DILEMMA -11
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翌日、R-SフィールドNO21にてミッションを開始。
アキラはスグルをスキッパーのポジションにつかせた。フォワードワントップの俺の援護をスグルが行う。
ボランチのツバサがいつものように指示を飛ばす中、バックアップポジションのアキラが俺の横につきワンツーマンで指導にあたる。
『スグル!いいぞ!』
アキラがスグルを褒める。俺なんて一度も労いの言葉すらかけてもらったことがない。
それだけスグルの動きは素晴らしい。前衛とボランチの間を巧みに移動しスペースを作るスグル。様々なパーティーとのミッションをこなしているスグルだからこそ、状況に応じた動きができる。俺も負けていられない。スグルが連射であけてスペースに走りこみ前進する。
『いい飛込みよ!』
ツバサの言葉に気をよくした俺はさらに前を目指す。すると、
『出すぎだ!もっと周りを見ろ!』
とアキラに怒られる。この辺の微妙なポジショニングが難しい。しかし今日はスムーズにミッションが進む。これはスグルの動きが大きい。初めてのS級ミッションとは思えないほどの大胆でかつ繊細な攻撃に感心してしまう。あっという間にガトリング部隊までたどり着いた。
『どうします?』
スグルが指示を待つ。ハルカがジャベリンを放ちガトリングを5機爆破。残りの2機を俺とアキラで倒した。
『うわーー!すごい!一気に終わっちゃいましたね!』
スグルが驚く。ダブルリベロの利点は重火器装備者が2人いることで、フラッグ戦にはツバサのスティンガーが残っている。だからこのガトリング部隊で時間をかけずに重火器で排除することが可能なのだ。
『よし、いつも通りシーナは退路!』
俺はアキラが言い終わる前に退路ルートへ走っていた。もう言われなくてもわかっている。俺がフラッグステージに行っても役には立たない。経験値を稼ぐためにはここからは退路ルートなのだ。スグルははじめてのS級フラッグとなる。スグルはきっと笑顔で俺にこの体験の話をするだろう。彼の嬉しそうな顔を想像しながら、俺は退路確保に向かった。
「それがね!すごい速いんだよ!」
スグルがロビーで俺に興奮気味で話す。フラッグが陸鳥だったようで、その殲滅に成功したらしい。
「いい動きだったわよ。」
ハルカがスグルを労う。
「ありがとうございました。いい経験になりました。」
スグルは頭を下げる。
「また招聘するから頼むぞ。」
アキラがスグルに一言放ち出口へ向かった。
「じゃあ私たちも帰りましょう。」
ハルカに続く俺とスグル。
「この後、遊ぼうよ。」
スグルが俺を誘うが、
「いや・・・ちょっと約束があるんだよね。ごめん。」
と、断る俺。
「あ、そうかリョウさんと会う日だったね。了解!またメールするね!」
と、スグルはハルカに頭を下げ俺に軽く手を挙げて新宿の雑踏の中に消えていった。
「今日は私も行くから。お邪魔?でもアキラも今頃、電気街のスタバに向かっているはずよ。」
ハルカの言葉に驚く俺。お邪魔ですよ・・・。だが、なんで今日に限って2人はお邪魔しにくるんだ?
「アキラがちょっとリョウと話したいんだって。」
アキラがリョウに?なんの話だろう。俺はハルカのメルセデスの助手席に乗りこみ電気街に向かった。
スタバにつくとすでにアキラがリョウと同じテーブルについていた。俺はハルカと一緒にカウンターでコーヒーを買い同じテーブルに着席。
「3人そろってなんかあったんですか?」
とリョウの不思議そうな顔。
「いや、お前に少し話があってな。」
アキラが言う。リョウが俺の顔を見る。首を傾げる俺。
「シュウのこと。」
ハルカが続く。黙って聞くリョウ。
「シュウはまだリアルダメージのアザが出てるのか?」
アキラが聞く。
「はい。たまに出ます。」
とリョウ。
「そうか、意識は戻りそうか?」
とアキラ。これは愚問だ。アキラもわかっているはず。
「きっと【虐殺の門】で兄は私を待っているはずです。迎えにいけばきっと兄は帰ってきます。」
リョウは決意の表情をしている。
「わかった。邪魔したな。」
と席を立つアキラ。
はぁ?ちょっとまて!それだけ話すためにきたの?
俺はアキラの手を引っ張り席に座らせた。
「なんだ?」
不機嫌なアキラ。なんだはこっちの台詞だ。
「スグルはどうするんですか?」
俺はこれが気になっていた。
「あ、そういえばシーナの友達を招聘したんだったね。」
リョウが言う。
「ああ、いいプレイヤーだ。候補に入れとく。」
と簡潔にアキラが言った。
「候補ですか・・・。」
俺の態度に、
「不満か?」
とアキラが言う。不満ではない。どちらかといえばスグルはこのままでいいと思っている。
本当に楽しそうな笑顔で去っていったスグルを思い出すとその気持ちは強くなる。彼はゲームを楽しんでいるのだ。
だが我々は楽しむ目的でこのゲームに挑んではいない。
目的が違う者を無理やりこちらに引っ張ることはしてはいけない。
これからの貴重な時間の使い方がまったく変わってくるからだ。
しかし今日のスグルの動きは素晴らしかった。ツバサの下につけばもっと洗練されたプレイヤーに育つだろう。
これはきっとアキラも認めているはずだ。ここに俺の複雑な想いが入ってくる。一緒にプレイしたい、だがそれはスグルのためにならない。ハルカが言う。
「シーナ、残りの一人はその時の状況にもよるの。
だから何人かタイプの違うプレイヤーをストックしておかなければ対応できない。
この一枠を決定するのは【虐殺の門】へのトライの直前がベストだわ。答えを急がないで。」
と。
そうか・・・。ならいい。
「スグルを完全にこちら側に入れるのではなく、たまに招聘してレベルを上げさせる。これでお前は満足だな?」
アキラは俺の腹を完全に読んでいた。
「はい。」
俺は頷いた。
「とにかく、お前は自分のレベルアップに専念しろ。わかったな。」
アキラはそう言い残し去っていった。結局アキラがリョウに話したいことってなんだったんだ?
「心配なのよ。アキラなりにね。」
ハルカがつぶやく。
心配?
「アキラだってリョウが中学生の時から知っているんだもの。
彼なりに妹のような感覚にあると思うわよ。なんで自分のところではなくヒデのパーティーを頼ったのかって言ってた。
アキラって表現力が乏しいから、こうやって顔を見るためだけなのに話があるとか理由をつけないと実行できないの。かわいいとこあるでしょ?」
嬉しそうにハルカが言う。
かわいくはない。だがちょっといい話だ。
リョウは少し切ない顔をした。きっとアキラの気持ちがうれしかったに違いない。
「お腹空いたわね。なんか食べに行かない?なんでもご馳走するわ。
私の息子と妹に。」
ハルカが席を立ち、俺たちもそれに従った。




