十一.約束
「うへっ、LEDってこんなに高いの!?」
金曜日の夕方。電器店にて僕の目ン玉は飛び出した。
「四十ワット型で千円、六十ワット型で二千円……だと……」
さらに、一番明るい百ワット型になると三千円を超えるものもある。
種類も、『電球色』と『昼光色』と『昼白色』があって、名前だけではよくわからない。パッケージの写真から判断すると、『電球色』が一番白熱電球に近い 感じがする。間違って『昼白色』に交換しちゃったら、アルさんには「宇宙人なのに幽霊っぽい」と怒られ、古都里のとーちゃんには「蕎麦が不味くなる」と叱 られるに違いない。
それにしても、どの色も値段が高い。
てっきり五百円以下だと思っていた僕は、財布の中身を見ながら店内でしゅん巡する。
「でも、アルさんと約束しちゃったしな……」
『この街灯だけは、僕が責任を持ってこれまでと変わらないようにします』
僕はアルさんと約束した。
そして、今よりも明るくなったら嬉しいと彼女ははしゃいでいた。
つまり、アルさんに喜んでもらうためには、電球色のLEDで、観光協会が用意するものよりもちょっと明るいタイプを買わなくちゃいけない。
「観光協会は、いったい何ワット型のLEDを用意してるんだろう?」
僕は一旦店の外に出ると、観光協会に電話をかけてみる。
すると、用意するのは電球色の四十ワット型という答えが返ってきた。
「それより明るいタイプとなると、六十ワット型か……」
金額二千円ナリ。
僕は泣く泣く千円札を二枚出して、六十ワット型の電球色LEDを買った。
明後日の交換には、これをこっそりポケットに忍ばせて行かなくちゃいけない。そして、山門のところの街灯の電球を交換する時に、観光協会が用意した四十ワット型ではなく、この六十ワット型を取り付けるのだ。
「アルさん、喜んでくれるかな……」
家までの夜道を歩きながら、僕はアルさんの笑顔を思い浮かべる。それと同時に、僕はもう一人の女の子のことを思い出していた。
「そういえば、今朝の古都里はなんだか不気味だった」
昨日は古都里を悲しませてしまった。この町が好きじゃない――そんな心無い僕の一言で。
いつもだったらそんなことがあった翌日は、「ふん、新治なんか知らないわよ」とソッポを向かれるはずなのに、今朝の古都里はいたって平素だったのだ。
答えを記入した単語帳を返す時、一言ゴメンと謝罪を添えたからだろうか?
でも、それくらいでは簡単に許してくれないのが普段の古都里だった。
『いいわ、新治の気持ちはよく分かったから』
物分りが良すぎる彼女の返事に僕は耳を疑った。
いつもの古都里はもっと不器用な女の子だった。
「まあ、いっか。古都里にちゃんと話す機会だと思ったけど、また別の時でいいや……」
それなら今は日曜日の交換作業に集中しよう。
僕は、LEDの入った紙袋をぎゅっと握りしめた。