十三.後悔
「古都里を裏切ってしまった……」
その夜は眠れなかった。
ポケットの中に入っていた四十ワット型LEDと白熱電球を自室の机の上に置き、僕は一晩中考える。
署名すると言っておきながら、署名なんてしなかった。
それどころか、自ら率先して交換作業を手伝った。
軽蔑されても仕方が無い。
古都里のとーちゃんに言われた内容もキツかったが、彼女が今どういう気持ちでいるのかを考えるとギュッと胸を締め付けられるように辛かった。
「今回は謝っても許してもらえないよな……」
案の定、眠い目をこすって登校した週明けの教室では、僕は古都里に無視されてしまった。
いつもだったら、「はい、これ今週の宿題」って単語帳を渡してくれるのに。
彼女に掛ける言葉を何も見いだせないまま、その日の授業は終了した。
「しょうがない、アルさんに相談してみるか……」
そもそも電球交換の手伝いは、アルさんに喜んでもらうためにやったことだ。
彼女の喜ぶ顔を見れば、古都里のことはしばらくの間、忘れることができるような気がした。
いや、僕はただ、アルさんに優しく慰めてもらいたかったのかもしれない。
旧街道入口に到着すると、交換したLEDはいつもと変わらずぼんやりと町並みを照らしていた。
「なんだ、全然変わらないじゃん」
僕の嫌いな薄暗い風景。
しかし、これだったら古都里や彼女のとーちゃんも納得してくれるんじゃないかと、ほっとする気持ちも湧いて来る。
なんとも複雑な気持ちが僕の中でグルグルと回り始めていた。
「それよりも、山門のところはどうだ?」
観光協会が用意した四十ワット型ではなく、僕が小遣いで買った六十ワット型に交換した街灯。
その場所は、遠くから見てもわかるくらい明るく照らされていた。
「うほっ、結構明るいんだな」
僕は思わず小躍りする。そして山門の前に辿り着くと、会いたい人の名前を呼んだ。
「アルさん? どうです、明るくなりましたよ!」
しかし、何も反応は無い。
「どうしたんです? 自慢の足が見えるようになって恥ずかしくなったんですか?」
僕の呼び掛けは、空しく澄んだ冬の夜空に消えて行く。
しばらく山門の前で待ってみたが、アルさんが姿を現す様子はない。
「ううっ、寒ッ!」
三十分もいると、体が芯から冷えてくる。
アルさんのことを何回も呼んでみたが、とうとう姿を現してはくれなかった。
「これで雪なんか降ってたら大変だぞ」
僕は古都里から聞いた、愛しき人を待つ町娘の話を思い出す。
朝まで待ってたりなんかしたら、間違いなく凍死するだろう。
「どうして出てきてくれないんですか? アルさん……」
今日はもう心が耐えられそうにない。古都里の件が疲労に拍車をかけていた。
僕は失意に打ちのめされて、とぼとぼと帰宅の途についた。