ラズルシェーニエ 破壊 -3
フロア119
ポジショニングを変更して進んできたミッション。119階を上がった瞬間、メンバーの動きが止まった。ハイイーターの数がさらに増えている。
『ちょっと…どうする?』
先陣きってフロアを上がったリョウがヒデに指示をあおぐ。
『動くな!!…まだ動くな…。引き付けて一気に行くぞ…。』
ヒデがRPGを構えた。重火器で一気に道を開くつもりだ。
だがヒデの指示に反してダイキが乱射をしながら右に旋回して走り出した。
『おい!?ダイキ!!』
ヒデが怒号を吐く。
『僕が囮になる!!みんなは階段へ走れ!!』
ダイキがハイイーターを引き連れてフロアの隅に陣を取った。
『行け!!行ってくれ!!』
ダイキの叫び。50体のハイイーターが一斉にダイキへ攻撃を始めた。
ダイキの身体中から様々な部位が飛び散る。
『ダイキ!!』
リョウが叫ぶ。
『被弾した影響で僕はもうもたない…。ここは僕が引き受ける!!走れ!!後はたのんだぞ…。』
ダイキは片腕を失い、膝撃ちを喰らいその場に倒れた。しかし、残された腕でアサルトライフルを連射して最期の抵抗を見せていた。
『クッ…走れ…走れぇ!!』
ヒデか叫ぶ。ボロボロに身体中を蜂の巣にされるダイキ。それを眼前にしながら何もできない自分。
『シーナ…行こ…シーナ…行こ!!』
アサミが俺の腕を引っ張る。クソ!!まだ弾にも余裕があるダイキこそ生き残らなければならない。まず死ぬのは俺であるべきなのだ。アサミに引っ張られて階段に向かう俺にリョウが言う。
『シーナ!!これがトライアルなのよ!!切り替えて!!まだ先が長いんだから!!』
『後はたのんだぞ。』
ダイキの最期の言葉が耳に残る。くそったれ!!やってやろうじゃないか!!
怒りで頭に血が上った俺は、勢いよく階段を駆け上がった。
フロア135
ダイキのリタイアで四人となったエンドオブザワールドは、ギリギリの攻防でフロアを重ねた。
リョウの誘導にアサミが切り込む。初めの作戦はすでに破綻し、総力戦で道を開く。
俺は殿で前衛の動向を見ながら最後に階段を登るという繰り返しを行っていた。通常、リベロより後ろの位置にアバターSがポジショニングすることなどあり得ない。しかし、様々な常識がこのトライアルでは覆される。ヒデはバックアップのボランチの位置でリョウとアサミを援護していた。そして再び悲劇が襲う。
リョウがハイイーターの群れを引き付けて道を開いたはずであった。
だがアサミが持ち前のスピードで階段へ向かった時、リョウに引き寄せられたはずのハイイーターがアサミへと進路を変えた。囲まれるアサミ。
『ごめん!!』
アサミが叫ぶ。
『アサミ!!』
リョウの絶叫に近い声。
『リョウ、シーナ行け!!』
とヒデが絞り出したかのような声がインカムから聞こえてくる。
『さぁ!!こっちよ!!』
アサミがハイイーター達を引き連れてフロアの隅に引き寄せる。
『アサミちゃん!!』
俺の叫びに、
『わたしに構わずに行って!!みんな…信じてるよ!!』
アサミはそう言うとハイイーターに連射を始める。しかし、圧倒的なハイイーターの数には勝てずアサミの体は散り散りに引き裂かれ姿を消した。それを横目に見ながら、俺たちは階段を駆け登った。
『ごめん…!私がもっと引き付けていれば…!』
リョウが悔しさを露にして言う。
『余計な後悔はするな!!まだ先は長いんだ!!
いいか…ここからが本当の地獄だ。シーナ、前に出ろ!!』
ヒデがリョウを諭して、俺にリョウと共に前衛へのポジショニングを指示する。そう、次は俺の番だ。
最上階にはリョウとヒデが上がればいい。俺はリョウを追い抜かして再び最前線の誘導ポジションに躍り出た。
フロア145
満身創痍の中、3人でフロアを進めて終盤戦に突入した。
本来なら俺がすでにリタイアしていて、ダイキとアサミを含めた四人でこの場に立っているのが理想であった。しかし、このトライアルではプランニング通りにはいかない。
ほとんど無傷のリョウ、かなり被弾をしているがフィジカルの強さで持ちこたえるヒデ、残り弾の少ない俺の3人はギリギリのラインで厳しいミッションを進めていた。
リョウがハイイーターを引き付けてヒデが援護に入り、俺がフロアを進める。本来のフォワード(フォワード)、スナイパー、リベロといったオーソドックスなポジショニングに戻り戦いを展開していた。
このデット・タワーは長丁場のミッションであり、こうやって少しずつ戦力を削り最上階に向かう過程で戦力のすべてを奪っていく胸くそ悪いミッションである。
当初のプランニングなど嘲笑うようなハイイーターの配置や数がパーティーの戦力を一つずつ奪う最悪のステージだ。もちろん3つあるトライアルすべてに共通していることではあるが、特にこのデットタワーはフラッグにたどり着けないという悪意に満ちたステージである。
エンドオブザワールドのメンバーでは明らかに早すぎた…。
これは初めからわかっていた。俺とアサミがパーティーのバランスを崩しているからだ。
基本的にトライアルとは【虐殺の門】へのオーディションである。このオーディションを成功しなければ、本番のステージに立つことはできない。このオーディションに成功するために、ハイプレイヤーという資格が不可欠になる。だがリョウやミオのような天才でもなければ、この資格なしでは非常に厳しいミッションである。
現に連隊最大のスピードをもつアサミもリタイアしてしまった。残り5フロア…。リタイアして犠牲になるはずの俺が、リタイアできない状況に大きな迷いが生まれていた。
フロア149
『なにここ…!?』
リョウが絶望の声色で呟く。フロアにギッシリと詰め込まれたハイイーター。その数200といったところか…。
そのすべてのハイイーターの銃口が俺たち3人に向かれていた。
『まだ動くなよ!!』
ヒデが俺とリョウに指示を飛ばす。フロアを上がりきって一歩でも踏み出せば一斉にハイイーターの攻撃が始まる。
『ヒデ!?』
叫びにも似たリョウの問いに、
『いいか…一気に走り抜けろ…振り向くな…行くぞ!!』
とヒデはRPGを構える。ちょっと待て!!待ってくれ!!俺はヒデを制止した。
『どうやって抜けるんですか!?』
俺の問いかけにヒデはRPGの構えを解かずに口を開く。
『デットタワーがトライアルの中でも一番難易度が高い理由が…この最後のハイイーター地獄だ。
ここまでメンバーを一人ずつ失い、あともうひとつって場面で絶望的な状況を浴びせられる…。
レイニーデイズのトライもここで全滅した。だがな…あの時を思い出すとこの手があったと後悔していたんだ。
いいか…リョウとシーナ。決して連隊の連中にお前たちを責めさせやしない。
だがベストは尽くせ…。上のフラッグに二人の力を合わせて全力で立ち向かえ!!行くぞ!!』
ヒデはそう言うとハイイーターの群がる真ん中にRPGを発射した。大きな爆裂音と共に爆発の火花と炎がフロアを被う。その混沌の中、上に向かう階段への道が開いた。
『行け!!』
ヒデが叫ぶ。ヒデはRPGからショットガンに装備を持ち変えた。
『ヒデ!!』
リョウに躊躇が見えた。
『行くんだ!!誰かが囮にならなきゃお前たちにハイイーターが襲いかかる!!俺が引き受ける!!行け!!』
ヒデはハイイーターの集中砲火の雨を身体中に受けながら、それでも倒れず連射を続ける。
『行こう!!』
俺はリョウの腕を掴み、フロア奥へ走り出した。
『必ずコンプリートしてやる…!!』
リョウが叫んだ。
そうだ…。必ずコンプリートするんだ!!3人の犠牲を払い、俺とリョウは最後のフロアへと駆け登った。




