帝国最強の女-1
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「だからなんでちゃんとリロードをしないのバカッ!!」
リョウが怒鳴る。この一週間、プラグアウトしたあと、ずっとこんな感じでスターバックスを騒がす俺とリョウ。オープンフィールドでフリーバトルに投入され、必死に経験値を上げている。もちろんリョウも一緒にダイブして、鬼軍曹のごとく俺に激を飛ばす。
「だいたい、いつになったら自分の銃の弾の残りを覚えるの?引き金弾くたびに数えてるとか?バカじゃないの!?ある程度撃ったらすぐリロード!肝心な時に弾切れってなんなのよ!銃からマガジンを抜いて、腰についてる予備のマガジンを装着、そしたら自然とあんたの腰に新たなフル装弾のマガジンが着いてるの!その繰り返しでしょ!いい加減覚えなさいよね!!」
ずっと同じ事を言われ続けているから、頭では理解しているんだが、フィールド内で戦っているとリロードまで気がまわらない。
「しかも昨日なんて無防備に突っ込んでいくから、セーブ前に撃たれてリタイアして…まったく無意味で時間の無駄!いい?一日一回しかダイブできないのよ!1回プラグアウトしたら20時間はダイブできないの!端末使用料だってバカにならない!わかってるの!?」
わかってますよ…。俺とリョウのこの一週間の端末使用料はパーティーの資産から出してもらっている。昨日、金を出して獲たものは経験値ではなく体中のアザだった。フィールドで蜂の巣にされた俺は、ブースで目覚めた時、体中に内出血のような無数のアザがあった。リアルダメージ。脳とシンクロするFRONTIERは、フィールド内で受けた傷を、脳が現実の体に指令をだし、戦争で受けた激痛を微痛として残すのだ。
「どうだ?うまくいってるか?」
毎日ヒデが、この時間帯で合流する。もちろんリョウは俺の失態を報告。ヒデは携帯端末を開き、俺の成果を確認しながら笑った。
「おお!なかなか順調じゃないか。やはりスピードのパラメーターを優先して上げているな。始めて一週間でこれなら先も望める。」
ヒデが俺のアバターのステイタスを見ながら納得の表情だ。俺がその日獲た経験値はプラグアウト後にリョウがパラメーターを振り分けている。
「あとこれ。」
ヒデが携帯端末を俺に差し出した。
「連絡とれないと不便だからな。持ってろ。」
ヒデが俺に渡した携帯端末は、手の平サイズのいわゆるPC。これを手に入れる為には身分証明書が必要で、未成年は保護者の承諾書が必須。そして維持費もかかる。俺のような遺児はなかなか持てない。
俺は興奮していた。この携帯端末は国民の八割が持っている。持っている事が当たり前の世界の中で、持っていない人間にすれば、それが憧れの境地以外何物でもない。はしゃぐ俺にヒデが、
「偽造の証明書で契約したから、あまり派手に使うなよ。」
と付け足した。
「あと、明日は久しぶりにミッションに出るぞ。」
ヒデがそう言うと、リョウが不満そうな顔で突っ掛かる。
「帝都大学さんのスケジュールのせいでパーティーミッションに支障がでるのよね。」
「まぁそう言うな。俺も今仕事が忙しいし、アサミも書き入れ時らしいからな。」
我がパーティーは様々な環境の中で時間を作りミッションに励む。
ヒデ(25)はフリーのプログラマーとして自分で仕事を請け負っている。
ダイキ(20)は帝都大学の学生。学部的に研究や研修が多い。
アサミ(17)もすでに自立して仕事をしているらしいが詳しい事はなぜか教えてもらえない。
「でもリョウさんも学校とか忙しいんじゃないですか?」
俺の問いにリョウが皮肉たっぷりに言う。
「は?帝都大学さんに比べたら私なんて大した事ありませんけど。」
リョウ(19)は聖サイモン女学院大学部の二年生。超お嬢様学校だ。私立で幼稚園から始まるエスカレーター方式。小学部、中等部、高等部、大学部とあり、全国のお嬢様たちが通う(学生寮あり)女子専門校だ。
「とりあえず明日は、B級のいつものフィールドでフラッグまで目指す。リョウのレベルがもう少しで上がるから、まずそっちを優先で今後進めようと思う。」
ヒデは端末を覗きながらリョウに言った。
「早くハイプレイヤーに上げてジョブを追加しなきゃね。」
リョウも端末を開き答えた。ジョブとはハイプレイヤー(レベル10以上)になると付加される特殊能力の事である。各アバターサイズにそれぞれ4つのジョブがあり、レベルが10になった時点でプレイヤーが任意に選択する。
例えばヒデのVERSEはアバターサイズLのジョブで、スピード値の上限がアップする。本来はリベロのポジションで最後方から攻め上がるLサイズが、ヴァースの特性によりスナイパーのポジションを兼任できるようになるのだ。これはより攻撃的なパーティー構成を可能にする。一度選択したジョブは二度と変更ができない為、慎重な判断が必要とされる。
ハイプレイヤーとなりジョブを付加させてからが本当のFRONTIERの始まりとよく言われる。レベル10なんて三年から五年は必要とされる下積みを熟して達成される偉業であり、FRONTIERプレイヤーの一割程度しか存在しない。そしてレベル10から更にレベルアップが困難を極め、確認されている最高レベルはアメリカのプレイヤーのレベル14である。
未だに世界中でコンプリートされた事のないR-SフィールドNO1。レベル1の俺にとっては、まだまだ関係のないフィールドである。
「私はジョブをHIGHLANDERって決めてるわ。確かダイキはDRAGONARだったかしら。アサミもなるべく早くレベル8ぐらいまで上げないとね。」
リョウが強い眼差しで言った。ハイランダー(Sサイズ並みにスピード値の上限を上げるジョブ)とドラグナー(装備重量上限の大幅アップ)は共にアバターサイズMのジョブである。
俺はヒデからもらった携帯端末をいじりながら、話の途中で突然席を立つ事態となった。施設の門限が迫っている事に気づいたのだ。
「すいません!!もう帰らないと!!!」
月に三回門限を過ぎるとペナルティーとして翌月まで私用の外出許可が下りなくなる。俺が暮らす西地区施設の独自のルールだ。今、外出許可が下りない状況になれば約束の三ヶ月でレベル3なんて不可能だ。俺はヒデの「気をつけてな」の声を背中に聞きながらスターバックスを走って出た。帰りの電車で携帯端末を開く。FRONTIERのサイトへアクセスし、俺のプライベートページへ飛んだ。
SHEENA SEX〔M〕レベル1
アバターサイズS
所属パーティーTHE END OF THE WORLD(JP)
装備1:M4
装備2:コルトM1911
装備3:SIG SAUER P230
ヘッド:初期装備帝国ヘルメットレベル1
フェイス:初期装備帝国マスクレベル1
ボディースーツ:初期装備帝国軍服レベル1
火器装備だけ見れば一人前の兵士だが、残念ながらリロードもろくにできない素人である。ちなみに三日前、未装備だった装備3にリョウからもらったSIGを入れた。オープンフィールドで数人倒してセーブをしてまた戦場へを繰り返しているとサイドアームの弾が足らなくなってしまった。そこでリョウが自分のストックからSIGをくれたのだ。ちなみにリョウのメイン火器のアサルトライフルはM16、サイドアームにコルト380。小型機関銃イングラムM11を撤退用のサブライフルに装備し、もうひとつの装備武器にニホントウを着けている。比較的軽装であるが、リョウ曰く「必要な武器さえ揃えば、装備重量の上限ギリギリに装備する必要はない」だそうだ。逆にダイキは装備重量の上限ギリギリである。FRONTIERがパーティーでのプレイが前提とされているため、同じアバターサイズMの二人だが、パーティー内でのポジショニングによって必要な武器が変わるのだ。
これはオールラウンダーであるアバターサイズMの宿命でもある。パーティーの事情で自分の戦闘スタイルが左右されるのである。パーティーによっては全員がMサイズであったりする場合もあるが、エンドオブザワールドに限って見れば、アバターサイズMはリョウとダイキの二人。リョウは攻撃的な装備で、ダイキはバックアップを主体にした装備。戦闘ゲームをプレイするにあたって、娯楽と言う観念で見れば攻撃的なアバターを構築する方がよりゲームを楽しめる。だが膨大な時間と労力と資金を費やすFRONTIERで、ゲームを楽しむよりもミッションのコンプリートを優先している奉仕的なプレイヤーの存在。ミッションのコンプリートにはこの役割分担が重要なのだ。我がパーティーにおいてはダイキがそれを担っているが、これはゲームなのだ。まるで本当の戦場のような人材選択を強いる必要があるのか疑問になる。この疑問を解決する鍵…俺は携帯端末の画面を検索モードに変え、
【FRONTIERの歴史】と打ち込んだ。




