DILEMMA -10
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「やはりリアルダメージは本物だったってわけか・・・。」
ダイキが深い溜息をついた。電気街のスタバで落ち合ってから、キョウジの言葉をダイキに伝えた。
「でもS級でソロのプレイヤーを見ただなんて話聞いたことがないよ。」
ダイキの表情は冴えない。
この話は信用に値するのか?俺の中でも疑念が膨らむ。
しかしキョウジの虚言である可能性は低い。だってキョウジが俺たちにあんな嘘をつく意味や理由がないからだ。
「やはりリョウさんには言わないほうがいいですか?」
俺の問いに、
「うん。アキラさんの言うとおりまだ黙っていたほうがいいね。
亡霊とはよく言ったものだ。このことをリョウが知ったら本当にS級をさ迷う亡霊になってしまうだろう。
彼女は【虐殺の門】自体には強い思念はない。あそこに兄貴がいると信じているんだ。
このことは僕も他言はしないよ。だが僕なりにも情報を集める。S級でのソロプレイヤーの目撃情報をね。」
とダイキは端末をいじりながら答えた。
翌日、店が終わり閉店準備をしているとアキラがやってくる。俺はナギサと2人で洗い物の山と格闘していたが、やはり呼び出される。そこでアキラが思いもよらないことを口に出した。
「最近、噂になってる傭兵がいる。一度招聘してみようとおもうんだが。」
「どんなプレイヤー?」
ハルカが聞く。
「通称死神。アバターが死神のような風貌をしているらしい。
レベルは5だがかなりの実力らしく、どのポジションでもこなせるオールラウンダー系のプレイヤーだそうだ。」
スグルだ!
さすが複数のパーティーから専属契約される傭兵である。
最近じゃあスケジュール調整に学校の時間まで費やされる人気のプレイヤーにまで成り上がった。
「そのプレイヤーって・・・。シーナの友達じゃない?」
ハルカが言う。前にスグルのことを話した。
「はい。親友です。」
俺はスグルとのこれまでの経緯を話した。
「それじゃあ話が早い。お前が責任もって招聘しろ。」
アキラが言うが、
「でもスグルは忙しいんで・・・。」
と言い返す。これは本当だ。
「無理やりにでも引っ張ってこい!いいな!」
アキラお得意の強引な説得。
「まあ、話してみますけど・・・。」
と言うしかない。だがスグルともう一度ミッションしたいと思っていた。お互いスケジュールが合わなくて数回、下位ミッションを遊びで回ったぐらいだ。本格的なミッションは最初のハングリースパイダーの招聘以来ない。
スグルはすごいプレイヤーだ。ナギサに近い。前衛にいたかと思えば、後衛まで下がりバックアップに転じる。スナイパーというポジションを深く理解している証拠なのだ。スキッパーからボランチ。前衛に出たら両翼のどちらかに即座に判断して飛び込む。彼から学んだことは大きい。
「うん、ちょっと真剣に招聘してみます。」
俺はアキラにそう言いなおした。
土曜日、スグルにメールをする。
『一度、俺の働く店に来ない?おごるからさ。』
と。すぐにスグルから返事が来る。
『いいの?やったーーー!ミッションが終わったら行くよ!でも緊張するな・・・。』
これでお膳立ては出来た。俺も昼間にミッションを終え、出勤して開店準備をする。
少し緊張している。だって俺が自分の親友に招聘するのだ。
なんて切り出そう・・・。
開店して数時間。10時を回ったところでハルカが厨房に顔を出す。
「来たわよ。」
俺は店のカウンターに出る。
「シーナ!来ちゃったよ!」
スグルの嬉しそうな笑顔。
「いらっしゃい。」
俺はカウンターの一番隅にスグルを座らせた。
「なに飲む?」
俺の問いに、
「うーん・・・。カルアミルク。」
とスグル。ナギサがロンググラスにカルーアとミルクを配合し、氷を浮かすようにかき混ぜる。
出されたカクテルを一口含んだスグルは、
「こういう店は初めてだから緊張するね。」
と言う。本当に緊張しているのは俺だ。いつもは楽しく気兼ねない親友も、今日は少しぎこちなく接してしまう。
「いつもシーナと仲良くしてくれてありがとうね。」
と空気を察したハルカがフォロー。
「いえ、こちらこそ、いつもお世話になっています。」
とスグル。育ちのよさが見える。
「ゆっくりしていってね。」
と俺はスグルに言い、一旦厨房に下がる。
さて・・・どう攻めようか・・・。
チラッとカウンターを覗くとナギサがスグルについていた。楽しそうに喋っているスグル。
2杯目のカルアミルクを作るナギサ。この光景が俺にプレッシャーをかける。
よし・・・ここは思い切ってストレートに切り出そう。
と、思った俺の決意を覆す来客・・・アキラだ。アキラはハルカに目で合図されスグルの隣にドカッと座った。
おいおい・・・!?
「お前がスグルだな?」
といきなり声をかける。
「は、はい。あなたはどちらさまでしょうか?」
明らかに緊張の表情のスグル。
やばいやばいやばい・・・。
「ヴァンダルハーツのアキラといえば理解してもらえるか?」
とアキラ。
「えーーー!あのアキラさんですか!?お会いできて光栄です!」
アキラの素性を知ってスグルの顔が笑顔に戻った。俺は急いでナギサに替わりこの2人の前についた。
「もうシーナ!驚かせないでよ!まさかアキラさんに会わせてくれるなんて!」
スグルは嬉しそうだ。
「えっと・・・ちなみにこちらの女性はここのオーナーでハルカさんといって・・・。」
「やっぱりーーー!あのハルカさんだよね!そうじゃないかと思ってたんだ!」
「えっと・・・あとスグルにカクテル作ったこちらの女性はナギサさんで・・・。」
「うそーーーー!【虐殺の門】を抜けたナギサさん!?す・・・すごい店だね!
この国を代表するプレイヤーが揃っちゃってんじゃん!」
俺とスグルのやりとりを笑いながら聞くハルカとナギサ。ここでアキラが口を開く。
「ところでスグル、お前・・・男?女?」
「男だよ!」
俺が言う。しかもタメ口で。だいたいスグルって名前の女がいるか!!
「だよな。で?シーナ。どこまで話した?」
アキラが俺に聞く。
「いや、まだなにも・・・。」
不思議そうな顔をするスグル。
「そうか。スグル、単刀直入に言う。ヴァンダルハーツとして正式にお前に傭兵として招聘のオファーを出したい。
報酬は15%。端末料はうちがもつ。」
あっさり言うアキラ。もう俺の出番はない。
「光栄です!ヴァンダルハーツからのオファーだなんて!もちろんお受け致します!」
あっさり決まった。
「明日、ミッション出れるか?」
アキラの問いに、
「明日は・・・・うん・・・大丈夫です。」
と少し躊躇が見られた。
「よし、じゃあ死神の戦いを見せてもらうぞ。」
アキラはグラスをスグルに向け、スグルもそれに合わせた。
アキラはスグルにどんなポジショニングをさせるのだろうか。
この後もアキラとスグルはいろいろな話をしていた。
閉店後スグルと一緒に俺の部屋に移動。その間もスグルは興奮していた。
ヴァンダルハーツからの招聘である。この国のトップのパーティーリーダー直々のオファーはスグルにとって今までのプレイヤー人生最高の傭兵経歴に刻まれるであろう。今後、傭兵としてこの招聘がプラスになることは確実であり、ビジネス的にも大いに影響をもたらすことになる。
だが俺はアキラの腹が見えない。
レイニーデイズ連隊にスグルを入れるつもりの招聘なのか?
いや…アキラは様々なプレイヤーを試している。この連隊に一番大切なのは裏切らないプレイヤーの構築である。すでにベテランの経験をもつ現在のメンバーは、なんらかのトラブルがなければ最後まで連隊を維持できる信頼がある。しかし、これから選定する最後のひとりは、最後まで一緒に戦う信頼性が問われる。
途中でリタイアされたら、今までのパーティー構成を破綻させる状況になりかねないからだ。しかも、最後のひとりはバックアップメンバーであり、アタック部隊になることはない。
ゲームという概念では考えられない非常にストイックな要求をしなくてはならないのだ。
ツバサやキョウジのように、このゲームにおいて絶望を味わったプレイヤーならばそれを受け入れやすいのかもしれない。
俺ははしゃぐスグルの笑顔を見た。
いや…スグルはFRONTIERを楽しんでいる。この連隊に加われば、きっと楽しくなくなる。
だからスグルはスグルの道をいくべきで、巻き込んではいけない気がする。
俺は複雑な気持ちを抱えてスグルと一緒に歩いていた。




