ゴミ
おっ来た来た! 待ってました。
おれは最近、この女の捨てるゴミが欲しくて欲しくてたまらない。
一種のストーカーのようなものだと自分でも思う。
やつれてはいるが女は美人の部類だったし、何といってもゴミがいい。
おれの機嫌がいいから、一体どこに行っているんだと尋ねる奴もいたが、無視してさっさとここに来た。
ここはおれの場所だ。誰かに教えてやるつもりなど毛頭ない。
女はいつものように、おどおどした様子でネットの中にゴミ袋を入れた。
早く行け。
っと他の住人か。ゴミ収集車が来る前に、素早く仕事をこなさなくてはならない。
しかしなぜかこの日に限って、ネットの前で立ち話をするババアがいる。
おれは苛々を押し殺しながら、仕方なく入ってくる声を聞いた。
「最近汚れてるでしょう、ここ」
「そうねえ。やっぱりネットじゃだめなのよ。ほら、隣みたいにカゴにしないと」
「せめて掃除当番をみんながキチンと守ってくれればねえ」
「仕方ないわよ、働いてる人も多いみたいだし。でも変わりにやるのは嫌なのよねー」
そう言ってゲラゲラと下品に笑う。思わず頭を蹴飛ばしてやりたくなる。
ババアが消え、小学生のガキが通りからいなくなった頃、おれは行動を開始した。
まずゆっくり慎重にネットを外す。こんなのは朝飯前だ。
続いて目当ての女のゴミ、それを引っ張り出す。おっと車か。おれは何気ない振りを装う。
どこか近くで収集車の接近を知らせるメロディが聞こえてきた。
クソ、焦るな。この結び目だけが最後の難関だ。
ええい!
つい面倒になり、おれはとうとう袋に直接穴を開ける。
しばらく誰か来ないか様子を窺う。
ああ、このむわっと香るにおい。食欲がそそられる。
あったあった。奥の方にある新聞紙にくるまれたもの。今日は何がはいっているかな。
クソ、今日はこっちも念入りだ。おれは足で紙を押さえ、何とか中身を取り出そうとした。
そこで、角を曲がってこちらに来る収集車が見えた。
このまま持って行くか? おれは咄嗟にそう考えるが、どうにも掴みにくいし、中身が落ちる可能性を思うと躊躇われた。
そうすればきっと、他の奴らが持って行ってしまうだろう。
これはおれのものだ。
犬を散歩するジジイがおれを避けるようにして歩いて行く。
もう見られてもなんとも思わない。疎まれるのはいつものことだ。
あと少し、あと少し……。
風で新聞紙が飛ばされた。それには血や、どろどろしたものがこびりついている。
中に入っていたのは、二つの濁った丸いもの。周りに赤黒いわやわやが付いている。
まるで帆立みたいだ。だがそれが帆立でないことはおれにも分かっている。
中心を突くと、中からゼリー状の液体が僅かに漏れだした。うん、味は悪くない。
周りはかぴかぴに乾燥しているが、中はまだ柔らかい肉の触感がする。
通りかかった女が急に叫んだので、おれは慌てて一つを口に咥え、その場を離れた。
あの女の目も突いたらゼリーが出るのだろうか。
そう考えると可笑しくなり、おれは口を開けたまま自慢の翼を広げて一鳴きした。
近所に鉄かご? のゴミ置き場ができてました。入れにくそうです。