魔王を倒します。そうしたら王女様が結婚する理由は無くなります。そうですよね」
「それは、そうだけど」
「わかりました。僕は、仲間を集めて、魔王を倒しに行きます。そして倒して帰ってきた時には、僕と結婚しください」
真剣な目で私を見つめてきた。馬車での移動の時のおどおどした感じは、そこに一切なかった。
「はい、喜んで」