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四.署名

「おい、何だよ、あの単語帳の内容は!?」

 次の日。教室に着くと、僕は早速、単語帳を作成したクラスメートに詰め寄った。

「今週の、面白かったでしょ?」

 机に座ったまま腕組みをして僕を見上げる女生徒は、古坂古都里ふるさかことり。小学校からの腐れ縁だ。

 ショートカットの彼女は、悪びれた様子もなく指で髪をひとかきすると、文句なら受けて立とうと言わんばかりの挑戦的な目つきで僕を見た。

「面白かったじゃないよ。『変な姉ちゃん』って、あれ何だよっ!?」

 思わず僕は声を荒らげる。

「ちょ、声がちょっと大きいよ」

 古都里は眉をしかめ、僕を制するように声のトーンを落とした。

「せっかくオモシロ語呂合わせを集めたんだから、面白かったって言ってよね。なに? 新治的にはつまらなかった? それとももっとエロい方がいい?」

 えっ、さらにエロいのがあるのか?

 じゃなかった、あの内容が受験にとってメリットがあるのかどうかって聞きたかったんだ。

「さっきも聞いたけど、『変な姉ちゃん』って何? あれを覚えて意味があるの?」

「あら。それを調べるのが新治の宿題じゃない。意味が分かれば、受験に役立つかどうかも分かると思うけど」

 ぐぐっ、まあ確かにそうだけど……。

 反論できずに言葉を詰まらせた僕に、彼女は畳み掛ける。

「でもあれは簡単な方ね。だって文をそのまま検索すれば答えが出ちゃうもん。それに比べてイチゴパンツはちょっと難しかったんじゃない?」

 幼馴染みとはいえ、同級生の女の子の口から『イチゴパンツ』が飛び出してくると、ちょっぴりドキっとする。

 確かにイチゴパンツは難しかった。年号を示すことがわかって、ようやく解く事ができた。

 ていうか、あれは僕を悩ませるためにわざと『信長』という単語を入れてなかったのか。

 古都里の魂胆に呆れながらも、『変な姉ちゃん』については後で検索してみようと思う。

「じゃあ、金曜日に答えを待ってるからね。あっ、そうだ、別件で新治に書いてもらいたいものがあったんだ……」

 思い出したように古都里は鞄の中をのぞきこみ、何かを探し始めた。

「あった、あった」

 そして一枚の紙を取り出す。

「はい、これに署名して!」

 署名だって?

 署名って「◯◯反対!」とか、たまに街頭でやってるやつだろ?

 怪訝な顔をしながら、僕は渡された紙に視線を落とす。


『街灯LED化に反対しよう!』


 驚いた。

 どうやら街灯の白熱電球をLEDに換える計画があるらしい。

 なんという朗報だと、僕は夢中になって中身に目を通す。

「なんでもね、旧街道沿いの街灯をすべてLED化するって、町と観光協会が決めたらしいのよ。しかも、急きょ今週末にやるって言うんで、とーちゃんカンカンに なっちゃって、『そんな青白い光で街を照らされちゃ、うちの蕎麦が不味くなる』って、商工会の面々を集めて署名活動をやってるわけ」

 そういえば古都里の家って、旧街道沿いの由緒ある蕎麦屋だったな。

 青白い光って、確かにノーベル賞で青色LEDが注目されてるけど、すべてのLEDが青白いわけでもないと思うけど。

「確か、電球色のLEDもあるよね?」

「それって年寄りに言ってもわかんないのよ。学校でも署名を集めて来いってうるさくってさ。あれ? 新治、興味あるの?」

「ああ、まあな……」

 逆の意味で、だけどな。

 LED化すると聞いて、つい嬉しそうな顔をしてしまったのだろう。それを見逃さなかった古都里は、僕が署名賛同と勘違いしたらしく、鞄から同じ紙を何枚も出してきた。

「まだまだあるのよ。ちょうど良かった、新治も協力して」

「分かった」

 僕はニヤリと笑いながら署名の紙を受け取る。

 これをこっそり捨ててしまえば、LED化反対の署名が減るかもしれない。そうなったらこっちのものだ。

 LED化が実現しそうな喜びで思わずにやけてしまいそうになり、僕は慌てて話題を変える。

「そういえば古都里、あの旧街道沿いで死神が出るって話、聞いた事ないか?」

「えっ、死神が出るの? どこで?」

 思惑通り古都里は食いついて来た。彼女のオカルト好きは相変わらずだ。

 昨晩、旧街道で出会ったアルさん。その存在感の無さが、ずっと気になっていた。

「最近のことじゃなくて、この町にそういう話があるのかって感じで知りたいんだ」

 ホントは昨日のことなんだけど。

「そうね……」

 古都里は再び腕組みをして考え始める。

 すぐに思い当たらないところを見ると、そんな噂は無いのかもしれない。

「うちの町だったら、幽霊ならどこでも出そうなんだけどね」

 がはっ、そういうことか。

 まあ、幽霊でも構わないんだけどさ。

「どこでもって、特にどの辺り?」

「旧街道で言えば、お寺の山門のところが怪しいんじゃない?」

「お寺の山門って?」

「ほら、旧街道に入ってから百メートルくらいのところに割と立派な山門があるじゃない。あの門って、昔はお城の丑寅門だったらしくて、色々な逸話が残ってるそうだけど」

 そうなのか。

 今日の帰りは注意して見てみよう。

「もしかして新治、その山門で死神を見たとか?」

 ギクッ、こいつ鋭いな。山門かどうかはまだわからないけど。

「そんなんじゃないよ、詳しくはまた今度な。じゃ、署名を持って行くよ」

「よろしくね。死神の方もね!」

 ウインクする古都里に片手で合図しながら、僕は自分の席に向かった。

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