PYGMALIO -3
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「沖縄に連れていってやる」のアキラの言葉に俺は浮かれ気分でついてきた。
もちろんキョウジと会うことは知っていた。だが初めて飛行機に乗っての旅だ。
旅行気分でアキラについてきた。
だがまさか…こんな事実をつきつられるとは想像もしていなかった。
俺はツネの顔を睨むように見る。
「なんだよ…。やんのか!?」
ツネは睨みかえす。
違うよ!!別に喧嘩を吹っ掛けてるわけじゃないよ!
今の話について訴えているんだよ!!すると病室から、
「ツネとレベル3。入ってこい。」
とキョウジの声が聞こえる。俺は病室に入り、
「今はレベル6ですよ!!」
と怒鳴る。
「おい、あまり大声だすな。」
とツネに諭されたが俺は興奮していた。
もちろんレベル3って言われたのが原因ではない。
この世界でレイニーデイズ連隊は有名で、ネットの世界ではメンバーそれぞれに『通り名』みたいな異名がつけられていて、俺の異名が『レベル3』なのだ。
アキラは『ヴァンダルハーツのアキラ』
ハルカは『帝国最強の女』
ツバサは『スティンガーのツバサ』
ヒュウガは『狙撃主』
ヒデは『フィールドマスター』
リョウは『剣姫』
ダイキは『ゲームメイカー』
アサミは『神速』
ナギサは『ファンタジア』
ミオは『アサルトガール』
アツヒロは『ガンランナー』
シゲは『ゴースト』
で…俺は『レベル3』。
なんじゃそりゃ!?
もうレベル上がってますけど!!
非常に気分が悪い。
まぁ…今はそんなことはどうでもいい。
「どうもシーナです。今のお話はマジですか?
アンデッド者がガーディアンだって話…?」
俺はキョウジに聞いた。
「アキラ、お前のメンバーはかわいいな。まだ理想の中で生きられる。羨ましい。
普通に考えればある程度の着地地点を見極めれる。
しかし、シーナだったか?こいつは現実を突き付けられても受け入れ切れないまっすぐさがある。
その気持ちがあるうちは、まだまだ上を目指せる。俺たちが忘れちまったその気持ちを忘れるな。」
キョウジが言う。
おい!!質問に答えろ末期ガン!!
俺を『レベル3』と呼ぶなら、あんたは『ステージ4』って呼んでやるぞ!!
俺のイライラはマックスだった。
だって…リョウの目標であるシュウを迎えにいくってミッションが破綻しかねないのだから…。
「けっして確定的な事案ではないが、間違いなくガーディアンはアンデッド者の成れの果てだ。」
アキラが警察官らしく事務的な言い方をする。
「だからどういうことですか!?」
俺はアキラに詰め寄る。
「レベル3。まぁ落ち着け。」
キョウジが俺をたしなめてアキラに聞く。
「お前はなぜ気づいた?」
「俺はこれまでガーディアンに会ったのは3回。
エンカウント率の低いガーディアンに出会うのすら難しいのに、そのうちの一人が知り合いだった。
奇跡的な確率での遭遇だった。マリオネットというパーティーのリーダーだったシュンジというヤツで、腕のいいスナイパーだった。
何度かレイニーデイズに招聘したからすぐにわかったよ。その時にガーディアンとはアンデッド者の成れの果てだと確信した。」
アキラは伏し目がちに言う。
いや、意味がわからない!!
「じゃじゃじゃあ…FRONTIERのホスピスで収容されているアンデッド者はどうやってフィールドに存在することができるんですか!?」
俺はさらに詰め寄る。キョウジはベッドから上半身を起き上がらせた。
そして俺をしっかり見据えて口を開く。
「なんの証拠もない。ただ俺たちが目撃したことを要約した憶測にすぎん。
だが、俺もはっきり見た。シュウの姿をな。カナダのパーティーに招聘された時にシュウは現れた。そしてシュウ一人に全滅させられた。
なぜアンデッドしたプレイヤーがフィールドに現れるのか…。
限りなく正解に近い憶測だが…FRONTIERのホスピス自体がステーションであるに違いない。
お前はホスピスに行ったことがあるようだな。だったら見たはずだ。
アンデッド者に繋がれた無数の管の先にある機械を。あれは生命維持装置であり、端末でもあるんだ。
お前は今…様々な『なぜ?』が頭を巡っているだろう?逆に問う。お前の近親者にアンデッド者がいるのか?」
キョウジの問いに、
「大切な人の…大好きな人の兄がシュウさんなんです!!」
俺の答えに、
「そうか…いい理由だ。シュウの妹…剣姫のリョウだな。お前はリョウが好きなのか?」
キョウジの問いに俺は頷く。
「わかった。すべての真実をお前に教えてやる。」
キョウジはツネに目で促す。ツネが俺に対して口を開く。
「今までFRONTIERのアンデッド者は3000人を少し越えた人数だ。
まぁ世界中のFRONTIER全プレイヤーの数から言えば1%にも満たない。
そのうち帰還者はゼロ。死亡確認者は約半数だ。なにごとも危険は生じるって程度の認識でしかない。
その死亡者の割合は、家族による生命維持装置を外すというものが半数。やはり介護も負担がかかるからな。
あとの半数は自然死。ここまで言えばわかるか?アンデッド者ってのは死んでいるんだよ。
はっきり言った方がいいか?アンデッドした者は死んだ状態を無理矢理生命維持装置で生かさせられている傀儡に過ぎないんだ。
体はホスピスにある。しかし、脳はFRONTIERに管理されている仮想空間兵士でしかないんだ。
だから帰還することはないし、死んでいる人間の末路は生命維持装置を外した時点でジ・エンドってことさ。
もう一度言う。アンデッド者は死人なんだ。再び死人が甦ることなんてありえない。
ここまでは理解できるか?レベル3。」
俺はもうやり場のない怒りがこみ上げてきている。爆発しないように自分を諭し、ツネに問う。
「なぜ?なぜFRONTIERはアンデッド者をつくりガーディアンをさせているんですか?」
「そんなこと知るか。」
ツネのこの心ない一言に俺はキレた。
その矛先はアキラだ。
「あんたは知っていたんだな!?リョウさんの気持ちを知っていて、何食わぬ顔をして兄貴分面をしていたんだな!?最低だな!!」
アキラは俺を一瞥して答える。
「お前は何様だ?リョウは知っているんだよ。アンデッド者が二度と目を覚まさないって事を。
もちろんガーディアンの件まで知り得ないだろう。しかし、あの大手町のホスピスでも毎日一人は死亡確認されている。
その現実の中でリョウは『シュウを迎えにいく』って信念を変わらず貫いている。
そんなリョウになんて言えばいい?そこまで言うならお前がリョウに告げろ。
『シュウはもう死んでいる。だから二度と帰還しない。その『生命維持装置』をはずして早く楽にしてやれ』とな。」
アキラの辛辣な言葉に俺は返す言葉が見つからなかった。
だが俺は必死に反論する。
「でも…まだそれが真実と決まったわけじゃない。だって…そんなことしてなんの意味があるっていうんだ!?
プレイヤーを無理矢理アンデッドさせて戦わせるなんて…犯罪じゃないですか!?」
俺の言葉にアキラが答える。
「確かにな…証拠なんてなにもない。俺たちプレイヤーの目撃情報だけだ。
しかし、俺たちのように『見てしまった』者はガーディアンになっちまったと考えるのが当然じゃないか?」
再び黙る俺。キョウジがそんな俺をいさめるかのように口を開く。
「レベル3、なぜFRONTIERがアンデッド者をガーディアンとして『運営側』の兵士としてフィールドに立たせているのかはわからない。
しかし、これだけは言える。間違いなくシュウは、いやアンデッド者はガーディアンだ。
お前の大切な人の兄貴がガーディアンとしてひたすら戦わされている。
レベル3、お前になにができる?お前にリョウが救えるか?ここからはお前がお前の答えをみつけろ。
それが上位パーティーに属するプレイヤーの宿命だ。
まぁ…その答えを見つけることができないまま、沖縄の病室で死を待つバカなプレイヤーも存在している。
だから焦ることはない。アキラと俺は『【虐殺の門】のコンプリート』を約束した。俺たちの答えはあの門の先にあるんだ。
お前の答えはどこにある?」
俺の答え…。それはリョウと共に【虐殺の門】へいくことで見つかるのかもしれない…。ここでツネが口を開く。
「そろそろ切り上げてくれ。さっき抗がん剤を入れたばかりだ。休ませてやってくれ。」
アキラはハッとした表情になり、
「すまなかった。長居しすぎた。キョウジ…約束は守る。」
と言って俺を促し病室の出口へと向かった。
「なぁアキラ。」
キョウジがアキラを呼び止める。
「なぜお前は俺をここまでして引き入れようとする?いいプレイヤーは沢山いるはずだ。」
アキラは振り向きもせず、
「キョウジ…コンプリートにはお前の力が必要だ。ただそれだけだよ。」
と言い残し病室を出た。俺はなんだかこのまま病室を出られない。まだキョウジに聞きたいことがたくさんある。
「あとは俺が引き受ける。」
ツネが俺に退室を促す。渋々それに応じる俺に、
「レベル3、【虐殺の門】での再会を楽しみにしているぞ。」
とキョウジの声が背中に聞こえる。俺は振り返り、
「レベル6だ!!」
と反論して病室を出た。




