ラズルシェーニエ 破壊 -4
3
フロア150
ラストステージへ向かう階段でリョウが俺に聞く。
『シーナ、残りの弾は?』
『あとМ4が3マガジン程…。』
俺の答えにリョウは、
『わかった。』
と簡単に返事をした。これはまさにフラッグがなんであれ俺は戦力ではなくリョウの火器装備を主力とした戦いになるということだ。俺はリョウの前に出て囮になる。すなわち死に役というわけだ。
腹を決めた俺はリョウより先にフロア150へと足を踏み入れた。そこには見たこともない2足歩行のフラッグが一機、ポツンと立っていた。体高3メートル程の巨体にガトリングを装備した威圧感溢れるその姿。
『ラズルシェーニエ!?』
リョウが驚愕の声を発する。
ロシアの無人兵器。第三次世界大戦で中国本土に配備されたロシア産の殺戮マシンだ。
このラズルシェーニエの大師団が、アメリカの中国制圧を守ったと言っても過言ではない。
『まさかラズルシェーニエが最後の番人とは…。』
リョウが俺の動きを止める仕草をして言った。
『ハイイーターがいない!!フラッグだけだ!!』
俺が言うがリョウから返事がない。彼女は今の戦力で、どうやってラズルシェーニエと戦うかを頭の中をフル回転させて思案している。
『シーナ、とにかく両サイドから攻めるわよ。』
リョウは俺に指示をする。もちろんわかっている。俺は残念ながら、このステージでは死に役だ。
リョウがラズルシェーニエをうまく墜とせるように動かなければならない。
『行くわよ!!』
リョウの合図で俺とリョウは左右に走り出した。
その瞬間…ラズルシェーニエはキュイーンと起動音を発して…俺の方に身を向けた。思惑通りだ。リョウは左側から遠めの旋回。俺は右側から近めの距離をとった。必ず俺の方を向く。
さぁ…俺の最大の仕事が始まったのだ。二人だけで挑むフラッグ戦。俺はラズルシェーニエとの距離を図り、ラズルシェーニエとリョウの位置を見据えながら連射を開始した。
ラズルシェーニエは同じ2足歩行の兵器である陸鳥とは違いスピードはそれほどではない。
機動力と適応力を誇る陸鳥とは対照的に、ラズルシェーニエは圧倒的な破壊力を重視した兵器だ。
首尾に装備されたガトリングを休むまもなく俺に唸らせている。
第三次世界大戦でのソウル攻防戦で38度線を越えて進行してきたラズルシェーニエ250機と、迎え撃った陸鳥300機の戦いはソウルを火の海に変え、巻き込まれた多くの韓国民の血で都市を染めた。
この戦いは、第三次世界大戦の中でも伝説のひとつに数えられる名勝負である。
逃げ惑うソウル市民など構わず、激しい戦いを見せたラズルシェーニエと陸鳥。
そのソウル攻防戦でかろうじて陸鳥が死守した結果に終わったが、その時ロシアが生んだラズルシェーニエという兵器に驚愕させられた。この陸鳥の勝利には韓国兵を盾に使ったアメリカ軍の頭脳戦の勝利とも言える。
この韓国兵の犠牲がなければラズルシェーニエにソウルを墜とされていただろう。
それだけ世界中に強烈なインパクトを与えたラズルシェーニエ。
その名の通り破壊のみを追及して作られた殺戮マシンなのである。
その後もラズルシェーニエは最前線で戦い陸鳥との熾烈な戦いを幾度も繰り広げた。ロシア史上、最強の陸上兵器を今、俺とリョウが相手にしている。とにかく動く。俺はラズルシェーニエをスピードで引き付けて、リョウに後方から狙わせる。もちろん2足歩行兵器の弱点は脚だ。リョウはラズルシェーニエの右側の脚を狙っている。
俺も残り少ない弾を右脚に集中させて引き金を引いていた。
ラズルシェーニエの厚い装甲にリョウのアサルトライフルから放たれた弾丸はことごとく弾かれていた。
こんなときに重火器を装備したリベロの存在が貴重なのだ。
なぜヒデは自分が生き残らず、戦力にならない俺を行かせたのか?
フラッグがなんであれリベロが最終ステージまでたどり着くのがこのゲームのセオリーであり常識だ。
俺はラズルシェーニエの攻撃を交わしながら様々な事を考えていた。
ヒデが自分のRPGを使う事よりも優先した理由。
ラズルシェーニエの向こう側に見えるリョウの姿。常に挟み撃ちする態勢でポジショニングを図る。
『シーナ!!いったん離れて!!』
リョウの指示で一度ラズルシェーニエとの距離をとり攻撃を仕切り直す。
攻略の糸口が見えない状況にリョウが思案の時間を要求したのだ。ラズルシェーニエは深追いしてくることなく、ステージの中央で動きを止めた。陸鳥ならば一気に間合いを積めてくるはずだ。
『リベロ不在じやあ成す術がないわね…。』
リョウの言葉を聞きながら、俺は様々な疑問と戦っていた。
ヒデの行動、そしてラズルシェーニエの動き。
俺はステージを見渡した。薄暗く視界は良くない。
しかし答えが見つかった。ラズルシェーニエの肩越しに見える扉を。
少し窪みになった場所にある扉は戦いの最中ならば見つけられない。
俺は左から回り込むように全力で走り出した。
『シーナ!!』
リョウが叫ぶが、俺はその扉に目掛けて足を止めなかった。ラズルシェーニエがその進路を塞ぐ。
間違いない!!
俺は再び距離をとりリョウの位置まで戻った。
『どうしたのシーナ!?』
リョウが俺に強い口調で詰問する。
『リョウさん!!』
俺はラズルシェーニエの後方にある扉を指差した。
『セーブポイントだ!!ラズルシェーニエはあの扉を守っている!!
だから深追いしてこないんだ!!』
俺の言葉にリョウは目を凝らしてセーブポイントを探した。
だからヒデは自分ではなくスピードプレイヤーの俺を行かせたんだ。
これでリョウも成すことが理解できた。
扉のある窪みに入ればもう逃げ場はない。
だから二人のうちどちらかが扉へ向かい、一人はラズルシェーニエを引き付ける。俺とリョウはお互いの目を見て頷いた。
リョウが再び右側へ旋回。俺は左側から回り込む。
ラズルシェーニエが反応した方が引き付け役。もう片方が扉へ向かう。
俺は意図的にラズルシェーニエへ近い進路をとった。俺にラズルシェーニエを引き付けるためだ。
リョウが抜けてほしい。いや…リョウをリタイアさせたくない。
ラズルシェーニエは案の定、俺に対応してきた。すでに弾切れしたアサルトライフルからサイドアームに持ち替えて首尾にあるセンサーを狙う。
サイドアームのコルトではラズルシェーニエの分厚い鎧を剥ぐことはできない。
ただ自分に的を集中させているだけの悪あがきだ。リョウが全力でステージを走り抜けている姿を確認した。
ラズルシェーニエが首尾のガトリングを強烈な爆裂音を発して連射を開始。俺は動いてひたすら回避する。
もう少しだけ時間稼ぎが必要だ。しかし、ラズルシェーニエの地獄のような攻撃に俺は身体中に被弾。
その場に倒れ込んだ。激痛走る左足の膝から下がなくなっている。
俺はすでにラズルシェーニエなど見ていない。扉にたどり着いたリョウの姿を確認。
『シーナ!!』
リョウが振り向き叫ぶ。俺は親指を突き上げた。
ラズルシェーニエのガトリングが何百発もの弾丸で俺の体を貫く。
俺が最後に見た光景は、リョウが後ろ髪を引かれるような仕草を見せながら扉を抜けた姿だった。
その直後、俺は安堵の気持ちになり、そして意識が飛んだ。




