十.正体
その夜。
家で単語帳に答えを書き込みながら、僕はアルさんの正体について考える。
「国連常任理事国を知ってるなんて、江戸時代の町娘とは思えないぞ」
常任理事国が設定されたのは第二次世界大戦後の話だし、さらに『アフロ中井』はソビエト連邦がロシアに変わってからの語呂合わせだったりする。
そもそもアルさんは洋服を着ているじゃないか。町娘が幽霊になったのなら和服で登場しなくちゃおかしいだろ?
「やっぱり、宇宙人なのかな……」
それもなんだかぱっとしない。
そもそも宇宙船が隠された形跡もないし、あの場所から動けないというのも宇宙人っぽくない。
「あー、わからないけど、美人だからいっか」
数時間前のアルさんの笑顔。
特に、僕が「この町を嫌いじゃない」と言った時の安堵の表情が忘れられなかった。
「古都里にもちゃんと謝っておこう」
この単語帳を渡す時に、一言謝らなくちゃいけないな。
母さんのことは恥ずかしくて言えそうにないけど。
古都里だって、僕の本心が伝われば分かってくれるはず。
アルさんの笑顔がそれを証明していた。
「そうだ、そういえばLEDを見に行かなくちゃ!」
僕は突然思い出す。
電球交換は今度の日曜日だ。
明日の夕方は電器店に寄って帰ることにした。