PYGMALIO -2
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アキラは教えられた病室へと向かうと、そこにはベッドに横たわるキョウジの姿と、同じくブラックダリアのリベロだったツネが傍らに立っていた。アキラを見たツネは、
「キョウジ、客だ。」
とベッドのキョウジに声をかける。
「久しぶりだな、ツネ。」
アキラはツネに軽く挨拶をする。
「短時間にしてくれ、抗がん剤治療中であまり体力がなくてな。」
とツネは言い病室を出た。アキラはキョウジのベッドに近づきその姿をまんじりと見る。
少し窶れて見えるが、彼が今この病院のベッドに横たわっているのが不思議なぐらい若々しく昔と変わらないキョウジがそこにいた。
「ヴァンダルハーツのアキラ。まさかここにたどり着くとはな。」
キョウジはアキラの姿を確認して言葉を発した。
「キョウジ…まさかこんな形で再会するとはな…。」
アキラはキョウジの目を見て言う。
「癌か…?」
アキラは聞く。
「ああ、肝臓癌が肺に転移している。もう延命と緩和措置しかない。医者からはあと1年だといわれたよ。」
キョウジは口許に少しの笑みを浮かべて言った。
「そうか…それでツネがお前の世話をしているのか?」
アキラの問いに、
「律儀な奴だよ。未だに俺をパーティーリーダーだと慕って世話をしてくれる。
那覇ステーションまでアイツが俺の車椅子を押して連れていってくれる。感謝しているよ。」
とキョウジは答えた。黙るアキラ。次の言葉が見つからない。
「なぁアキラ。初めてFRONTIERに登録した時のことを覚えているか?」
キョウジはアキラから目線を外し、大きな窓から外を眺める。アキラは黙って頷く。キョウジは続ける。
「あの時のドキドキ感は今も忘れない。俺のクソみたいな人生…きっとなにか素晴らしい事が始まる…そんな気がして興奮していたよ。
アキラ、お前はどうだった?」
アキラは記憶の糸をたどる。7年前、仲間と一緒にFRONTIERへ登録した日のことを。
「俺は、アバターMを選んだ。よくわからなかったんだ。
だから平均的なアバターを無難に選んだんだ。そうしたらさらにファーストポイントを割り振らなければならなかった。
これもよくわからなかったから平均的にパラメーターを振った。」
アキラは天井を見ながら思い出すようにそれを言葉にする。
「俺も同じだよ。」
キョウジは、アキラに目線を戻して言った。
キョウジは再び目線を窓に向け、
「アキラ、あの頃はFRONTIERがどんなものか未開な時代だったな。
そんな世代の奴が未だにあのゲームをクリアしようとしていることに強い期待と嫉妬を覚える。」
と言った。
「嫉妬?」
アキラは聞き返す。
「ああ、うらやましいよ。FRONTIERってのは仲間との絆で成り立つゲームなんだ。
しかし、長くやっているとその絆に亀裂が入る。個人の方向性が出てくるからな。一途にコンプリートを目指す者。
コンプリートを諦め小銭稼ぎに走る者。ただゲームとして楽しむ者。様々だ。
ブラックダリアはS級になって、トライアルの失敗を重ねるうちにコンプリートを諦めてしまった。
この段階でパーティーとして成立しなくなるんだ。
だが、お前たちレイニーデイズは方向性は変われどコンプリートへの想いは変わらなかった。
だから今になって再びひとつになることができたんだ。
シュウ…。あの男が今もお前たちを繋ぎ止めているんだろう。
そう思うと強い嫉妬が俺を襲うよ。ヤツはこの国のプレイヤーの中では歴史に残るパーティーリーダーだった。
お前のような『曲者』ばかりを引っ張っていたプレイヤーだからな。
アキラ。お前はヤツのどこに惹かれた?
いや、答えなくていい。
俺にはわかる。理由なんてないんだからな。シュウはお前たちを同等に見ていた。
けっしてお前たちを支配しようとしなかった。シュウにとってお前たちは本当の仲間だったんだ。
それがシュウの魅力なんだ。
何度かシュウと話をする機会があったが、アイツが俺のリーダーだったらきっと今もお前たちのように絆で繋がれた仲間に囲まれながら、このベッドで死ねるんだろうと思うよ。
アキラ、お前は俺に『目的を果たしてやる』と言った。その言葉が俺に、お前たちが【虐殺の門】へたどり着くまで意地でも生き抜いてやる…という気持ちにさせる。だが無情にも俺にはあと1年しかない。いや…あと1年以内に死ぬ。
だから約束を守れないかもしれない。
しかしアキラ。俺がお前たちの【虐殺の門】に参加したならば、俺のFRONTIER人生すべてを賭けて必ずコンプリートさせてやる。」
と少し強い言葉で言った。
アキラはまっすぐキョウジを見て言葉を放つ。
「キョウジ、俺たちの戦いに終止符を打とう。
俺たちの青春をすべて捧げたこのFRONTIERを俺たちの手で決着をつけるんだ。
それまで、死ぬことは許さんぞキョウジ!!俺とお前…ピグマリオは【虐殺の門】で死ぬためのジョブなんだ。
このままお前は死ねるのか?いや、死ねるわけないさ。必ずコンプリートする。
俺の仲間とお前と共にな。そしてお前の死に際には連隊の仲間達がこのベッドを囲んでやる。だから安心して死ね。
だが死ぬ前にしっかり仕事はしてもらうぞ。それまで勝手に死ぬことは断じて許さん。
いいかキョウジ。一緒にコンプリートするんだ。それがこの国で初めてハイプレイヤーになったお前の使命だ。
そして責任だ。この国で初めてS級になったパーティーのリーダーの生命力を俺は信じている。
約束する。年内に必ずお前を【虐殺の門】へと招聘する。
頼む…。それまで生きてくれ。俺のパーティーを【虐殺の門】へと導いてくれ…。
使命と責任を果たせキョウジ…!!」
アキラの言葉にキョウジは口許に笑みを浮かべる。
「ヴァンダルハーツのアキラ。いや…レイニーデイズのサブリーダーアキラ。お前こそ…今の言葉を忘れるなよ…。」
キョウジはアキラの目をまっすぐ見て言った。
「もう少しいいか?」
アキラが聞く。
「ああ、今日は調子がいい。」
キョウジが答える。
「お前が見たシュウはどんな様子だった?」
「シュウか…。お前はまだアンデッド者の末路がわかってないようだな。アンデッド者とは…。」
「ガーディアンだろ。」
「フッ…わかっているのか。」
「俺もこの世界が長いもんでな。」
「そう、シュウはガーディアンとなりS級の守護者として俺たちの敵として戦っている。」
「シュウは…見た目はそのままか…?」
「少し装備は変わっているが、あのフェイス(ヘッド装備)は相変わらすだ。」
「そうか…わかった。」
この二人の会話に腰を抜かしたのは病室の外で聞き耳を立てていた俺だ…。引っくり返る俺に、
「大丈夫か?」
と同じく病室の外で待機するツネが俺に問う。
大丈夫じゃないよ!!ガーディアンがアンデッド者だって!?
なんなんだ!?
なんなんだよ!!
頭が混乱してくる。俺はパニック状態に陥っていた。




