DILEMMA -8
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帰りの車の中で運転するダイキがヒデに聞く。
「【虐殺の門】へ行ったとき、やはりアタック部隊にはリョウとナギサさんが入るのかな?」
後部座席にいるリョウが、
「当然じゃない!!」
と先に答える。
「ダイキどうした?」
ヒデが心配そうな顔で助手席からダイキの顔を見る。
「いや、気になるデータがあるんだ。」
と意味深な声で言う。
「なになに?」
アサミが楽しげに聞く。
「いや、確定的な事として聞いてほしくないんだけど、例のバーサーカー状態の件なんだ。」
ダイキの言葉に、俺は記憶の糸を手繰り寄せた。確かヴァンダルハーツのトライアルで、リョウとナギサが土壇場の状況で狂人的な動きでその場を回避したって事。そしてその時の記憶がまったくないって話だった。
さらにそれはアンデッドしたシュウにも経験があり、それを見たレイニーデイズによってバーサーカー状態と命名された。
「なんだお前まだこだわってるのか?」
ヒデの言葉に頷くダイキ。
「それがどうしたの?」
後部座席から前衛へ身を乗り出すリョウ。
「うん、ちょっと調べてみたんだ。気になってね。それで少し嫌な答えにたどり着いてしまってね。」
「嫌な答え?」
俺の反応に少し迷いを見せながらダイキは続ける。
「もう一度いうけど、これはあくまでも僕の見解に過ぎない。それだけは頭において聞いてほしい。
まず結論から言うとこのバーサーカー状態ってアンデッドの条件ではないのかな、ってこと。」
ダイキの言葉に一同声も出さずに聞いている。
「まずシュウさん。彼も経験しているのはみんな知っているよね。僕は他のアンデッドプレイヤーの関係者に数人だが聞いてみたんだ。
そうしたら、何人かのプレイヤーがこのバーサーカー状態を経験していることがわかった。
最近アンデッドしたガリバーのパク。何回かうちにヘルプしてもらってたからみんなも面識あるよね。
彼はA級でその状態に陥って、A級の難所であるR-AフィールドNO2でアンデッドした。あのフィールドの10連ガトリングはA級の大きな見せ場的なところだからね。これが『スイッチ』になったんじゃないかなって・・・。」
スイッチ?
「バーサーカー状態が発動したプレイヤーは、なんらかの『スイッチ』を押してしまうとアンデッドする・・・
こういうことか?」
ヒデの反応にダイキは頷いた。
「ちょっと!もっと詳しく説明しなさい!」
リョウが苛立ちを見せながらダイキに促す。
「アサミ、タバコを一本くれないかい?」
ダイキが後部座席に手を伸ばす。アサミはすぐさまマルボロとライターをダイキに渡した。
「最近、研究とレポート作業が忙しくて、ついついストレスでタバコに手を出してしまったよ。
あ、毎日じゃないんだ。こういう緊張した状況だと吸いたくなる。」
そういうとダイキはタバコに火をつけ一服吹かした。
「それで?」
ヒデがダイキに聞く。
「もうひとり情報があって、ワークフォースのジェニファーも同じ状況でアンデッドしたらしい。
海外の関連サイトで知り合ったアメリカのチャット仲間からの情報だ。」
ワークフォースはアメリカのS級パーティーだ。2年前にスナイパーの女性プレイヤーがアンデッドしている。
「彼女がアンデッドしたのはトライアルの【殺戮の館】。
その1年前のA級ミッションでバーサーカー状態を経験している。
このトライアルは失敗に終わったが、たったひとりフラッグまでたどり着いたジェニファーだけが帰還してこなかった。彼女もスイッチを押してしまったんだ。」
ダイキは2口タバコを吹かしてパワーウィンドウを空けて外に投げ捨てた。俺が聞く。
「つまりそのスイッチっていうのは、プレイ中になんらかのチェックポイントを踏むってことですか?」
頷くダイキ。
「ちょっと意味わかんないんだけど!」
怒鳴るリョウ。だが彼女はダイキの話を理解している。
彼女がわからないといったのは、なぜバーサーカー状態という現象が発動するのか。
もっといえばなぜ自分がその状況になったのかだ。
「すまない。僕が集めた情報は、アンデッド者の中に多数のバーサーカー状態を経験しているプレイヤーがいるってことだけなんだ。
そしてアンデッドって事態は難易度の高いミッションを超えた限られたプレイヤーに起こりやすいってこと。
だから、この前のヴァンダルハーツの【虐殺の門】でナギサさんが門を抜けた時、正直これがスイッチだったら・・・ってゾッとしたよ。」
ダイキの言葉が少し震えている。
「でもナギサさんのように、すべてのプレイヤーがアンデッドするわけじゃないはずだ。
他にもアンデッドする条件はあると思う。だけど2人に関しては心配な部分は否めない。
だって【虐殺の門】ほど最強のスイッチはないからね。シュウさんのように…。」
そういうとダイキはアサミにもう一本タバコを要求した。
「まて、一回落ち着かせてくれ。」
ヒデが腕組みをして思案のポーズをとる。
「さっきも言ったけど、これは僕の個人的見解にすぎない。
口にするにはまだ状況や証拠の足りない戯言の段階なんだ。
だけどエンドオブザワールドのみんなには話しておきたかった。
連隊が具体化して動き出し、おそらく【虐殺の門】へたどり着ける状況ができた。
だからそれまでの過程で、気になったことや発見したことを逐一報告しあっていきたいんだ。
せっかくクリアしたのにアンデッド者を出してしまう状況だけは絶対に避けなければならない。
この5人はパーティーなんて関係じゃなくて家族だと僕は思っているから。」
ダイキの言葉に俺は大きく頷いた。
「わたしは絶対、あの門を抜けるわ。例えアンデッドのリスクがあったとしてもね。」
リョウが確固たる決意を口にする。
「もちろんリョウにあの門を抜けて欲しい。僕はアタックメンバーにはなれないからね。
僕の想いを一緒に連れていってくれ。そのために僕は最強のバックアップを目指す。
そしてリョウをアンデッドさせないための努力をこれからも惜しまないつもりだ。
これはみんなに対しても同じ想いだよ。」
俺はダイキがこのパーティーへ向ける大きな想いに胸を打たれた。今は俺とアサミは違うパーティーへ連隊編成されているが、想いは一緒なんだ。
「とりあえずこのことはこの5人だけの話にしておこう。」
ヒデが言う。
それがいい。今の段階では余計な不安要素はないほうがいいからだ。アンデッドなんて世界中のプレイヤー、足を洗った元プレイヤーの全数の確率からいえばほんのわずかな数値だ。
たまたまリョウとナギサが確定ではない条件を経験したというだけの話なのだ。だが、やはりアンデッドは怖い。自分がアンデッドするのも怖いが、リョウや仲間がアンデッドしてしまうことを考えるとさらに恐怖感が襲う。今後、上位でプレイする以上、しっかり対策を練るいい機会なのかもしれない。
「とにかく、少しでも多くの情報を集めましょう!」
俺の言葉に皆が頷いた。




